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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)2301号 判決 1962年9月14日

原告 落合石匡商事株式会社

右代表者代表取締役 落合石正

右訴訟代理人弁護士 大塚一男

同 渡辺脩

被告 根本俊宗こと 根本幸夫

主文

1、被告は原告に対し、金二九四、八〇〇円およびこれに対する昭和三七年四月四日から支払いずみまで年六分の割合による金員を支払え。

2、訴訟費用は被告の負担とする。

3、この判決は仮りに執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、通称「根本俊宗」が、(1)金額金一八〇、〇〇〇円、満期日昭和三六年七月一五日、支払地東京都墨田区、支払場所三菱銀行押上支店、振出地東京都葛飾区、振出日昭和三六年六月一四日(2)金額金一一四、八〇〇円、満期昭和三六年八月一五日、振出日昭和三六年六月一五日、その他の手形要件(1)に同じ、以上二通の約束手形を振り出したことは当事者間に争いがない。

原告は、この「根本俊宗」という氏名は被告(根本幸夫)が取引上用いている通称である、と主張するに対し、被告は、右氏名は被告が代表取締役をしている訴外日清産業株式会社が取引上用いている通称であつて、被告のそれではないと争つている。つぎにこの点について考察する。

二、およそ、手形上に署名または記名された特定の名称が、特定の者の通称であると認められ、従つてその者が手形行為者であると認定されうるためには、表示されたその特定の名称によつて、手形行為者の同一性が、具体的な当該手形行為、それ関連にする具体的事情および行為者の主観のいかんを問うまでもなく、客観的に識別されうる場合はもちろんのこと、具体的な当該手形行為、それに関連する具体的事情、手形面上の記載および取引上の一般の通念等を綜合してみることによつてはじめて識別されうる場合であつてもよいと解される。

これを本件についてみるに、甲第一、二号証≪省略≫を綜合すると、つぎの事実を認めることができる。

(イ)訴外日清産業株式会社は、昭和三二年頃までは、三菱銀行大伝馬町支店との間に取引があつたが同年初め不渡手形を出したため、同銀行との取引契約は解約され、それ以来今日まで同社名での銀行口座は持つていないこと。

(ロ)  原告は同訴外会社に対し、昭和三五年初め頃からプロパンガスを販売してきたが、右のように同社は銀行口座を持つていなかつたので、同社の代表取締役である被告は(会社の代表者としてかそれとも被告個人としてかの点はしばらく措く)、これまでその代金債務の履行確保のために振出人を「根本俊宗」とする約束手形を振り出してきたものであり(「根本俊宗」は銀行口座を持つており、これまで以上の手形金は事故なく支払われて来た。)、本件二通の約束手形も以上と同様な趣旨で振り出されたものであつて、その振出人はいずれも「東京都葛飾区本田木根川町根本俊宗」となつていること。

(ハ)  本件各約束手形は、被告自身から原告会社の営業部員川口薫が直接受け取つたものであり、被告は振出人「根本俊宗」の手形を振り出すについて何らの説明も加えず、川口としては、根本俊宗とは被告の氏名であると理解していたこと。

(ニ)  同訴外会社の取締役としては、被告根本幸夫(代表取締役)のほか鈴木賤、小川順吉の二名がいるが、その民が「根本」である者は被告だけであり、加えて、本件各手形に記載された振出人の住所は、被告個人の住所と同一であつて、訴外会社の本店所在地とは全く異なるものであること。

このような各事実を認めることができる。この各事実と、訴外日清産業株式会社という営利法人が、法人格を持つ商人であることが推定されうるようないわゆる屋号その他これに類するような名称ならば格別、自然人の氏名をその通称として用いることが一般の経験上稀有な事例に属すること(その当否についても問題があろう)などを合わせ考えると、結局「根本俊宗」は被告の通称であると認めざるをえない。

被告本人尋問の結果中この認定に反する部分は信用することができず、また、原告が本件各手形のうち金額金一一四、八〇〇円の手形を受領した際発行した領収証(乙第一号証)の名宛が「日清産業株式会社」とされていることは認められるが、この事実は、前記認定を左右するものではない。

三、以上の事実によれば、本件各手形の振出人は、結局「根本俊宗」こと根本幸夫すなわち被告であるというべきである。

そうして、原告が昭和三六年六月一五日前記一(1)の約束手形を訴外株式会社常盤相互銀行に対し、一(2)の約束手形をその振出日頃訴外株式会社東京都民銀行に対しそれぞれ隠れた取立委任裏書をし、右各銀行は各手形を各満期にその支払場所において、支払いのため各呈示したが、その各支払いを拒絶されたので、原告は、各銀行からそれぞれその手形の返還を受け、現にこれが所持人であることは当事者間に争いがない。

してみると、被告は原告に対し、右各手形合計金二九四、八〇〇円およびこれに対するその各満期後である昭和三七年四月四日から支払いずみに至るまで手形法所定の年六分の割合による利息金を支払う義務があるものといわなければならない。

四、よつて、原告の本訴請求は理由があるから認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を、仮執行の宣言について同法第一九六条を各適用して主文のとおり判決する。

(蓬坂修造)

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