東京地方裁判所 昭和37年(ワ)3056号 判決 1963年5月18日
原告 株式会社佐藤バルブ製作所
右代表者清算人 佐藤信夫
右訴訟代理人弁護士 早島万三
同 山本博
右訴訟復代理人弁護士 横山国男
被告 有限会社稲生合金鋳造所破産管財人 五十嵐七五治
主文
原告の破産者有限会社稲生合金鋳造所に対する、東京地方裁判所昭和三六年(フ)第二三二号破産事件における破産債権が、金一、〇九九、七五九円であることを確認する。
訴訟費用は被告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、職権をもつて判断するに、本件訴状添付の原告会社登記簿謄本の記載によれば原告会社は、昭和三四年一〇月五日株主総会の決議により解散して清算手続に入り、昭和三五年五月二五日清算結了し、同年六月六日この旨の登記がなされている事実を認めることができ、この事実によれば、原告が本訴につき当事者能力を有するかどうか疑いがないでもないが、およそ法人が清算結了登記をなしたときは、形式的にはそのときに人格も消滅し訴訟上の当事者能力を失うものであるが、清算結了登記当時債権が残存しているときは、実質的には右残存債権について清算手続を終了せず、したがつて右残存債権行使の範囲内ではなお当事者能力を有するものと解するのが相当であり、かような訴については、裁判所はその実体関係を審理し、債権の存在が認め得るときは実体上の判決を、これが認められないときは訴訟判決をなすべきものと考えるので、進んで実体関係について判断する。
二、成立に争いない第一ないし第六号証≪中略≫によれば、原告主張の請求原因一、二の事実はすべてこれを認めることができる。
三、有限会社稲生合金鋳造所が原告主張のように昭和三六年一二月二六日破産宣告を受け、被告がその破産管財人に選任されたこと、原告が右損害金を含めて右破産事件の破産債権届出をなしたが、被告がこれを否認したことは当事者間に争いない。
四、被告は、原告からの融通手形の見返りとして破産会社はこれに対応する約束手形を原告に交付したから、右見返り手形を破産債権とすべきである旨主張し、右見返り手形の交付を受けたことは原告の認めるところであるが、原告代表者尋問の結果によれば、原告は右見返り手形は、融通手形を破産会社に買戻したときにいずれも同会社に返戻する約束で受領していたもので、これを流通の用に供したことはなく、一部はこれを同会社に返還し、一部は紛失した事実が認められるので、原告が右手形金債権を行使せず、自らの出捐によつて買戻した融通手形金相当の金員の損害賠償を求めることも何等不当ではない。
五、してみれば原告の破産会社に対する破産債権は、元金九二九、九二〇円及びこれに対する各手形金支払の日から破産宣告の前日までの遅延損害金が一六九、八三九円であることは計数上明らかなので、その合計金一、〇九九、七五九円であり、これが確定を求める本訴請求は理由があるからすべて認容し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のように判決する。
(裁判官 滝田薫)