東京地方裁判所 昭和37年(ワ)4948号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告は大学教育施設を経営する学校法人で火災保険業務を営む被告との間で原告附属高等学校の建物を目的として火災保険契約を締結したところ、昭和二六年一一月右被保険建物が火災に罹つたので、査定保険金額の一部の支払を求めるため本訴に及んだ。被告は訴却下の判決を求め、本案前の抗弁として原告大学の代表者については私立学校法第三七条原告大学寄附行為第一〇条により理事のうち理事長のみが代表権を有するものと定められているところ、私立学校法第二八条、同法施行令一条二項六号によれば理事長の資格は登記をもつて対抗要件とする旨の規定があるから、理事たるの登記を了してない大橋光雄は原告の代表者とは認められないし、他にその法定代理権を証すべきなんらの書面もないから本訴の提起は不適法として却下さるべきものであると主張した。
みぎ抗弁にたいし、原告は原告代表者大橋光雄を理事及び理事長とする登記のないことは認めるけれども、大橋の理事たる地位は名古屋地方裁判所昭和三五年(ヨ)第五二八号、第六八二号仮処分事件の判決により理事の地位を仮に定められたものであり、理事長たる地位は昭和三六年二月一八日開かれた理事会の互選により選任された適法なものである。仮処分により理事の地位を仮に定められた者については理事としての登記が認められないため結局名古屋法務局で大橋光雄を理事長とする登記申請を受理しなかつたのであるが、大橋は実体的には理事長であり、被告もこれを知つているから被告の本案前の抗弁は失当であると抗弁した。
判決は大橋を理事と定めた仮処分は対世的効力があり、登記がなくても裁判所に対しては有効に訴訟行為ができるという理由で被告の本案前の抗弁を排斥したが、つぎのとおり説明している。曰く。
「ところでこれら三名の仮の地位を定めた仮処分は、いずれも原告大学を被申請人とし、もしくは被申請人等の一人とした事件に関するものであつて、被告を相手方とした事件ではないけれども、法人の機関たる地位を定める仮処分はその性質上対世的(絶対的)効力を有するものと解するのが相当であるから、前示の仮の地位を定めた各仮処分の結果、被告との関係でも前記三名はそれぞれ原告大学の理事たるの地位を有するに至つたものと認めるべく(中略)もつとも仮処分により理事たる地位を定められた場合は、これを登記する途が閉されているため同人は現に理事長に就任し、かつその地位は私立学校法二八条、同法施行令一条二項六号により登記すべきものであるにもかかわらず、未だ登記できないでいることが弁論の全趣旨から窺われるけれども、同人に理事及び理事長としての登記が欠けているからといつて、原告の本訴提起行為が正当な代表者によつてなされた行為でないと見るべきではない。けだし、私立学校法二八条二項によれば登記は第三者に対する対抗要件にすぎず効力要件ではないことは明らかであるから、裁判所に対する訴訟行為につき大橋光雄を原告大学の代表者と認めるべきか否かは、裁判所の実質的な判断に委ねられているものと考えるべきであつて、登記の存否によつて形式的にのみ決すべきことがらではないと解するのが相当だからである。」