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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5193号 判決 1963年7月19日

原告 水村一郎

右訴訟代理人弁護士 芦田浩志

被告 安斎源七

被告 安斎正之

主文

原告の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

≪省略≫

理由

一、原告がその所有の本件建物部分を昭和三二年一二月一〇日、被告安斎正之に対し、住居として使用することを目的とし、その他原告主張のような約束で賃貸したことは当事者間に争がない。

二、成立に争いのない甲第一号証原告本人尋問(第一回)の結果及び被告安斎正之、同安斎源七各本人尋問の結果によれば、契約成立当初は、被告安斎正之一人が本件建物部分を使用していたものであるが、その直後に被告正之から本件建物部分に弟の被告源七を同居させ、かつ同被告をして靴修理業の店を出させたい旨申出で、原告の承諾をえ、昭和三二年一二月三一日頃から源七が同居することになり、昭和三三年三月頃から源七は本件建物部分の土間の部分に陳列ケースを置き、表に看板を出しなどして靴修理業を始め、被告正之が時にこれを手伝い、賃料も正之名義で源七が原告に支払つたこともあり、このようにして、以後引続き過してきたこと、が認められる。(なお「本件賃貸借契約において賃貸人の同意承諾は書面に依らなければその効はない。」との約定のあつたことは当事者間に争いないけれども、その意味は契約関係を明確ならしめるため、なるべく書面によらしめる趣旨の注意規定にすぎないと解されるから、これをもつて右承諾の効力を左右するに足りない。)そうとすれば、使用目的違反を理由として原告に本件賃貸借契約につき解除権が発生したとはいうことができない。

ところで、前出の証拠(ただし甲第一号証を除く。)によれば昭和三六年一二月被告正之は結婚したため他に移転し、被告源七のみが本件建物部分を占有することとなり、以後の賃料は被告源七が支払つていることが認められるが、右事実をもつてしても、未だ正之から源七に賃借権の譲渡がなされたものと認めることはできず、源七が本件建物部分を使用することについては、原告がこれを承認していたことは前認定のとおりであるから、賃借権の無断譲渡を理由として、原告に賃貸借の解除権が発生する由がないといわなければならない。

三、更に無断改築模様変えにもとずく解除の主張について判断する。

被告源七が原告主張のような改造をなしたことは当事者間に争いがない。そこで被告等の抗弁について判断するに、原告本人尋問(第一回)の結果、被告安斎正之同安斎源七各本人尋問の結果によると、被告等は改造前に原告の承諾を求めたところ、原告は「柱を動かしては困る」と言つただけで改造そのものは承諾し、その後もこの点について異議を述べることもなく賃料を受領していたことが認められ、右承諾について書面の作成のなかつたことは右承諾の効果を左右するものではないこと前に説明したとおりであるから右の改造が改築禁止特約に違反したことを前提とする解除権は発生するに由がない。

四、最後に賃料不払を理由とする解除の主張につき判断する。

被告正之が昭和三七年一一月分から昭和三八年一月分まで合計三ヶ月分の賃料につき弁済期を経過したことを理由として原告は昭和三八年二月二二日の本件口頭弁論期日において解除の意思表示をしたことは訴訟上明らかである。しかし、右三ヶ月分の賃料を右同日被告等が供託したことは当事者間に争いがなく、原告が昭和三六年一一月分以降の賃料の受領を拒絶し、被告等は引続きその以後昭和三七年一〇月分までの賃料を供託していたことも当事者間に争いがないのであるから、右三ヶ月分の賃料の供託は有効と認むべく、賃料不払を理由とする解除の効果も発生しないと認むべきである。

五、以上のとおり原告の主張する賃貸借契約の解除はいずれよりするも、これを認めることができないからこれを前提とする被告正之に対する本件建物部分の明渡および損害金支払の請求も理由がなく、また被告源七の占有も適法であるから、同被告に対する建物明渡および損害金支払の請求も理由がない。

六、なお、原告は被告正之に対して昭和三六年一一月一日から同三七年六月末日までの八ヶ月間の賃料合計三二、〇〇〇円の請求をしているが、右の賃料については同被告が原告がこれを受取らないため供託をなしていること前認定のとおりであり、その供託は有効と解されるから、原告のこの点についての請求も失当である。

(原告の賃料不払を理由とする解除の主張からすれば、被告正之に対する昭和三七年八月一日から昭和三八年二月二二日までの金員請求は賃料の支払を求める趣旨と解されるけれども、右賃料のうち昭和三八年一月分までの賃料債権が供託により消滅の効果が生じていることは既に認定したところから明らかであり、同年二月分についても、同年三月二二日被告等がこれを供託したことは当事者間に争いがないから、これによつて消滅の効果が生じたものと認められる。)

七、よつて、原告の請求はいずれも理由がないので棄却すべく、訴訟費用について民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 吉岡進)

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