東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5377号 判決 1964年2月28日
原告 杉田成豊
被告 堀隆之助
主文
原告が被告に賃貸している東京都豊島区西巣鴨二丁目二三六四番地の三宅地五〇六坪三合のうち別紙図面斜線部分二五坪一合の地代は一カ月について昭和三七年三月一日以降金六五円であることを確定する。
原告その余の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを二分し、その一を原告の、その余を被告の負担とする。
事実
原告代理人は、原告が被告に賃貸している主文第一項記載の土地(以下「本件土地」という)の賃料は一カ月一坪について昭和三〇年九月二三日以降同三七年二月末日まで金六〇円、同三七年三月一日以降金一五〇円であることを確定する、訴訟費用は被告の負担とする、との判決を求め、請求原因として、原告は昭和二五年二月一日本件土地を期間の定めなく普通建物所有の目的で賃料一カ月金六二五円(坪当り一カ月約金二五円)の約定で被告に賃貸した。被告はそのうえに四坪五合の木造建物(旧建物という)を建築所有していたが、昭和二七年これを北部に移転しそのあとに家屋番号西巣鴨二丁目二三六四の一四木造瓦葺二階建居宅一棟建坪九坪三合七勺二階六坪七合五勺(新建物という)を建築所有しているので地代家賃統制令の適用はなくなつた。しかるところ物価の騰貴、公祖公課の増大近隣の地代の値上げ等によつて右約定賃料は不相当となつたので原告は昭和三〇年九月二二日右賃料を一カ月一坪につき金六〇円に、その後も右のような経済状態の変動が続いたので更に昭和三七年二月二八日同じく金一五〇円に増額すべき旨通告した。しかるに被告はこれに応じないのでそれぞれ右通告のように賃料の確定を求める、と述べ、被告の主張を争い統制令の適用は本件土地全部につき除外されたものであると述べた。証拠<省略>
被告代理人は請求棄却の判決を求め、答弁として原告主張の事実のうち新建物は旧建物に接続して増築したもので新築ではなく、かつ総坪数は三〇坪に満たないからその地代は統制をうけるものである、かりにこれが新築であつてその敷地は統制をうけないとしてもこれはその敷地部分である九坪三合七勺にとどまり、その他の部分一五坪七合三勺についてはなお統制に服するものである、と述べ、かつ経済状勢の変動があつた点を争つたほかは全てこれを認めた。証拠<省略>
理由
原告がその所有の本件土地をその主張の頃その主張の約定で被告に賃貸したこと、被告がその地上に原告主張のような旧建物を所有していたこと、昭和二七年頃被告がこれを北側に移転しそのあとに新建物を建築したこと原告主張の頃その主張の内容による地代増額請求がなされたことは当事者間に争はない。
成立に争のない甲第四乃至第七号証乙第三号証によると右旧建物と新建物とはわづかにヒサシ部分のみが接着しているにとどまりその構造においては全く独立した建物であり被告において新建物について建築申請をなすにあたつてもこれを新築として申告していることが認められ、従つてこれは増築ではなく新築といわねばならない。
ところで地代の統制されている旧建物の敷地の一部に昭和二五年七月一一日以降新築した場合、統制令の適用の有無並にその範囲について検討するに、旧建物に比し新築した建物の経済的効用が大なる場合には全部の敷地について統制令の適用は除外せらるべきものと解する。被告は新築建物の敷地部分のみ除外されるに止まると主張するが、賃貸借契約が一個である以上その効用も全体として把握すべく、賃料はその効用に比例させることが公平であるから、一個の借地を適用部分と除外部分に分割する考え方には賛成し難い。
そうだとすると前記乙第三号証甲第七号証によると旧建物に比し新建物の経済的効用は大きいことが認められるので、本件土地全部について右新建物建築以後統制令の適用は除外されたものと解すべきである。
次に本件土地の相当賃料については中野久雄の鑑定によると昭和三〇年九月二三日当時一カ月一坪当り(以下同じ)金二一円、同三七年三月一日当時金六五円と評価し、下城寅二郎の鑑定によると前者は金二二円、後者は金三七円と評価されている。そのほか甲第三号証によると昭和三二年一月当時の相当賃料を金六一円五〇銭と評価している(尤もこの甲第三号証の成立については原告において証拠を提出していない)。そしてその他には金額についての証拠はない。従つて、原告がまづ増額を求める昭和三〇年九月二三日当時の相当賃料が前記のとおり坪単価金二五円の従前の約定額以上であることについては証拠はない。そして右甲第三号証の評価の理由とするところは利廻りを年八分を相当としている点とこの利廻による金額以外に更に土地の一般管理費を加算している点においてその計算の根拠に首肯し難いものがあるので、この評価は信用できない。次に昭和三七年三月一日現在の相当賃料について前記二個の鑑定の結果を検討するに、下城寅二郎の鑑定の理由とするところは採算利廻りを本件のように継続的資料の場合には僅かに年一分五厘と異常に低率にみている点において首肯し難くその結論は当裁判所のとらないところである。そして前記争のない事実と右各鑑定に一致して記載されているところから認められる本件土地の位置現況、即ち本件土地が国電大塚駅より徒歩約四、五分、商店街大通りより南え約一五米程入つた小店舖住宅の雑居地で約二間の公道に面している間口約三間奥行約十間であることに鑑み右中野久雄の鑑定により昭和三七年三月一日当時においては相当賃料は金六五円であることが認められる。従つて当時金二五円の約定賃料は経済状勢の変動により不相当となつたもので、原告のなした賃料増額請求は右の限度においてのみその効力を生じ、その余の増額の効力を生じないものといわなければならない。
よつてその限度で原告の請求を認容し、その余は理由がないので棄却すべく、訴訟費用の負担については民訴法第九二条により主文のとおり判決する。
(裁判官 三好徳郎)