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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)5964号 判決 1964年2月15日

判   決

東京都墨田区向島中ノ郷町百二十三番地

原告

岡部株式会社

右代表者代表取締役

岡部亭

右訴訟代理人弁護士

関口正吉

内山弘

同都台東区仲御徒町一丁目四十七番地

被告

東京仮設機材株式会社

右代表者代表取締役

盛田清造

右訴訟代理人弁護士

長畑裕三

右当事者間の昭和三七年(ワ)第五、九六四号実用新案権侵害排除請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。

主文

一、被告は、原告に対し、金二万三千二百三十六円及びこれに対する昭和三十八年九月五日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

二、原告のその余の請求は、棄却する。

三、訴訟費用は、これを十分し、その一を原告の負担とし、その余を被告の負担とする。

四、この判決は、第一項に限り、仮に執行することができる。

事実

(当事者の求めた裁判)

原告訴訟代理人は、「一、被告は業として、別紙第一目録記載のコンクリート型枠の締付具を製造、販売、拡布してはならない。二、被告は、原告に対し、金二万三千二百三十六円及びこれに対する昭和三十八年九月五日から支払いずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。三、訴訟費用は、被告の負担とする。との判決並びに右第二項について仮執行の宣言を求め、被告訴訟代理人は、「原告の請求は、棄却する。訴訟費用は、原告の負担とする。」との判決を求めた。

(請求の原因)

原告訴訟代理人は、請求の原因として、次のとおり述べた。

一、原告の実用新案権

原告は、昭和三十七年二月二十一日、次の実用新案権を新井登から譲り受け、同年四月六日、右実用新案権の取得を登録し、現にその権利者である。

登録番号 第四五六、七二二号

名  称 型枠締付具

登録出願 昭和三十年三月十九日

出願公告 昭和三十一年九月二十四日

登  録 昭和三十二年一月二十五日

出願人 新 井   登

二  登録請求の範囲

本件実用新案権の登録出願の願書に添付した明細書の登録請求の範囲の記載は、別紙第二目録の該当欄記載のとおりである。

三  本件登録実用新案の要部及び作用、効果

(一)  本件登録実用新案の要部は、次のとおりである。

本件登録実用新案は、心ボールト6の螺子部7の所要位置に座金ナツト3を螺着し、その片面に締付ボールト1の径より大きい穿設孔9を有する間隔保持体5を当て、先端に係合片3を削設し、他端に螺子穴2を刻設した締付ボールト1を該間隔保持体に挿入し、心ボールトの先端螺子7を締付ボールト1の螺子穴に内螺着し、係合片3により締め付けてなる型枠締付具の構造に関するものであり、その要部は、

(1) 締付ボールト1の径より大きい穿設孔を有する間隔保持体を装置したこと、

(2) 間隔保持体5の穿設孔9内に挿入された締付ボールト1の螺子穴2に心ボールト6の螺子部7が右間隔保持体内において自由に螺合及び螺脱することができる装置としたこと、

にある。

(二)  本件登録実用新案の作用及び効果は、次のとおりである。

(1) 締付ボールト1の係合片3にナツト13の係合孔14を嵌合し、右ナツトを廻すときは、間隔保持体5内において、心ボールト6の螺子部7は、締付ボールト1の螺子穴2に堅固に締め付けられること、

(2) 間隔保持体5には、締付ボールト1の径より大きい穿設孔9が設けられ、間隙があるから、この締付具の組立ての際も、また、コンクリート打込後、心ボールト6から締付ボールト1を螺脱して解体する場合も、間隔保持体5内を締付ボールト1が自由に挿脱動することができて、現場における型枠の組立及び解体操業ともに容易であること。

四、被告の型枠締付具の構造

被告の製造、販売する型枠締付具の構造は、別紙第一目録記載のとおりである。

五、被告の型枠締付具の構造上の特徴及びその作用、効果

(一)  被告の型枠締付具の構造上の特徴は、次のとおりである。

(1) 心ボールト6の所要位置に、締付ボールト1の径より大きい内径を有する案内管15と座金ナツト8を取り付けた木製の間隔保持体5を当てること。

(2) 中間位に係合扁平部3を削設し、他端に螺子2を刻設した締付ボールト1を、間隔保持体5の穿孔13に嵌着した案内管15内に挿入すること、

(3) 心ボールト6の先端螺子7を締付ボールト1の螺子穴2内に螺着し、係合扁平部3により締め付けること。

(二)  被告の型枠締付具の作用及び効果は、次のとおりである。

(1) 締付ボールト6の係合扁平部3により締付ボールトを廻動するときは、心ボールト6の先端螺子7が締付ボールト1の螺子穴2に堅固に締め付けられること。

(2) 間隔保持体5には、締付ボールト1の径より大きい内径を有する案内管15が取り付けられ、締付ボールト1と案内管15の内壁面とが接触しないように構成されているから、組立てに際し、間隔保持体5内で締付ボールト1を心ボールト6に螺着する場合も、また、コンクリート打込み後、心ボールト6から締付ボールト1を螺脱して解体する場合も、締付ボールト1が案内管15を嵌着した間隔保持体5内において、自由に挿脱動することができること。

六、本件登録実用新案の型枠締付具と被告の製品との比較

被告の型枠締付具は、次に記載するように、本件登録実用新案の要件をすべて備えており、かつ、作用及び効果においても、両者は、同一であるから、被告の型枠締付具は、本件登録実用新案の技術的範囲に属する。すなわち、

(一)  本件登録実用新案の型枠締付具と被告との同一点

(1) 締付ボールトの係合片を廻動することにより、心ボールトの螺子先端が締付ボールトの螺子孔に堅固に螺着されること、

(2) 心ボールトに締付ボールトを螺着するに当たり、その螺着個所に締付ボールトの径より大きい穿設孔を有する間隔保持体を介在させ、これにより、間隔保持体内において締付ボールトが自由に挿脱動できる間隔を持つこと

の二点において、両者は同一である。

(二)  本件登録実用新案の型枠締付具と被告の製品との相違点

(1) 本件登録実用新案の型枠締付具は、係合片が締付ボールトの先端に削設されているに対し、被告の製品は、締付ボールトの中間位に係合扁平部が削設されているが、それぞれの作用及び効果に差異はなく、この部分の相違は、設計上の微差にすぎない。

(2) 本件登録実用新案の型枠締付具は、間隔保持体の穿設孔に締付ボールトの接続端部分が直接挿入されるに対し、被告の製品は、締付ボールトの接続端部分が案内管に挿入されるが、それぞれの作業及び効果に差異はなく、右相違は、設計上の微差にすぎない。

(3) 本件登録実用新案の型枠締付具は、座金と間隔保持体とが、各別個に製作されるに対し、被告の製品は、座金ナツトに案内管が固定され、該案内管が間隔保持体の穿孔に嵌着して一体に構成されているが、この相違は、附加的構造に関するものにすぎない。

七、差止請求

被告は、昭和三六年十月九日から、業として、本件登録実用新案の技術的範囲に属する別紙第一目録記載の型枠締付具を製造、販売、拡布し、現に、本件実用新案権を侵害しているから、原告は、被告に対し、右型枠締付具の製造、販売、拡布の差止めを求める。

八、損害賠償請求等

新井登は、本件実用新案権の登録の日から昭和三十七年四月五日までその権利者であり、原告は、同月六日から本件実用新案権の権利者となつたものであるが、被告は、その取締役秋山満が元原告の営業第二課長であつた等の緯緯から、当然、本件型枠締付具を製造、販売等することが、本件実用新案権を侵害するものであることを知り、または、知りえたにかかわらず、過失によりこれを知らずして、昭和三十六年十月九日から昭和三十七年四月五日まで九千三百六十八個の、同月六日から同年五月十八日まで二千二百五十個の本件型枠締付具を販売した。これがため、原告及び新井登は、営業上多大の損害を蒙つたが、その損害額は、新井登については、少なくとも、金一万八千七百三十六円、原告については、少なくとも、金四千五百円である。すなわち、本件型枠締付具のうち、間隔保持体と座金ナツトとを組み合わせたもの一組が金十七円であり、その販売による利益の額は、一組金二円であるから、被告が前記各期間内に挙げた利益の額は、それぞれ金一万八千七百三十六円及び金四千五百円であり、被告の挙げたこれら利益の額は、本件においては、本件実用新案権者である新井登又は原告の受けた損害の額に他ならない。

しかして、原告は、新井登から本件実用新案権を譲り受けるに際し、同人の被告に対する損害賠償権を譲り受け、新井登は、被告に対し、昭和三十八年十月十二日到達の書面をもつて、右債権譲渡の通知をした。

よつて、原告は、被告に対し、新井登から譲り受けた右債権額及び本件実用新案権の侵害に基づき原告の蒙つた損害の賠償額合計二万三千二百三十六円及びこれに対する不法行為の後である昭和三十八年九月五日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

(答弁)

被告訴訟代理人は、答弁として、次のとおり述べた。

一  請求原因一及び二の各事実は、いずれも認める。

二  同じく三の事実中、本件登録実用新案の型枠締付具の構造及びその作用、効果が原告主張のとおりであることは認めるが、その要部が原告主張のとおりであることは、否認する。

三  同じく四の事実は、認める。

四  同じく五の事実は認める。ただし、被告の型枠締付具の締付ボールト1と案内管15の内壁面が接触しないように構成されていることは、否認する。

五  同じく六の事実は、否認する。

六  同じく七の事実中、被告が、昭和三十六年十月九日から、業として、原告主張の型枠締付具を製造及び販売したことは認めるが、右型枠締付具を実地に使用した結果によると、コンクリートからの抜取りが必ずしも容易でなかつたので、被告は、右締付具とは異なる新型の締付具を考案し、昭和三十七年四月から右締付具を製造、販売したところ、需要者の間に好評を博したので、爾来、右締付具のみを製造し、原告主張の本件型枠締付具は、同年五月十八日をもつて、その販売を中止するとともに、その在庫品はすべて廃棄した。このように、被告は、すでに販売の見込もなくなつた本件型枠締付具を製造、販売する意思も全くないのであるから、原告の差止請求は、失当である。

七  同じく八の事実中、新井登が本件実用新案権の登録の日から昭和三十七年四月五日までその権利者であつたこと、原告が同月六日から本件実用新案権の権利者となつたこと、被告の取締役秋山満が元原告の営業課長であつたこと、被告が昭和三十六年十月九日から昭和三十七年四月五日までの間に、原告主張の個数の本件型枠締付具を製造、販売し、本件型枠締付具のうち、間隔保持体と座金ナツトを組み合わせたもの九千三百六十八組を一組金十七円で販売して、一組金二円の割合による金一万八千七百三十六円、同月六日から同年五月十八日までの間に、原告主張の個数の本件型枠締付具を製造、販売し、そのうち間隔保持体と座金ナツトを組み合わせたもの二千二百五十組を一組金十七円で販売して一組金二円の割合による金四千五百円の利益を挙げたこと及び被告が新井登から、原告主張の日、その主張の損害賠償債権を原告に譲渡した旨の通知を受けたことは認めるが、その余は否認する。

(証拠関係)≪省略≫

理由

(争いのない事実)

一  新井登が、原告主張の本件登録実用新案の設定登録を受けたこと、原告が、昭和三十七年二月二十一日、新井登から本件実用新案権の譲渡を受け、同年四月六日右権利の取得を登録し、現に本件実用新案権の権利者であること、本件実用新案権の登録出願の願書に添付した明細書の登録請求の範囲の記載が、別紙第二目録該当欄記載のとおりであること、被告が昭和三十六年十月九日から昭和三十七年五月十八日まで、業として、別紙第一目録記載の型枠締付具を製造及び販売したこと、被告が昭和三十六年十月九日から昭和三十七年四月五日まで本件型枠締付具のうち、間隔保持体と座金ナツトを組み合わせたもの九千三百六十八組、同月六日から同年五月十八日まで同じく間隔保持体と座金ナツトを組み合わせたもの二千二百五十組を一組金十七円で販売し、これにより、それぞれ一組金二円の割合による金一万八千七百三十六円及び金四千五百円の利益を挙げたこと、並びに新井登が被告に対し、昭和三十八年十月十二日到達の書面をもつて、同人が被告に対して有する原告主張の損害賠償債権を原告に譲渡する旨の通知をしたことは、当事者間に争いがない。

(被告の製品が本件登録実用新案の技術的範囲に属するかどうか)

二 前掲当事者間に争いのない本件登録実用新案の登録請求の範囲の記載に、成立に争いのない甲第一号証(本件実用新案公報)の「実用新案の性質、作用及効果の要領」欄の記載及び同添付図面を参酌して考察すると、

(い)  本件登録実用新案は、型枠締付具の構造に関するものであり、

(1)  心ボールト6の螺子部7の所要位置に座金ナツト8を螺着し、その片面に、締付ボールト1の径より大きい穿設孔9を有する間隔保持体5を当てること、

(2)  先端に係合片3を削設し、他端に螺子穴2を刻設した締付ボールト1を、該間隔保持体5に挿入すること、

(3)  心ボールト6の先端螺子7を締付ボールト1の螺子穴2に内螺着し、係合片により締め付けること、

をその構成上の必須の要件としているものと認めることができ、これを左右するに足る資料はない。

(ろ)  しかして、被告の型枠締付具の構造が、別紙第一目録記載のとおりであり、右型枠締付具の構造上の特徴及びその作用効果が、締付ボールト案内管の内壁面とが接触しないように構成されている点を除き、原告主張のとおりであることは、当事者間に争いのないところであるから、被告の型枠締付具は、

(1)  心ボールト6の所要位置に、締付ボールト1の径より大きい内径を有する案内管15と座金ナツト8とを取り付けた木製の間隔保持体5を当てること、

(2)  中間位に係合篇平部3を削設し、他端に螺子穴2を刻設した締付ボールト1を、間隔保持体5の穿孔13に嵌着した案内管15内に挿入すること、

(3)  心ボールト6の先端螺子7を締付ボールト1の螺子穴2内に螺着し、係合扁平部3により締め付けること、を構造上の特徴とするものということができ、被告製品の右(1)から(3)の構造が、それぞれ本件登録実用新案の前記(1)から(3)の要件に対応するものであることは、両者を対比することにより明らかである。

よつて、両者の型枠締付具につき、前掲甲第一号証、成立に争いのない同第三号証の一、三、第七号証の各記載及び鑑定人(省略)の鑑定の結果を参酌して比較検討するに、これを全体の構成からみれば、被告の型枠締付具は、本件登録実用新案の要件をすべて具備しており、したがつて、右型枠締付具は、本件登録実用新案の技術的範囲に属するものというべく、本件において、右判断を覆すに足る資料は、全く存在しない。以下、これを分説する。

(一)前記(い)及び(ろ)の各(1)の点について。

本件登録実用新案の型枠締付具(以下「前者」という。)においては、座金ナツト8が間隔保持体の片面に当てられているのに対し、被告の型枠締付具(以下「後者」という。)においては、座金ナツト8は、締付ボールト1より大きい内径を有する案内管15に取り付けられ、間隔保持体5は、案内管15に挿入され、座金ナツト8の片面に当てられており、これがため、後者においては、棒状体を案内管15の孔17に挿入廻転することにより間隔保持体を座金ナツトとともに、出来上つたコンクリート壁体から容易に取り外すことができるものであるが、本件登録実用新案においては、座金ナツトと間隔保持体との関係については、何ら限定はなく、また、間隔保持体に締付ボールトの内径より大きい穿設孔を設けることとしたのは、この構造により、組み立てるとき、又はセメントの打込みを終わつて解体するとき、間隔保持体と締付ボールトとが接触していないため、その型枠の組立て及び解体が容易となり、操業能率を良好にすることを目的としたものであるから、後者は、前者の(1)の要件を備えており、それと同様の作用効果を挙げることができるものと認めうべく、後者の構造上の差異に基づく前示作用効果は、前者の作用効果とは直接の関連はもたないのであるから、結局後者の構造上の差異は附加的構造に関するものというべきである。

なお、被告は、後者において締付ボールトと案内管の内壁面とが接触しないよう構成されていることを否認するが、前掲当事者間に争いのない事実によれば、後者の案内管は、締付ボールトより大きい径を有し、かつ、別紙第一目録添付図面のとおり、締付ボールト案内管の内壁との間には間隙が形成されているから、締付ボールトを案内管に挿入することも、また、取り外すことも容易なものというべきであり、(このことは、被告の製品であることに争いのない検甲第一、第二号証からも容易に窺いうるところである。)右判断を覆すに足る証拠はない。

(二) 前記(い)及び(ろ)の各(2)の点について。

前者においては、締付ボールトの先端部に係合片が刻設されているに対し、後者においては、締付ボールトの先端部より離れた個所、すなわち、螺子部4より型枠に近い側に係合扁平部3が刻設されているが、前者においては、係合片をスパナの係合孔に入れてこれを回転することにより、心ボールトの螺子部が締付ボールトの螺子穴に深く喰い入り、堅固に締め付けられ、後者もまたこれ右と同じ作用を有し、しかも前者においては、係合部と締付スパナとの関係につき何ら限定はなく、後者における係合扁平部は、スパナにより締付ボルトを締め付けるための係合部に他ならないから、後者の右構造は、前者と同一考案に基づく均等の構造というべきである。

(三) 前記(い)及び(ろ)の各(3)の点について。

締付ボールトを間隔保持体に挿入し、心ボールトの先端螺子を締付ボールトの螺子穴に螺着し、係合部により締め付ける点において、両者は、構造の作用、全く同一である。後者においては、間隔保持体に案内管を介在させているが、締付ボールトを間隔保持体に挿入している構造であることに変りのないことはいうまでもない。

(差止請求について)

三 原告は、被告が現に本件型枠締付具を製造、販売、拡布している旨主張するが、その挙示援用する全証拠によるも、被告が、現に、本件型枠締付具を製造、販売、拡布している事実ないしは、これを製造、販売、拡布する虞れのある事実を認めることはできない。もつとも、被告が本件型枠締付具を昭和三十六年十月九日から昭和三十七年五月十八日まで製造、販売していたことは、被告の自認するところであるが、この事実から、直ちに原告の右主張事実を肯認することはできないことはいうまでもない。したがつて、これを前提として、その差止めを求める原告の請求は、理由がないものといわなければならない。

(損害賠償等の請求について)

四 被告が昭和三十六年十月九日から昭和三十七年五月十八日までの間、業として、本件型枠締付具を製造、販売したことは、被告の認めて争わないところであるところ、本件型枠締付具が本件登録実用新案の技術的範囲に属することは、前説示のとおりであるから、被告は、新井登又は原告の本件実用新案権をそれぞれ侵害したものというべく、しかも、被告は右侵害行為について過失があつたものと推定されるところ、この推定を覆すに足る証拠はない。

しかして、被告の右侵害行為により、新井登又は原告が営業上損害を蒙つたことは、本件口頭弁論の全趣旨に徴し、これを肯定しうるところ、被告が昭和三十六年十月九日から昭和三十七年四月五日までの間に、本件型枠締付具のうち間隔保持体と座金ナツトを組み合わせたもの九千三百六十八組を販売して金一万八千七百三十六円の利益を挙げたこと及び同月六日から同年五月十八日までの間に、同じく間隔保持体と座金ナツトを組み合わせたもの二千二百五十組を販売して金四千五百円の利益を挙げたことは、いずれも被告の認めて争わないところであり、しかして、右利益の額は、新井登及び原告が被告の前記侵害行為により蒙つた損害の額と推定されるところ、この推定を覆すに足る証拠はない。

しかるところ、成立に争いのない甲第十一号証及び証人斎藤徳治の証言によれば、新井登が本件実用新案権の権利者として被告の前記侵害行為により受けた一切の損害賠償債権を本件実用新案権の譲渡に際し、原告に譲渡したことを認めることができ、他に右認定を覆すに足る証拠はなく、新井登が昭和三十八年十二月到達の書面をもつて、右損害賠償債権を原告に譲渡した旨を被告に通知したことは、当事者間に争いがないから、原告が新井登から譲り受けた損害賠償債権額金一万八千七百三十六円及び原告が受けた損害金四千五百円合計金二万三千二百三十六円及びこれに対する不法行為の後である昭和三十八年九月五日から支払いずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める原告の請求は、理由があるものということができる。

(むすび)

五 以上説示のとおりであるから、被告に対し、右金員の支払いを求める原告の請求は、理由があるものということができるから、これを認容し、その余の請求は、理由がないから、これを棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八十九条、第九十二条本文を、仮執行の宣言について同法第百九十六条を、それぞれ適用して、主文のとおり判決する。

東京地方裁判所民事第二十九部

裁判長裁判官 三 宅 正 雄

裁判官 武 居 二 郎

裁判官 白 川 芳 澄

第一目録

図面に示すように、心ボールト6の所要位置に、締付ボールト1より大きい内径を有する案内管15と座金ナツト8とを取り付けた木製の間隔保持体5を当て、係合扁平部3を削設し、他端に螺子穴2を刻設した締付ボールト1を該案内管15内に挿入し、心ボールト6の先端螺子7を該螺子穴2内に螺着し、係合扁平部3により締め付けてなる型枠締付具

理由

特許庁実用新案公報実用新案出願公告

昭三一―一五四五六

公告 昭三一・九・二四

出願 昭三〇・三・一九

実願 昭三〇―一一五四九

出願人考案者    新 井   登

東京都墨田区寺島町三の一七合資会社新井工業所内

代理人弁護士    志 賀 武 一

型枠締付具

図面の略解

第一図は本案型枠締付具を使用した場外の外観図、第二図は心ボールトと締付ボールトとの締付部を示せる部分拡大図、第三図は間隔保持体の正面図、第四図は締付ボールトの正面図、第五図は本案に於けるスパナを示すものである。

実用新案の性質、作用及び効果の要領

本実用新案は型枠締付具に於て、心ボールトに締付ボールトを螺着するに当りその螺着個所に締付ボールトより太い穿設孔を有する間隔保持体を介設したことを考案要旨とするものである。本案を図面について説明すれば心ボールト六に於ける螺子部七の所要位置に座金ナツト八を螺結しその片面に大きい穿設孔九を穿設した間隔保持体五を当ててこれに、先端に係合片三を削設し他端に螺子穴二を刻設した締付ボールト一を挿入し心ボールト六の先端螺子七を該螺子穴二内に螺着し係合片三により締付けて本案締付具を構成する。而して図中四は締付ボールト一の螺子部、一〇はナツト一一は心ボールト六の係合部、一二は締付用の木材、一三はスパナ、一四は係合孔、一五はナツト孔、一六は係合究子を示すのである。

本案は余上の如く構成してあるから係合片を第五図に示すナツトの係合孔一四に入れてこれを廻すときは心ボールトの螺子部は七は締付ボールトの螺子穴二に深く喰い入り堅固に締付けられる効果を存する。この場合本案に於ては間隔保持体五に締付ボールトより大なる穿設孔九を設けてあるから最列組立てるときも又セメントの打込を終つてこれを解体せんとするときも間隔保持体と締付ボールトとは接触していないから容易に型枠の組立が出来ると共にその解体も又容易に可能であつて著しく操業能率が良好である。

本案は以上の如く講設してあるから、間隔保指体は金属製、セメント製、樹脂製或はゴム製等適切なる物質を以てこれを構成し適用することが出来るものであつて、本案による締付具は使用簡便にして頗る実用的である。

登録請求の範囲

図面に示す如く心ボールト六の所要位置に座金ナツトを螺着しその片面に大きい穿設孔九を有する間隔保指体五を当て、先端に係合片三を削設し他端に螺子穴を刻設した締付ボールト一を該間隔保指体に挿入し、心ボールトの先端螺子七を該螺子穴に内螺着し係合片三により締付けて成る型枠締付具の構造。

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