大判例

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東京地方裁判所 昭和37年(ワ)8415号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕家屋賃借人がその家屋に改修工事を加えうる限度は、賃貸人の承諾があるか急迫の危険防止等緊急な必要がある場合を除き、賃借家屋の日常保存行為とみられる範囲に止まり、家屋構造の変化を来すような増改築工事は賃借物保管義務に違反する。

〔事実と争点〕原告はその所有の本件家屋を被告に賃貸していたが、昭和三七年六月中旬頃、被告が原告の制止をきかずに後記認定のような増改築工事を施行したので、同月二五日本件建物賃貸借契約解除の意思表示をして、その明渡を求めた。被告は、右増改築については前賃貸人との間で居住に必要な改造を許容されていた範囲内のものであること、また原告が賃貸人としての修繕義務をはたさないのでやむをえずしたものであること等を主張して、契約解除の理由なしと争つた。

判決は、本件増改築工事を単なる日常の保存行為の程度をこえた大規模な工事であることを次のように認定判断して、原告のした契約解除を有効とした。曰く、

〔判決理由〕家屋賃借人がその家屋に改修工事を加え得る限度は賃貸人の承諾があるか急迫の危険防止等緊急な必要がある場合を除き、賃借家屋の日常保存行為とみられる範囲に止まるというべきところ、先づ検証の結果によれば、六畳南側私道沿に巾六尺奥行一尺の出窓が新設され、板の間の改造面積は巾九尺奥行三尺で原告主張の通りであり、右工事に際し七本の柱が取り替え又は新設され、西側大台の全部と南側大台の一部が旧来のものを除去し新しいものと取り替えられていること、本件建物の北側に木戸が新設されていること、六畳南側の出窓増改築により私道の通行が妨害されるようなことはないこと、又本件建物は二戸建一棟のうち西側の一戸であるが曾つて同時に建築された東側の本件建物と一棟をなしている建物部分(被告の前記賃借部分以外)は根太が多少ゆるんではいるが、緊急に改築しなければ居住不可能ないし生命に危険を感ずるという程腐朽してはいないことが認められる。以上増改築工事のうち、物置、板の間、木戸の増改築部分は容易に原状回復が可能であり、出窓新設は家屋使用の便益を単に増加するもので格別賃貸人の原告に不利益をもたらすものとはいえないが、前記のように旧来の土台、柱を大巾に新たなものと取換えるごとき工事は家屋構造の変化を招来するものというべく、しかも被告本人尋問の結果によれば、右工事費に約三〇万円が費されたことを認められ、賃料額が月一、二五〇円に過ぎないことが当事者間に争いないことも併せ、右工事を全体としてみれば賃借家屋一階部分の面目を全く一新したもので、単なる日常保存行為の域を超えた大規模の改良改築工事と認めるのが相当である。――中略――被告はさらに賃貸人たる原告の修繕義務不履行の結果、土台が腐朽し危険状態に立至つたので緊急止むを得ず右工事を行つたと主張するが、隣接建物と比較して左程の状態にあつたとは認め得ないこと前認定のとおりであり、前記賃料額との比較上からも原告に被告のなした改良工事までなすべき修繕義務があるといえないから、この理由をもつては右工事を正当化し得ない。しからば原告において被告の右工事中に被告に対してなした工事中止の要請は正当であり、この要請を無視してなされた被告の増改築工事は賃借人としての賃借物保管義務に違反し賃貸借関係の基礎をなす当事者相互の信頼関係を破壊するものであり、賃貸人たる原告において右被告の行動を理由として賃貸借を解除し得る権利があることは明らかであるといわなければならない。(畔上英治)

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