東京地方裁判所 昭和37年(ワ)901号 判決
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【判決理由】二 登録請求の範囲の記載
本件実用新案登録出願の願書に添附した説明書の登録請求の範囲の記載が別紙第二目録の該当欄記載のとおりてあることは、当事者間に争いがない。
三 本件登録実用新案の構成要件等
当事者間に争いのない前記登録請求の範囲の記載、とくに、「(粘着剤層2)の上部に光輝性の金属粉による被膜3を形成し」との記載、成立に争いのない甲第一号証の二(本件実用新案公報)の実用新案の性質、作用及効果の要領欄、とくに、「層2は反射膜及び粘着部を兼ね、外部より入射した光は金属粉の微粒によつて乱反射する。」「駅ホームの標示板、道路標識、レフレクター等に用いれば部分的光の照射に対して明瞭な識別がなし得られるので極めて効果的である。」等の記載及びその図面、とくに金属粉による被膜3の形状、(省略)に、金属被膜の形成手段としては、従来から金属粉の散布又は塗布、金属箔の粘着及び金属蒸着法がそれぞれ別個のものとして存在し、判然と区別して表現されるのが通常であるところ、(中略)本件登録実用新案の説明書中には、金属箔及び金属蒸着に関する記載が全くないこと、透明合成樹脂皮膜1の下面に金属粉による被膜3を形成するといわずに、粘着剤層2の上部に形成するという叙述の仕方(ただし、これを根拠に、製造の順序ないし方法を本件登録実用新案の必須要件とするものでないことは勿論である。)及び可撓性フイルムにおいて、背面に適当な接着剤被覆を施し、あるいは使用時に除去可能な裏張りを貼着することは本件実用新案登録出願当時すでに公知であつたこと(中略)を合わせ考えると、次の事実が認められる。
(一) 本件登録実用新案は、可撓性反射フイルムの構造に関するものであり、粘着剤層2の上部に光輝性の金属粉による被膜3を形成し、その上部に透明合成樹脂皮膜1を一体的に被覆することをその構成に欠くことのできない事項の一つとしていること。しかして、ここにいう「金属粉による被膜3」とは常温常圧下において常識上粉末と観念されるべき状態で存在する金属粉により形成される表面がなめらかでない被膜をいい、金属箔及び金属蒸着膜は、これに包含されないこと。
(二) 本件登録実用新案は、右(一)記載の構造により、次の作用効果を挙げることができること。
(1) 外部より入射した光は金属粉の微粒により乱反射する結果、駅のホームの標示板、道路標識、レフレクター等に用いた場合、光源が多数存在するところ(例えば駅のホームなど)では勿論であるが、光源が一つしか存在せず、かつ、光源と同一の地点より観察するとき(例えば夜間ハイウエイにおいてヘツドライトの照射を運転者から観察するとき)にも、明瞭な識別が可能であること(この場合、透明合成樹脂皮膜1上に文字又は記号が書かれているかどうか、書かれている文字又は記号の部分がいかなる反射をするかはさしあたり問題とならないことは、いうまでもない。)
(2) 常温常圧下において常識上粉末と観念されるべき状態で存在する金属粉はそれ自体透明合成樹脂皮膜1に粘着する力をもたないから、金属粉による被膜3の上部に透明合成樹脂皮膜1を被覆した場合に、粘着剤層2及び金属粉による被膜3と透明合成樹脂皮膜1とが一体的に接着するのは粘着剤層2を組成する粘着剤が金属粉の微粒の間隙を通して透明合成樹皮膜1と粘着するために外ならず、その結果、粘着剤層2は反射膜の作用をも兼ねること。(中略)
四 被告製品及びその特徴
被告製品の構造が原告主張のとおりであることは当事者間に争いがなく、これと前項認定の事実とを対比すれば、被告製品における「透明なアセテート又はマイラーフイルム(1)の下面にアルミニウムによる蒸着層(3)を設け、その下部にプラスチツクによる裏打(D)を介して粘着剤層(2)を設ける構造」が本件登録実用新案における前記要件に対応するものであることは、おのずから明らかである。
五 両者の比較
前記第二項から前項において明らかにされた事実に、(証拠―省略)並びに被告製品であることに争いのない検甲第四号証の一から三及び検乙第一号証中「サンブライト」及び「サイエスブライト」に関する部分を参酌して、本件登録実用新案における前記要件と被告製品における右構造とを比較考量すると、両者は、その構造及び作用効果において相違するものといわざるをえず、これに反する資料はない。すなわち、
(一) 本件登録実用新案における金属粉による被膜3は、その表面がなめらかでなく、かつ、それを構成する金属粉の微粒間には粘着剤が介在するに対し、被告製品におけるアルミニウムによる蒸着層(3)は、磨きあげられた光沢ある平滑な金属表面と同一の表面を有し、かつ、一定の核形成過程を経て連続した金属膜を形成しているから蒸着層(3)中に粘着剤が介在することはありえない。
(二) 本件登録実用新案においては、外部より入射した光が金属粉の微粒により乱反射する結果、光源が一つしか存在せず、かつ、光源と同一の地点より観察するときにも明瞭な識別が可能であり、また、粘着剤層2は反射膜の作用をも兼ねることができる。これに対し、被告製品においては、アルミニウムによる蒸着層(3)の表面はなめらかであり、かつ、金属粉の微粒は存在しない(蒸着金属が粒状性をもつとしても教十ないし数百オングストロームにすぎない。)から、外部より入射した光を乱反射せず、その結果、光源が一つしか存在せず、かつ、光源と同一の地点より観察する場合には明瞭な識別が困難ないし不可能であり、また、粘着剤層(2)が反射膜の作用を兼ねることもできない。
叙上のとおり、被告製品における前項記載の構造は、本件登録実用新案における前記第三項記載の構成要件に包含されず、また、右構成要件が挙げる作用効果と同一の作用効果を挙げることもできないから、右構成要件と均等の構造であるということもできない。したがつて、被告製品は、この点において本件登録実用新案の構成に欠くことのできない事項の一つを欠くものであるから、他の点を比較するまでもなく、本件登録実用新案の技術的範囲に属しないものというべく、(中略)他にこの結論を覆すに足る証拠はない。(三宅正雄 太田夏生 佐久間重吉)
第一目録
図面説明書
甲図は分析図、乙図は拡大図であり
一、台紙(4)は
プラスチツクによる裏処理 (A)
ポリエチレンフイルムラミネート (B)
シリコン樹脂塗布 (C)
の如き加工がなされ
二、アルミニウムによる蒸着層(3)の下部にはプラスチツクによる裏打(D)があり
三、その下に粘着剤層(2)を設け
四、最上部には透明なアセテート又はマイラーフイルム(1)が被覆せられている可撓性反射フイルムを示す。
第二目録
特許庁実用新案公報実用新案出願公告昭三二―一六五八
(公告昭三二・三・二三 出願昭二九・一一・三〇実願昭二九―四二三八八〓出願人考案者倉本馨)
可撓性反射フイルム
図面の略解(省略)
実用新案の性質、作用及効果の要額(省略)
登録請求の範囲
図面に示すように台紙四上に粘着剤層二を設けその上部に、光輝性の金属粉による被膜三を形成し更にその上部に透明合成樹脂皮膜一を一体的に被覆した可撓性反射フイルムの構造