東京地方裁判所 昭和37年(ワ)9719号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔事実と判断〕原告会社は登録ずみの宅地建物取引業者であるが、被告から住家の購入斡旋方依頼をうけ、東京都知事の定める基準額相当を手数料として取得する約で承諾した。原告会社はかねて訴外槇島正三から売却のあつせんを頼まれていた東京都杉並区成宗三丁目五七九番地所在二階建住家一棟(借地権付)を昭和三七年六月一五日ころ被告に紹介し、同人を案内して右物件を検分させたところ、被告は七〇〇万円で買受ける旨申出でると共に爾余の条件の取定めにつき交渉の依頼があつたので、原告会社は前記訴外人と交渉した結果、右同額で売渡す旨の承諾を得たので、原告会社は売買条件の細部を打合わせるため被告と同訴外人を引合わせた。かくして被告と槇島との間に代金七〇〇万円で売買契約の成立を見るに及び、昭和三七年九月二四日所有権移転登記がなされた。ところが被告及訴外人は取引の途中で事を構えて一旦取引のとりやめを仮装し原告の介入を排除した上、直接交渉をした結果売買が成立したものであるが、原告会社は仲介による取引の成立を条件として報酬を請求する条件付権利を有するのであるから、被告らのみぎ行為はとりもなおさず故意に条件の成就を妨げたものというべく、条件は成就したものと看做されるので原告会社の報酬請求権に消長を来すものではない、と主張した。
被告は原告会社の不動産業者としての注意義務懈怠を理由に昭和三七年六月二三日仲介委任を解除した。すなわち被告は原告会社従業員の案内により原告主張の建物を検分し、代金が七〇〇万円であることを知り、原告会社に売買のあつせんを依頼したのであるが、被告は前記建物が法律上問題のおこるおそれのないものかどうかを調査するため使用人をして管理登記所で登記簿を閲覧調査させたところ、右建物について第三者のため抵当権と所有権訴訟請求権保全の仮登記がなされていることを発見した。原告会社はこのように法律上重大なかしがあり取引上危険の存んする事実を調査することなく、これを被告に紹介あつせんした。いやしくも不動産仲介業者が顧客に対し不動産を仲介しようとするときはみぎ売買により、買主に対しては法律上事実上かしのない状態において完全な所有権が移転するよう万全の注意を払い、そのためには予め不動産登記簿その他の公簿を調査する義務あるものというべく、被告会社はこの量も基本的な注意義務を怠つたのである。そこで被告は原告会社との間の仲介契約を解除した。
原告は建物を案内した当時の不動産取引のいわば初期的段階において登記簿を閲覧調査するというような注意義務を負うものではないと再抗弁した。
判決は、被告の主張を採用し本件委託契約は原告会社の責に帰すべき事由により有効に解除されたと判断し、原告の請求を棄却したが、不動産仲介業者は売買契約等の交渉が或程度まで進んだときは、目的物件の登録簿を調査する業務上の注意義務があるとしてつぎのとおり説明している。曰く。
「おもうに不動産仲介業者が不動産の売買につき売主買主双方の間を仲介するにあたつては、準委任の本旨に従い、売買契約が支障なく成立し的確に履行され、もつて当事者双方がその目的を達しうるよう配慮して仲介事務を処理すべき業務上の注意義務を負うこと縷説を要しないところであり、本件についてこれを見れば原告会社は、少くとも本件建物に関する売買の交渉が前認定の段階に進歩する迄には、その登記関係を確認しその事態を究明すべき義務を負うものであることは正しく被告の主張するとおりである。してみれば前記仲介人委託契約は原告会社の責に帰すべき事由により解除されたものといわなければならない。してみれば右の解除が、故意に条件の成就を妨げたことには該らず原告の前記主張はしよせん採用の限りでない」。