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東京地方裁判所 昭和37年(ヲ)1250号 決定 1962年6月20日

決  定

東京都台東区浅草橋場町二丁目五番地

申立人

国光電機株式会社

右代表者代表取締役

桜井健一

右代理人弁護士

馬場東作

福井忠孝

東京都台東区浅草橋場町二丁目五番地

相手方

国光電機労働組合

右代表者執行委員長

新島常嘉

右申立人から執行方法に関する異議の申立があつたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

東京地方裁判所執行吏内村寅吉は、申立人の委任に従い、東京地方裁判所昭和三七年(ヨ)第二一〇四号業務妨害禁止仮処分命令に基づく相手方の耐忍義務違反の抵抗を排除しなければならない。

理由

一  申立人は、「東京地方裁判所昭和三七年(ヨ)第二一〇四号業務妨害禁止仮処分命令正本に基づき、東京地方裁判所執行吏内村寅吉に対し債務者の耐忍義務違反の抵抗を排除するべく執行々為の実施を命ずる。」との裁判を求めた。

二  異議の理由の要旨は、次のとおりである。

東京地方裁判所は、申立人と相手方間の同庁昭和三七年(ヨ)第二一〇四号業務妨害禁止仮処分命令申請事件につき、昭和三七年四月二〇日「被申請人は申請人が別紙物件目録記載の土地建物から申請人の製品、プレス用型外注加工用資材原材料および部品を搬出することならびに申請人の従業員(非組合員)が右土地建物に立ち入つて就業することを口頭でその中止を説得する以外の方法で妨害してはならない。」との決定をなし、右決定正本は翌二一日債務者に送達された。

しかるに、申請人が右決定正本送達後出荷しようとし、また従業員を右土地建物に立ち入らせて就業させようとしたところ、相手方は、申立人会社正門前に多衆をもつて幾重にも強固なピケテイングを行い、更に扉を閉鎖するなど実力をもつて申立人の出荷ならびに従業員の出入を妨害し、本件仮処分命令に基づく耐忍義務に違反した。

そこで申立人は、昭和三七年四月二七日東京地方裁判所執行吏内村寅吉に対し相手方の妨害行為の排除を求めるべく委任した。同執行吏は、同月三〇日現場に臨んだが、相手方に耐忍義務違反の事実があるにもかかわらず、相手方代理人が異議を述べたところ、抵抗排除行為に着手することなく執行々為を実施しなかつた。

よつて、民事訴訟法第五四四条第二項により異議の趣旨どおりの裁判を求める。

三  申立人提出の甲第一号証、甲第二号証および甲第三号証の一ないし二二によれば、次の事実が認められる。すなわち、昭和三七年四月二一日午後三時頃申立人会社の製造部長が各課長を指揮して本件建物である工場の製品置場および製品倉庫から製品を搬出し始めると、相手方組合の執行委員長新島常嘉らの指揮する組合員約四〇名が会社正門の内外にスクラムを組み、玄関の鉄扉を閉鎖し、かつその内外にピケツトを張つて通行を阻止し、会社製品の搬出を妨害した。同年四月二三日午後、午前中待機していた警察官が引き上げたところ、相手方の組合員は、他からの応援を得て玄関内に押し入り、出入口をふさいで気勢をあげ、申立人の出荷を全く不可能にした。翌二四日は、非組合員が本件建物の工場に入つてその整理清掃を行おうとしたところ、組合幹部その他組合員らは、工場を占拠したまま非組合員を追尾したり、これに悪口雑言を浴びせて清掃を妨害し、また倉庫の扉を釘付けして非組合員がこれに入ることができないようにした。更に翌二五日には、非組合員が前日に引続き事業場の掃除をしたところ、組合員は、前日同様これを追尾したり、これに悪口雑言を浴びせたり、また言いがかりをつけて掃除を妨害し、プレス職場においても非組合員を威嚇して清掃を妨害した。また組合員は、同日午後二時頃工場内に入つて機械の点検を始めた従業員にまつわりついてその作業を妨げた。なお、同月二七日申立人が本社工場で非組合員に業務を行わせようとしたところ、同日午前七時半頃から組合員約一〇〇名は、他からの応援を得て会社正面玄関および通用門の前に三重、四重のピケツトを張り、またスクラムを組んで会社本館の出入口を閉鎖して会社内への立入りを完全に阻止した。更に同日午前九時頃非組合員が通用門から入場しようとしたところ、組合員らは、これらを中傷し、威嚇し、またこれらに暴行を加えたりなどしてその入場を阻止した。その後非組合員の一部は二階の工場に入つたが、組合員の一部も工場内に入り、説得と称して非組合員を中傷し、罵倒したりしてその作業を不可能にした。

そこで申立人は東京地方裁判所執行吏内村寅吉に前記妨害を排除すべく委任したのであるが、同執行吏は、昭和三十七年四月三〇日本件土地建物の所在地に臨み相手方代理人弁護士西田公一らに出会して本件仮処分命令正本を示し要旨を告げたところ、同弁護士が右決定正本には執行吏のなすべき事項が具体的に記載されていないし、また執行は既に右決定正本の送達によつて終了しているのであるから執行々為には疑義があるのでこれに応じ難いと述べたところ、内村執行吏は申立人が委任した妨害排除の執行々為を実施しなかつた。

四  ところで不作為義務には単に一定の行為をしないという純粋の不作為義務と一定の行為がなされるに当りそれを耐忍して妨害しないことを目的とする義務があるところ、債務者が耐忍義務に違反して耐忍すべき義務を有する行為に抵抗する場合には、執行吏は債権者の委任によりその執行に立ち会つて債務者の執行を排除することができると解するのが相当である(執行吏執行手続等規則第五六条、民事訴訟法第五三六条第二項参照)。いまこれを本件についてみるに、甲第一号証によれば、申立人主張のとおり、昭和三七年四月二〇日相手方は申立人が本件土地建物からその製品等を搬出すること、ならびに申立人の従業員(非組合員)が右土地建物に立ち入つて就業することを妨害してはならない旨の仮処分命令がなされ、その決定正本がその頃相手方に送達されたことが明らかであるから、相手方は申立人の右行為を耐忍すべき義務を負うものといわなければならない。しかるところ、相手方は前記認定のとおり右耐忍義務に違反して申立人の行為を妨害したのであるから申立人は執行吏に委任して相手方の妨害の排除を求めることができるというべきである。しかるに執行吏内村寅吉は前記のとおり申立人の委任があつたのにかかわらず妨害排除の執行々為を実施しなかつたのであるから、右は正に民事訴訟法第五四四条第二項の執行吏が委任に従い執行々為を実施することを拒んだときに該当するものといわなければならない。

よつて申立人の本件申立は理由があるからこれを認容し、主文のとおり決定する。

昭和三七年六月二〇日

東京地方裁判所民事第一九部

裁判長裁判官 吉 田   豊

裁判官 橘     喬

裁判官 吉 田 良 正

別紙物件目録(省略)

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