東京地方裁判所 昭和38年(モ)14781号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕本件土地について、前主たる合資会社二樹園から債権者の三男水野善雄の名義に所有権移転登記がなされ、昭和三三年一月一四日右善雄から債務者に(本件(一)、(三)の土地については当時の登記名義人たる高峰森林株式会社から直接債務者に)所有権移転登記がなされている。債権者は、本件土地を合資会社二樹園から買い受けて所有権を取得したのは債権者であつて、納税管理の都合等の理由で三男善雄の名義で所有権取得登記をしておいたにすぎないところ、善雄が株式会社平和相互銀行から本件土地を担保に金を借り換える便宜上、債務者に本件土地((一)、(三)の土地についてはすでに担保権者であつた高峰森林株式会社の同意を得て中間省略により)の所有権移転登記をしたものであり、実体上債務者には所有権が移転しておらず、また債務者に対する右移転登記は善雄と債務者間の通謀虚偽表示によるもので無効である等の事由を挙げて、債務者を被告として本件土地の所有権移転請求訴訟を提起し、その執行保全のため本件土地の処分禁止の仮処分を申請した。
判決は、本件土地の真実の所有者が債権者であることにかなり疑いありとしながら、仮りにその点が疎明ありとしたところで、債権者の主張は権利の濫用に当ることを、次のように認定判断している。
〔判決理由〕債権者は、同人が本件土地を前主から買い受け所有者となつたと主張し、本人尋問においてその主張に即した供述及び三男である水野善雄名義に登記した事情についても種々の供述をしている。また甲第一号証(判決正本)によれば、債権者は昭和二九年善雄を被告として当裁判所に、本件土地が債権者の所有に属することを理由に所有権移転登記を求める訴を起し、同年一〇月二一日認容判決(自白判決)があつたことが認められ、右判決は控訴された形跡はない。しかし後記本件仮処分申請に至る経緯にかんがみると、右本人尋問における供述はいまだ措信しがたく、前記認容判決によつても、その当事者間の既判力は別として、本件土地が真実債権者の所有であると直ちに断ずるわけには行かない(右判決引用の訴状請求原因の記載によると『色々な事情があるので訴訟によりこの間の事情を明確にし所有名義を移転する必要があるので本訴を提起した』とあつて、真に当事者間に具体的紛争があつたか否か疑わしめるものがあり、親子で自白訴訟をなし、しかもその判決の執行もしないという奇妙なことになつているのである)。およそある物件が親と子のいずれに属するかのごときは、両者争いがなくまた両者の利害に関する限りどのように主張しようと干渉する必要はないかもしれない。従つて仮処分事件である本件の場合、債権者が本件土地を買い受けたという主張を早急に否定し去るのは妥当でないともいえるが、仮にそれが疎明されたとしても、債権者が第三者にその所有権を主張できるかどうかは別問題である。本件土地が前主から善雄の名義に所有権移転登記がなされていたこと及び昭和三三年一月一四日債務者に所有権移転登記がなされたことは、争いがない。ところで乙第一ないし第三号証によれば、債務者が善雄を被告として提起した当裁判所昭和三三年(ワ)第四八九一号訴訟(本件土地上の建物の明渡)の反訴として、善雄は本件土地及び地上建物が自己の所有に属すると主張して債務者に所有権確認及び登記抹消を求めたところ、昭和三六年九月二一日本訴反訴とも善雄が敗訴したこと(債権者本人尋問の結果により右訴訟は控訴審に係属中であることが認められる)、右訴訟に債権者も証人として出廷し、善雄が本件土地及び地上建物を所有していると証言したこと(なお債権者本人尋問の結果によれば、債権者は何回か右訴訟の法廷に来ていたことが認められ、別段善雄の訴訟に異論を立てたり、もちろん当事者参加などはした形跡はない)、善雄は債務者を債務者として昭和三六年一〇月一一日東京高等裁判所から本件土地及び地上建物の処分禁止の仮処分を得ていたが、同三八年九月一六日その異議訴訟において右仮処分決定を取り消す旨同裁判所から判決があつたことが認められ、右判決と同日、債権者が右事実に触れることなく本件仮処分申請に及んだものであることは本件記録上明らかである。以上の経過にかんがみるときは、前記東京高等裁判所の仮処分取消判決があつたため(あるいはそれを予測して事前に)、これに代る仮処分を当裁判所に求める意図をもつて、それまで善雄の訴訟の経過を知る母親の債権者が急遽本件土地の所有者であると主張し本件申請に及んだものであることは明白である。もちろん善雄と債務者間の判決の効力は債権者に及ぶものではないから、どのような訴訟を債権者が起こそうと自由であるし、本件訴訟代理人と前記善雄の別件訴訟代理人とは別で、主張も若干異る点もあるが、大筋はいずれも善雄、債務者間の本件土地の所有権移転登記の効力がないことを言おうとするものであり、それを本件では債権者が所有者として主張するにすぎないのである。一方債務者としては、善雄との間の本案訴訟がなお東京高等裁判所に係属中とはいえ、一審で勝訴し、一方善雄のなした仮処分については、善雄と抗争の末同裁判所においてその取消を得たのに、直ちにまた本件債権者から事を蒸し返された形で同様の拘束を受けなければならないことは、通常の訴訟当事者が受けるより大きな苦痛であるといわなければならない。以上の情況のもとにおいて、債権者が仮りに本件土地の所有権をもつていたとしても、それを主張して本件仮処分申請に及んだことは、権利乱用として許されないものといわなければならない。(小堀勇 友納治夫 安倍晴彦)