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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)1137号 判決 1965年3月30日

原告

斎藤幹直

代理人

岡本省三

外一名

被告

萩原峰雄

代理人

藤川幸吉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事   実≪省略≫

理由

訴外亡石山ことが訴外横山清造よりその所有の本件宅地四五坪三合八勺を賃借しその土地の上に本件建物を所有していたところ右ことは原告主張の日死亡し、前記石山義久等において共同相続し右土地の賃借権や建物所有権を取得した事実は当事者間に争いがなく、また被告が昭和三一年二月一三日訴外石山義久より本件建物の内の前記床店部分を賃借したこと、並に原告が昭和三七年六月一九日訴外横山から本件土地を代金四八〇万円を以つて買受ける旨の契約をなし翌二〇日これが所有権移転登記手続を了したことは証人横山清造の証言当時本人として尋問を受けた石山義久の陳述によりこれを認めることができる。

被告は右原告と訴外横山との本件土地売買契約は虚偽仮装のものであるので原告に、本件土地所有権は移転しないと抗争するのでこの点を審理する。

一、前記石山の陳述や同人の陳述によつて成立を認め得る乙第三号証、証人宇田川良之助の証言被告本木尋問の結果や、同人の陳述により成立を認め得る乙第四号証の一乃至四によれば被告は昭和三〇年一二月七日訴外石山義久より本件建物の内の床店部分その他を賃借していた訴外宇田良之助より右石山の承諾を得て右賃借権を譲受け、昭和三一年二月一三日、右石山との間に改めてこの床店部分につき賃借契約が締結され期限五年、更新し得る約束をなし、地主横山においてこの契約の立会人となつたこと、被告は昭和三六年七月頃、訴外石山義久方に呼ばれ、横山清造や石山義久よりこの土地を他に売りたいことを理由として本件建物部分の明渡方を懇請され、その後も同月中に右横山方に呼ばれ、原告も立会の上明渡方を要請されたが被告は自己の理髪営業がようやく軌道に乗つてきたことを理由としてこれまた応じなかつたこと。したがつて原告は横山より本件土地の譲渡を受ける前に被告が前記建物から立退かしめることの容易でないことを知つていたものといえること。

二、成立に争いのない乙第四乃至第七号証に被告本人尋問の結果によると原告は本訴掲起以前においては前記のような地代不払に起因する土地賃借契約の解除についての主張はしていないこと。例えば原告が本件土地についての売買契約締結後、昭和三七年七月一二日被告に対し、本件建物部分からの退去と敷地の明渡を内容証明郵便を以て催告したが、その理由としては本件建物には登記がないので被告は土地所有権を取得した原告には対抗し得る権原のないことをあげているに過ぎないこと。さらに原告は同月二七日付これが明渡の調停の申立をしたが、この申立書には土地明渡の理由として本件建物には保存登記がなく、石山との本件建物部分の賃貸借も現在終了しているので被告はこの建物に居住しその敷地を使用するについて原告に対抗し得る何等の権原もないことをあげている。そしてこの調停手続進行中にも前記石山の地代延滞による土地賃貸借契約解除の点にはいささかもふれるところなく、また原告は右調停に際し所轄保健所より自分の妻の経営する薬局の整備の要求があり、基準に適合する薬局を建築するために本件土地を必要とする趣旨は少しも述べられなかつたこと、甲第一号証(保健所よりの通知)は昭和三七年一二月一二日付であつて、原告の本件土地購入後のことに係ること。

三、原告は訴外石山義久の訴外横山に対する地代の延滞をあげて本件賃貸借契約の解除理由とするも、証人横山清造の証言、前記石山義久の陳述によれば訴外横山は前記石山より本件建物の一部を賃借しその不動産業の事務所として使用しており、その石山に対する賃料額は、石山の横山に対する地代額より高額であるので、両者相殺の機会は多いにもかかわらず訴外横山は一方的に石山地代債務不履行をあげて土地賃貸借契約の解除の意思表示をした旨を述べていること。

四、本件土地売買代金は前記のように金四八〇万円であり内一五〇万円はさきに原告が訴外横山に対し貸与したとする同額の金員を以つて充当し、内金二三〇万円はこの土地の所有権移転登記手続に際し支払い残金一〇〇万円は被告よりの土地明渡が済んだときに支払う約束である旨原告本人は陳述するが、原告と横山との間の前記一五〇万円の消費貸借については担保もなく、弁済期利息その他条件のない信用貸しであるし、これに関する証言類もないこと、また原告と、横山との本件土地売買契約についてもこれが契約書の作成のないこと以上の点は原告本人尋問の結果によつてもこれを窺い得ること(但し、証人横山清造の証言中、右売買契約書は登記が済んだので破毀したとの部分は信用しない)。

五、前記横山清造は不動産業者であることは証人横山清造の証言によるも明かで、また原告も、少くとも横山清造の右業務の手伝いをしているものであることは被告本人尋問の結果でも肯かれること。

以上各認定によれば、原告と横山との本件土地売買契約は被告を本件建物部分から立退かしめるためにとられた虚偽仮装のものと認定できるので、この契約を以ては原告は未だ本件土地の所有権を取得したものとは称し得ない。

右認定に反する証人横山清造の証言前記石山義久の陳述、並に原告本人尋問の結果は信用せず、他にこれを覆えすに足る確証はない。

よつて原告の本訴請求は他の争点について判断するまでもなく、失当に帰するので、民事訴訟法第八九条を適用し主文のように判決をする。(柳川真佐夫)

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