東京地方裁判所 昭和38年(ワ)1842号 判決
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〔判決理由〕そこで、被告の抗弁について検討する。
(一) 同被告は、訴外株式会社H製作所の専務取締役O、工場長Y、工場次長Nらが、おそくとも昭和三二年四月二〇日までに、甲実用新案の内容を知らないで、それと同一の考案を完成したと主張するけれども、<証拠>によれば、次の事実を認めることができる。
原告の父Sは、昭和三一年頃同人が社長をしていた訴外K製作所において、壜の被蓋の円胴部にミシン状の切割線を施すため円周の全部に鋸状の刃のついた切刃を使用していたが、これを使用する機械の上下のロールの回転が十分に一致しないところから、一回転後鋸刃のあたる箇所にずれを生じ、そのためミシン目が切れて不良品が多く出るので、その改善に腐心していた。
そこで、同人はその機械を製作していたH製作所にその調整を要求し、同会社の従業員Tとともに、上下のロールの回転を一致させようと努力したが、成功しなかつた。そのうちに、Sは、切刃を改良することを思いつき、切刃の円周の鋸刃を、被蓋の径に相当する寸法だけ残して他をとり除けば、切刃が回転しすぎても被蓋に鋸刃が当らないから、ミシン目が切れることがなくなると考えた。そこで、Hに口頭で指示を与えて、この考案に基づく切刃を製作させることとし、Hにおいては、その指示に基づいて切刃を製作し、Tが前記K製作所に持参して同製作所の機械にとりつけ、試験と改良を重ねた末、約半年後に実用化を完成した。
(二) ところで、甲実用新案の登録請求の範囲およびその作用効果によると、同実用新案の要旨は、円板の外周縁の一部にミシン切りを行なう刃を設け、その両端に無刃部分を設けることによつて、これを使用した場合ミシン状の切込を施した筒状体(壜の被蓋の円胴部)の周囲に重ねて刃をあててつなぎ片を切断することがないようにすることにあるものと理解され、それは、さきに認定したSの考案と一致する。してみれば、甲実用新案はSの考案にかかるものと認めるのが相当である。この考案を実用化するためにさらに試験と改良を重ねた事実のあつたことは、さきに認定したとおりであるけれども、実用化の段階でこれに協力したH製作所の職員をもつて、甲実用新案の考案者ということはできず、また同職員が、甲実用新案の内容を知らないでそれと同一の考案をしたということもできないことは明らかである。
(三) 証人Hの証言中には、H製作所において当時の工場長Yおよび工場次長NがTとともに本件切刃の研究にあたつた旨の供述があるけれども、その研究とは、前記認定の事実に照らすときは甲実用新案の実用化の段階における研究であると認められるから、この証言は前記認定に影響を及ぼすものではない。<中略>
してみれば、HのO、Y、Nらによつて、甲実用新案と同一の考案がなされたことを前提とする被告の先使用権援用の抗弁は、他の点を検討するまでもなく、これを採用することができない。(古関敏正 水田耕一 牧野利秋)