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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)2089号 判決 1965年1月30日

原告 内山博

被告 鈴木孝次

主文

一、被告は原告に対し、別紙物件目録<省略>記載(三)の建物および(四)の工作物を収去して、同目録記載(一)の土地を明け渡せ。

二、被告は原告に対し、別紙物件目録記載(二)の建物部分を明け渡せ。

三、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の申立

一、原告

主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求める。

二、被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」

旨の判決を求める。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

(一)  原告は昭和二〇年一月一日訴外田代信諦から別紙物件目録記載(二)の建物(以下本件建物という。)を買い受けるとともに(代金額は不詳)、同日訴外宗教法人光明院から、その所有する別紙物件目録記載(一)の土地二三六坪二合七勺のうち、約九七坪六合(別紙図面<省略>記載(3) 、(4) 、(5) 、(6) 、(10)、(11)、(12)、(3) の各点を順次直線で連結した部分に該当する地域)を、その敷地として期間を定めず賃借し、なお原告は本件建物につき地主に無断で増改築をしないことを約束した。そして当初の地代は不明であるが、昭和二四年一カ月金三、九〇二円に合意増額された。その後昭和三九年六月二九日原告は本件建物につき、田代信諦の相続人田代弘範から所有権移転登記を受けた。

(二)  しかるところ、被告は原告に対抗しうる何らの権限もなく、本件建物のうち別紙物件目録記載(二)の部分を占有使用し、さらに被告の前記借地上に同目録記載(三)の建物(以下(三)の建物という。)および(四)の工作物(以下(四)の工作物という。)を建築、所有して同目録記載(一)の土地を占有し、よつて原告の本件建物に対する所有権、その敷地に対する賃借権を不法に侵害している。

(三)  よつて、被告に対し、借地権にもとずき別紙目録記載(一)の土地を、(三)の建物および(四)の工作物を収去の上、明け渡すことを求めるとともに、所有権にもとずき本件建物のうち同目録記載(二)の部分の明渡を求める。

(四)  仮に、借地権にもとずく妨害排除の請求が認容されない場合には、予備的につぎのとおり請求する。

(1)  原告は前記のように、本件建物の敷地九七坪六合につき、地主の宗教法人光明院に対し賃借権を有するところ、被告は地主に対抗しうる権限なく、同地上に(三)の建物および(四)の工作物を建築所有して、光明院の所有権を侵害している。よつて原告は、光明院の所有権にもとずく妨害排除請求権を代位行使して、被告に対し、(三)の建物および(四)の工作物を収去して(一)の土地を明け渡すべきことを求める。

(2)  被告は訴外田代信諦から、本件建物を賃借し居住していたところ、原告は前記のように昭和二〇年一月一日田代信諦から本件建物を買い受け、同時にその賃貸人としての地位を承継した。ところが原告と被告との間の賃貸借契約は後述のとおり、解除により終了したのであるから、本件建物の敷地上に存する(三)の建物および(四)の工作物を収去して原状に復した上、その敷地の一部である別紙物件目録記載(一)の土地の明渡を求める。

二、答弁および抗弁

(一)  請求の原因第一項のうち、原告が、本件建物を訴外田代信諦から買い受け、原告主張の土地を訴外宗教法人光明院から賃借したことは認める。右の売買および賃貸借契約の時期は昭和二二年頃である。

同第二項のうち、被告が本件建物のうち原告主張の部分を占有使用しており、また原告の借地上に(三)の建物および(四)の工作物を建築所有し、よつて原告主張の土地を占有していることは認めるが、その余の点は争う。

(二)  被告は昭和九年七月訴外亡田代信諦から本件建物を、賃料一カ月金二八円と定めて賃借し、爾後本件建物およびその敷地一二三坪を占有使用してきた。

原告は昭和二二年頃田代信諦から本件建物を買い受けるとともに、本件建物の賃貸人としての地位を承継した。したがつて被告の本件建物およびその敷地の占有は、本件建物の賃借権にもとずくものである。

三、抗弁に対する原告の認否、反論

(一)  被告が田代信諦から本件建物を賃借し居住していること、および原告が田代信諦から本件建物を買い受けるとともに賃貸人としての地位を承継したことは認める。

(二)  被告は本件建物の賃借人として、つぎのような重大な背信行為をなし、もはや相互の信頼関係を維持することができないので、原告は昭和三七年四月末頃被告に対し、口頭をもつて賃貸借契約を解除した。仮にこの解除が認められないとするならば、昭和三八年五月一四日付準備書面をもつて解除の意思表示をする。したがつて本件建物の賃貸借契約は解除により終了した。

(1)  本件建物の賃料は、昭和二〇年から昭和三四年頃にかけて、当初は一カ月金一、五〇〇円でありその後一カ月金三、〇〇〇円に値上げされたが、被告はこの間賃料の支払を滞りがちであつたので、原告は、被告に瓦職の仕事を与えてその賃金で清算した。そしてこの間の昭和二二年頃原告は本件建物の二階を自己の経営する会社の社員寮として使用する必要上、被告に金三、〇〇〇円を交付して該部分につき賃借権を放棄させた上、その明渡を受け、右会社の社員である訴外福崎茂吉を居住させた。原告はその後会社を解散したので、更めて福崎に賃料一カ月金一、六〇〇円と定めて賃貸し、その後一カ月金四、〇〇〇円に値上げした。ところで原告がひき続き被告に賃貸している本件建物の階下の賃料について、昭和三五年一月以降、一カ月金一万円に値上げされたのであるが、被告は、訴外福崎が二階の賃料として月額金四、〇〇〇円を原告に支払つていたので、その分を控除して一カ月金六、〇〇〇円の割合で弁済供託しているにすぎない。

(2)  被告は昭和二九年頃原告に無断で本件建物の敷地上に、(三)の建物の建築に着手し、原告の中止の要求にもかかわらず翌年頃完成し、さらに昭和三〇年頃同敷地上に原告に断わりなく、(四)の工作物を築造した。以上被告の行為は、借家に伴う敷地利用の範囲を逸脱し、その保管義務に違反するものであるから、原告は被告に対し、昭和三一年三月一五日付内容証明郵便により同月三一日までに撤去するよう催告し、さらに昭和三六年一月三一日付内容証明郵便により撤去を要求したのであるが、被告はいずれもこれに応じないばかりでなく、前記建築については地主の承諾をえたなどと不当な主張をしている。

(3)  被告は、昭和三六年七月頃本件建物の二階につき、木組をし、戸、障子を持ち込んで改造工事にとりかかろうとした。また昭和三七年春頃、塀および瓦置場に使用する小屋の建築に着手し、七割程度工事をすすめた。さらに同年暮頃本件建物の裏の空地に風呂場を建築しようとした。

(4)  前掲のように、訴外福崎は本件建物の二階を原告から賃借し使用していたのであるが、被告は昭和三八年二月、実力を用いて福崎の占有を排除した。

四、原告の主張に対する被告の応答、反論

(一)  原告主張の(二)の(1) について

被告が原告の経営する会社「日栄ブロツク」の仕事を下請けし、その代金債権と原告の賃料債権とを相殺したことはあるが、被告が賃料の支払をしなかつたとの点は否認する。右の相殺は、被告が賃料を支払わなかつたからではなく、相互の仕事の上での便益のためになされたものである。また昭和二二年頃から昭和三五年一〇月頃までの間、前記会社の従業員訴外福崎茂吉が本件建物の二階に居住していたことは認めるが、被告が原告から金三、〇〇〇円を受領して右二階の賃借権を放棄したとの点は否認する。訴外福崎と原告との間の前記二階についての賃貸借契約の点は知らない。また被告は昭和三五年一月一日原告に対し本件建物の賃料月額金六、〇〇〇円を提供したが、受領を拒否されたので、爾後供託を続け今日に至つている。

(二)  同(二)の(2) について

(1)  被告が本件建物の敷地上に、(三)の建物および(四)の工作物を建築したこと、および原告主張内容の各内容証明郵便が被告に到達したことは認める。

しかしながら、被告の前記物件の築造は、以下述べるような理由により敷地の保管義務違反となるものではない。

(2)  被告は、自己の職業上、本件建物およびその敷地を効果的に使用するために前記物件を築造したのである。すなわち、被告が田代信諦から本件建物を賃借した当時、その敷地として使用を許された土地は一二三坪であつたが、昭和二二年頃そのうち二六坪余を、原告の口添えで福崎茂吉に明け渡し、同人は同所に自動車修理工場を建設して営業することができた。さらに昭和三五年始頃原告および福崎の要請を容れ、本件建物の階下六畳先の下屋を撤去して敷地の一部一六坪余を福崎に明け渡し、同人はそこに二階家を造つて住居とした。以上のようなわけで本件建物の敷地のうち被告が現実に使用している坪数は実測七〇坪一合九勺となつたのである。

被告はこの限られた敷地を効率的に使用するために、自己の営業上専ら瓦を格納するための倉庫として、(三)の建物および(四)の工作物を築造したものであり、かつその構造、使用目的からみて原状に回復することは容易であり、終局的に原告に損害を与えるものではない。

(3)  前掲のように、被告が田代信諦から本件建物を借り受ける際、その敷地の使用に関し、右田代との間につぎのような特約をした。すなわち

被告の先代が、光明院の観音堂の屋根を葺いた関係もあつて、被告において前記敷地上に、被告の営む瓦職の便宜のために倉庫その他工作物を設置することができる旨を約した。そして被告は右の敷地上に瓦を保管する小屋を築造所有していた。

その後、原告は田代信諦から本件建物を買い受けるとともに、その賃貸借契約上の賃貸人としての地位および該契約に附随する前記特約上の地位を承継した。

(4)  さらに(三)の建物の建築については、被告は昭和二九年夏頃原告から予め承諾をえているし、(四)の工作物の移築については原告から明示または黙示の承諾をえている。

(三)  同(二)の(3) について

被告が本件建物の二階を改造しようとしたとの点、および瓦置場に使用する小屋を建築しようとした点は否認する。被告が昭和三七年一二月二八日頃木組をして塀を設置したこと、および同年一一月中旬頃本件建物の裏の空地に風呂場を建築しようとしたことはある。

(四)  同(二)の(4) は否認する。

五、被告の主張に対する原告の応答

被告主張(二)の(2) について、被告の(三)の建物および(四)の工作物の築造は、本件建物の敷地の使用権限を逸脱するものである。

同(二)の(3) について、被告と田代信諦との間に被告主張のような特約が締結されたとの点は知らない。

同(二)の(4) 事実は否認する。

第三、証拠<省略>

理由

一、原告が訴外田代信諦から本件建物を買い受けたこと、および原告がその敷地を訴外宗教法人光明院から賃借したことは当事者間に争がなく、証人田代弘範、小林一夫の各証言とこれにより真正に成立したものと認められる甲第一号証、証人小林一夫の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一、二を総合すると、原告は昭和一九年一二月頃本件建物を買い受けるとともに、訴外宗教法人光明院から、その所有する別紙物件目録記載(一)の宅地二三六坪二合七勺のうち九七坪五合六勺一才を、本件建物の敷地として賃借し、昭和三五年九月土地賃貸借契約書を交換してその存続期間を昭和二〇年一月一日から三〇年と定め、なお賃料は昭和三六年四月、一カ月金三、九〇二円に合意増額されたことが認められる。

二、被告が訴外田代信諦から本件建物を賃借し居住していたこと、および原告が同訴外人から本件建物を買い受けるとともに、同人の賃貸人としての地位を承継したことは当事者間に争がなく、証人田代弘範の証言とこれにより真正に成立したものと認められる乙第一号証の一、二および被告本人尋問の結果を総合すると、被告は昭和九年七月田代信諦から本件建物を、その附属敷地を前記二三六坪二合七勺の宅地のうち一二三坪と定めて、賃料一カ月金二八円の約で賃借していたところ、前記のように原告は本件建物の売買とともに右の賃貸借関係を承継したことが認められる。

三、原告は、被告には賃貸借契約を継続するに堪えない重大な背信行為があつた旨主張し、その具体的内容について列挙するので、そのうちまず、(三)の建物および(四)の工作物の建築所有による敷地の保管義務違反の主張から判断をすすめることとする。

(一)  成立に争のない甲第一三号証証人田代弘範、福崎茂吉の各証言と被告本人尋問の結果の一部を総合すると、本件建物は本来居宅として建築されたものであり、被告が田代信諦から借り受ける際も、住居の用に供する目的で貸借されたこと、しかるところ被告は、原告が訴外宗教法人光明院から本件建物の敷地として賃借した前記九七坪五合六勺一才の土地上に昭和二九年頃(三)の建物を建築し、その後間もなく(四)の工作物を築造し、以上いずれも屋根瓦職の営業上、瓦の保管の用に供してきたことが認められ、被告本人の供述中、右の認定に牴触する部分は前顕の各証拠と比較検討すると信用するわけにはいかない。

およそ建物の賃借人は、賃借建物の使用の目的範囲内において、その敷地を使用する権限を有するにとゞまるのであるから、被告の前記物件の建築、使用は、その敷地使用権限の範囲を超え、敷地の保管義務に違反するものといわなければならない。

(二)(1)  この点につき、被告はまずつぎのように主張する。

被告は、自己の職業上、本件建物を効果的に使用するため、前記物件を築造した。すなわち被告が田代信諦から本件建物を賃借した当時、その敷地として使用を許容されていた土地は一二三坪であつたが、その後原告およびその従業員である福崎茂吉の懇請により情誼上、敷地の一部を福崎に明渡した結果、被告が使用している敷地の坪数は七〇坪一合九勺となつた。このように縮少された敷地を営業上効率的に使用し、もつて自己の最低限度の生活を維持するために、やむをえず前記物件を築造したものであり、その規模構造使用目的等からみて容易に撤去して敷地の原状を回復できる工作物であるし、結局この築造により特に原告に損害を与えるものではないのであつて、以上の点を考慮すると、被告の行為は本件建物の合理的使用目的の範囲に属する、と。

よつて審案するに、本件建物の使用目的は、住居の用に供するにあることは前認定のとおりであり、被告の営業とは無縁であるから、その敷地を営業のために使用することは、仮に使用の態様が効率的であり、また生活を維持する上からやむをえず使用したという事情があつても、建物本来の使用目的の範囲に属しないことは、いうまでもない。また被告が築造した物件が容易に収去することができるという点については(三)の建物に関しては、これを肯認できる証拠が存在しないのみならず、さようなことは、賃借建物を明け渡す際、賃借人が築造物件を収去するために要する費用に影響を及ぼすだけであつて、敷地の保管義務に直接連らなる問題ではない。また損害の点も本件の場合特に問題とはなりえない。

(2)  つぎに、被告は、被告が田代信諦から本件建物を賃借するに当つて、被告において、その敷地上に自己の営なむ瓦職の便宜のために倉庫その他工作物を設置することができる旨を特約したのであるが、原告は田代信諦から本件建物を買い受けるとともに、その特約の当事者としての地位を承継した旨主張するので考えてみると、証人田代弘範の証言と被告本人尋問の結果を総合すると、被告は本件建物の賃借後、その敷地の一角に、田代信諦の承諾のもとに約九坪の仮設小屋を築造して瓦を保管していたことが認められるけれども、被告が主張するような敷地の使用に関する包括的な特約が締結されたという点については、この点に関する被告本人の尋問の結果は、同証拠によつて認められるところの、被告が(三)の建物を建築した後、原告から再三その撤去方を強く要求されたのに対し、被告は前記特約のことには一言も触れずひたすら宥恕を乞うのみであつたこと、および証人田代弘範の証言ならびに弁論の全趣旨と比較検討するとたやすく信を措くわけにはいかないし、他に確証も存在しない。かえつてこれらの証拠を総合すると、被告の主張するような特約は存在しなかつたことが認められる。したがつてこの特約の存在を前提とする被告の其余の主張は、その余の点につき判断をするまでもなく失当というほかはない。

(3)  さらに、被告は、(三)の建物および(四)の工作物の築造については原告の承諾をえた旨主張し、被告本人は(三)の建物につき被告の主張に沿う供述をしているが、証人小林一夫の証言と比較すると、にわかに信用するわけにはいかず、他に冒頭の主張事実を肯認するに足りる証拠は存在しない。

(三)  以上のようなわけで、(三)の建物および(四)の工作物の築造が本件建物の敷地の保管義務違反に該当しない旨の被告の主張はすべて採用の限りでない。

そこで、被告の敷地保管義務違反の態様、程度等について検討を加えてみると、被告の前記物件の築造は、敷地の重大な用法遵守義務違反を伴なうものであることは前認定事実からして明白であり、当事者間に争のない(三)の建物の規模、構造および(三)の建物およびその附近の写真であることにつき当事者間に争のない甲第八号証の一、二と被告本人尋問の結果によつて認められる(三)の建物の本件建物の敷地上に占める位置、本件建物および近隣の建物との近接の程度等を考慮すると、被告の前記義務違反の責任は決して軽視するわけにはいかないものと考えられる。

しかも、被告は原告から(三)の建物の撤去方を再三にわたり要求されたのにこれに応じなかつたことは前認定のとおりである。また原告は被告に対し、昭和三一年三月一五日付内容証明郵便で、同月三一日までに前記契約違反にかかる物件の撤去方を催告し、昭和三六年一月三一日付内容証明郵便で重ねてその撤去方を催告したことは当事者間に争がない。被告は以上のように自己の違反行為について再度反省、飜意を催されているのにかかわらず、右の違反行為を停止して敷地を原状に回復することをせず、今日に及んでいることは前掲の事実に徴し明らかである。

被告の前記契約違反およびその後にとつた態度も、ここにいたつては、もはや賃貸借契約における相互の信頼関係を維持するに堪えず、契約の継続は殆んど不可能に帰したものと断じても過言ではないものと考える。

四、ところで、原告は、昭和三七年四月末頃被告に対し口頭で本件賃貸借契約を解除した旨主張するが、この事実を肯認するに足りる証拠は何ら存在しない。しかしながら原告訴訟代理人が昭和三八年六月一八日午前一〇時の口頭弁論期日において、被告訴訟代理人に対し本件賃貸借契約の解除の意思表示をしたことは明らかである。

五、以上のようなわけで、前記契約解除の意思表示は、爾余の争点について判断をするまでもなく適法、有効なものといわなければならず、ここに被告は本件建物の敷地につき使用、占有の権限を失なつたわけである。

ところで、原告の前記賃借土地上に存する本件建物について、昭和三九年六月二九日原告のため所有権移転登記が経由されたことは成立に争のない甲第一三号証によつて明らかである。したがつて原告の賃借権は対抗力をそなえ、物権同様の排他性を帯有するにいたつたものと解せられる。したがつて右の借地を不法に占拠して賃借権を侵害している被告に対し、原告は借地権にもとずいて直接妨害の排除を請求できる。

六、よつて被告に対し、所有権にもとずき本件建物のうち別紙物件目録記載(二)の部分の明渡と、借地権にもとずき同目録記載(一)の土地を(三)の建物および(四)の工作物を収去の上、明け渡すべきことを求める原告の請求はすべて正当として認容することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言はこれを付さないのが相当であると認めてその申立を却下し、主文のとおり判決する。

(裁判官 石崎政男)

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