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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)2838号 判決 1963年8月15日

原告 小干場美揮子

被告 藤崎吉次

主文

1、原告の請求を棄却する。

2、訴訟費用は原告の負担とする。

事実

原告の請求の趣旨、請求の原因及び被告の答弁は別紙中のそれぞれの記載のとおり。

理由

1、原告主張の各主債務について、原告の後見人青木節子が連帯保証債務を、原告は右後見人を法定代理人として抵当権の設定その他の担保設定行為をそれぞれ原告主張のとおりになしたことは当事者間に争がない。

原告はさらに、原告の右担保権設定行為は原告の後見人青木節子の右連帯保証債務を担保するためにも行われたものとし、また、原告自身も右後見人を法定代理人として前記争のない各主債務について連帯保証をしたと主張するが、右各主張事実を証し得る証拠はない。

2、原告は、右後見人青木節子がみずから前記各主債務について連帯保証をしながら、同時に原告の後見人として前記のとおり担保権設定行為について法定代理人となつたのは民法第八六〇条第八二六条にいういわゆる利益相反行為にあたり、原告に代理してなした右各担保設定行為は無効であると主張するが、当裁判所は原告の右意見を採らず、これをいわゆる利益相反の場合にあたらないもの、したがつて、以上後見人の代理行為はその故に無効のものではないと解する。すなわち、

(1)、保証人と物上保証人との間には互に他を保証する関係はなく、本件の場合、後見人青木節子の連帯保証債務と被後見人原告の前記各担保設定による物上保証上の責任とは互に分立し、たゞ併存するに過ぎない。

(2)、保証人と物上保証人とが併存する場合、債権者が物上保証の実行によつて債権の全部または一部の満足を得た場合、保証人はその限度で保証による弁済の責を免れるという実際的利害の相反関係が生ずることはいうまでもないが、債権者が保証人または物上保証人のいずれに対してその義務の履行を求めるかは自由であり、物上保証からする弁済は保証人の義務負担を軽減するためになされるものではなく、本件の場合においても、青木節子が原告の法定代理人として前記担保設定行為をした上さらに同時にみずからも前記連帯保証をなしたことにより、両者の併存関係が生じたというに止まり、この場合、青木節子の保証が原告の物上保証責任を軽減するためになされたとは断じえないと同様、反対に後者が前者の責任を軽減するためになされたともいえず、両者併存による事実上の利害関係は前記法条にいう利益相反の関係ではない。

(3)、保証人と物上保証人とが併存し、保証人が主債務の全部または一部を弁済したときは債権者に代位して物上保証人に対し、担保権を実行し得るに至るであろうから、(民法五〇〇条、五〇一条)、本件の場合においても求償関係に至つて正に後見人と被後見人との利害が対立することになる。しかし、それはもはや対債権者の関係を離れた後見人、被後見人間の問題であつて、その関係においてこそ民法第八六〇条、八二六条、八六六条等の適用による右両者間の利害の調節がなされることになり、右求償関係から遡つて本件の場合の前記後見人の連帯保証行為と前記原告の担保設定行為とに利益相反関係があるとはいえない。

3、以上のとおりであるから、原告の前記担保設定行為が後見人、被後見人間のいわゆる利益相反行為にあたり、無効であるとの主張を前提とする原告の本訴請求はその余の点の判断をするまでもなく失当として棄却を免れず、民事訴訟法第八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 畔上英治)

別紙

請求の趣旨

一、被告は原告に対し別紙中物件目録<省略>の建物に対する左記各登記の抹消登記手続をせよ。

(1)  東京法務局台東出張所昭和三十六年十二月十五日受付第弐八壱五参号をもつてなした所有権移転仮登記。

(2)  同建物に対する同出張所同日受付第弐八壱五壱号をもつてなした債権額参百万円也の抵当権設定登記。

(3)  同出張所同日受付第弐八壱五弐号をもつてなした賃借権設定仮登記。

(4)  同出張所昭和三七年七月五日受付第壱参壱八四号をもつてなした債権額弐百万円也の抵当権設定登記。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

請求の原因

一、原告は昭和二十六年四月三十日に出生した未成年の女子であり訴外青木節は同人の後見人である。

二、訴外有限会社青木安全靴製作所(以下訴外会社という)は代表取締役が青木健之助で平取締役が同人の弟青木健次郎と健之助の妻青木節の二名である。

三、訴外会社及び青木健之助は連帯して被告から昭和三十六年十二月十四日に金三百万円也、昭和三十七年七月五日に金二百万円也の借入をなし、訴外青木節は右借入金債務につき連帯保証し、この債務を担保するため右青木節が原告の後見人として原告を代理して原告所有の別紙目録の建物に対し、それぞれ請求の趣旨記載の抵当権並びに所有権移転仮登記、賃借権設定仮登記をなし、かつ、右主債務のため連帯保証をもした。

四、けれども後見人青木節が原告を代理してなした原告所有建物に対する前記抵当権及び仮登記の設定行為は民法第八二六条同第八六〇条の所謂利益相反行為であつて青木節の右代理は無権代理行為として無効である。即ち

(一) 同条の利益相反行為は後見人と未成年の子とが各一方の当事者となる場合だけに限らず後見人が子を代理して第三者とする行為について、両者間の利益が互に相反する場合を包含するものであること、及び利益相反行為であるかどうかはその行為自体の外形によつて判断すべきものでその行為の動機や行為の実質的効果を問題にすべきでないことはすでに確定した判例である。

(二) ところで後見人青木節は主債務者たる訴外会社及び青木健之助の被告に対する借入金債務につき保証しているものであつてみれば青木節は自己の債務につき原告の本件建物に対し前記の様な抵当権及仮登記の設定をなしたものであるから右は後見人のための利益にして子たる原告のために不利益な行為であることは明らかである。

五、従つて右青木節の前記抵当権設定及び仮登記設定行物はいずれも無権代理行為に基くものとして無効であり被告は原告に対し、右無効な設定行為に基きなされた請求の趣旨記載の各登記の抹消登記手続をしなければならない義務がある。

被告の答弁

請求の趣旨に対する答弁

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

との判決を求める。

請求の原因に対する答弁

一、第一項乃至第三項は認める。ただし、原告も連帯保証人となつたことは否認する。

二、第四項本文は否認する。

三、第四項(一)は、その末語「すでに確定した判例である。」を「近時多くの判例の示すところである。」との同義語あるいは近似語であると解して是認する。

四、第四項(二)のうち、「後見人青木節は主債務者たる訴外会社及び青木健之助の被告に対する借入金債務につき保証しているものである。」は認めるが、その余は否認する。

五、第五項は否認する。

抗弁並に被告の主張

一、原告とその後見人間の利益相反行為が、双方がそれぞれ一方の当事者となる行為ばかりでなく、後見人が被後見人を代理して第三者とする行為について、両者間の利益が互に相反する場合をも包含するとの見解は被告も是認するところである。

二、ところが、原告は、本件について、「青木節は自己の債務につき原告の本件建物に対し前記の様な抵当権仮登記設定をなしたものであるから右は後見人のための利益にして子たる原告のために不利益な行為であることは明らかである。」と独断している。右「青木節は自己の債務につき言々」と記述する青木節自身の債務は、主債務ではなく、主債務者は他にあつて、その保証債務、に過ぎない。本件の場合、原告が物上保証をし代物弁済並びに賃貸借の予約をしたのは第三者の主債務についてなしたものであつて、青木節の保証債務についてなしたものではない。原告は事実を誤認しているものであり、その誤認に基いてなした原告の判断は何等意味をなさない。

右のとおり答弁する。

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