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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)5607号 判決 1965年4月27日

原告 青柳豊住

被告 堀内貞義 外二名

主文

被告堀内貞義は訴外小金井養之輔に対し、別紙目録<省略>記載の土地につき昭和三一年一一月頃売買を原因とする所有権移転登記手続をせよ。

被告鈴木邦夫は右土地につき東京法務局板橋出張所昭和三一年九月六日受付第二八、四八一号の所有権移転登記の登記抹消手続をせよ。

被告岡田積は右土地につき同出張所昭和三八年六月一〇日受付第一九、〇五九号の所有権移転請求権保全仮登記及び同出張所同年同月二〇日受付第二〇、五六〇号の所有権移転本登記の各登記抹消手続をせよ。

原告の被告堀内貞義に対するその余の請求を棄却する。

訴訟費用は被告らの負担とする。

事実

原告訴訟代理人は主文第二、第三、第五項と同旨及び「被告堀内貞義は原告に対し、別紙目録記載の土地につき所有権移転登記手続をせよ。」との判決を求め、

請求原因として

一  別紙目録記載の土地は、その地上の建物と共に被告堀内の所有であつたが、同被告は昭和三一年一一月頃右土地を、その地上の建物と共に訴外小金井養之輔に売渡し、原告は同年一二月七日右土地、建物を小金井から買受けた。

二  これより先、被告堀内は多数債権者からの右土地に対する追及を免れるため、被告鈴木と通謀して右土地につき同被告のため、東京法務局板橋出張所昭和三一年九月六日受付第二八、四八一号により同年同月五日の売買を原因とする所有権移転登記をし、右売買契約をしたかのように仮装した。

三  被告岡田は被告鈴木から右土地を買受け、これにつき同出張所昭和三八年六月一〇日受付第一九、〇五九号の所有権移転請求権保全仮登記、同年同月二〇日受付第二〇、五六〇号の所有権移転本登記をなし、右土地の所有名義を取得した。

四  よつて、原告は右土地所有権に基づき被告鈴木及び被告岡田に対し、前記同被告ら名義の各登記の登記抹消手続を求めると同時に、訴外小金井に対する所有権移転登記請求権を保全するため、同人に代位して被告堀内に対し所有権移転登記手続を求める。

抗弁に対し

被告岡田が右土地を善意で買受けた点は否認する。原告は小金井を通じ訴外早川こと加藤秀夫に、右土地上の建物を昭和三五年一二月頃から期間約半年として賃貸中であつた。その後加藤は再三に亘る立退要求にも応ぜず、他方昭和三六年頃から再三に亘り、被告堀内に対し右土地、建物を買受けたい旨申込んだが、同被告はその都度小金井に売渡済みであるとして拒絶した。被告岡田は加藤が主宰している「有限会社早川商事」に出入りしていたのであるから、右土地が原告の所有であつて被告鈴木の所有でないことを熟知していた筈である。しかも加藤は被告岡田の土地代金を支出し、且つ同被告の買受当時、右土地建物を加藤名義にする旨公言していたのであるから、被告岡田は右土地が偶々被告鈴木名義であることを奇貨とし、原告の所有であることを知りながら同被告から買受けたものである、

と陳述した。

被告堀内は請求棄却の判決を求め、

答弁として

原告主張事実第一項のうち、右土地、建物が被告堀内の取得したものであることは認めるが、その余は否認する。同第二項は認める。同第三項のうち、原告主張のような各登記がなされていることは認めるが、その余は不知

と陳述した。

被告鈴木訴訟代理人は請求棄却の判決を求め、

答弁として

原告主張事実第一項のうち、右土地建物が被告堀内の所有であつたことは認めるが、その余は否認する。同第二項のうち、原告主張のような登記がなされていることは認めるが、その余は否認する。被告鈴木は昭和二六年頃から同三一年九月頃までの問、当時バー「ミツキー」を経営していた被告堀内に対し、継続的に酒類の販売をしていたが、同三一年九月頃売掛金約二七万円に達した。そこで被告両名はその頃合意の上、右代金の弁済に代えて右土地、建物を譲渡し、前記登記を経たものである。同第三項は認める

と陳述した。

被告岡田訴訟代理人は「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求め、

答弁として

原告主張事実第一項は不知、同第二項のうち、原告主張のような登記がなされていることは認めるが、その余は否認、同第三項は認める。

抗弁として

被告岡田は被告鈴木から昭和三八年五月二〇日右土地を善意で買受け、同日内金二〇万円を、同年同月末日残金三五万円を支払い、前記各登記を経たものである、

と陳述した。

証拠<省略>

理由

一  別紙目録記載の土地が、その地上の建物と共にもと被告堀内の所有であつたことは、原告と被告堀内及び被告鈴木との間において争いがなく、原告と被告岡田との間においては、原告と被告堀内及び被告鈴木との間において争いがない事実に徴し認めることができる。そして原告と被告堀内との間においては、その成立について明かに争わないで真正に成立したものとみなされ、原告とその余の被告らとの間においては、証人小金井養之輔の証言により真正に成立したものと認められる甲第二号証の一、二、同第四号証の一に、証人小金井及び証人青柳謙一郎の各証言並びに原告本人尋問及び検証の各結果によれば、訴外小金井養之輔は昭和三一年一一月頃被告堀内から右土地、建物を代金約四〇万円で買い受け、右土地の登記済権利証(甲第一号証)の交付を受け、以来右土地、建物の管理をしていたこと及び原告は同年一二月七日小金井から右土地、建物を代金五〇万円で買い受け、同年末代金を完済して右登記済権利証の交付を受けたが、当時小金井を通じて第三者と物件の交換について交渉中であつたので、同人をして右物件の管理を継続させていたことが認められ、右認定に反する証拠はない。

二  そこで原告と被告鈴木及び被告岡田との関係において、虚偽表示の点について判断する。

被告堀内が右土地につき被告鈴木のため、東京法務局板橋出張所昭和三一年九月六日受付第二八、四八一号により、同年同月五日の売買を原因とする所有権移転登記をしたことは、当事者間に争いがない。そして、原告と被告鈴木との間においては成立に争いがなく、原告と被告岡田との間においては、原告と被告鈴木との間において成立に争いがない事実に徴し、真正に成立したものと認められる甲第三号証、前証小金井の証言によつて真正に成立したものと認められる甲第四号証の二に、右小金井の証言並びに前記原告本人尋問及び検証の結果によれば、被告堀内が右移転登記をしたのは、その当時他に多額の債務を負担していて、それら債権者から右土地に対し追及されるのを防ぐため、被告鈴木と通謀して暫時同被告の所有名義を借用したからに外ならないのであつて、従つて右登記は真実所有権の譲渡に基因するのではなく、単に売買を仮装するための虚偽の登記であることが認められ、右認定に反する被告鈴木本人尋問の結果は信用できないし、他に右認定を覆すにたりる証拠はない。

三  ところで、被告岡田が被告鈴木から右土地を買受け、これにつき東京法務局板橋出張所昭和三八年六月一〇日受付第一九、〇五九号の所有権移転請求権保全仮登記、同年同月二〇日受付第二〇、五六〇号の所有権移転本登記をなし、被告岡田が右土地の所有名義人であることは、原告と被告岡田との間において争いがない。同被告は抗弁として善意で買受けたと主張するがこれに符合する同被告本人尋問の結果は信用できず、他にこれを認むべき証拠はない。反つて証人大脇繁男の証言によれば、被告岡田は当時、被告鈴木名義の登記が虚偽であること及び右土地は被告堀内から小金井を経て既に原告に売渡され、原告がこれを所有していることを知つていたが、あえて買受け前記登記をしたものであることが認められる。従つて右抗弁は理由がない。

四  以上のとおり、右土地は被告らの所有ではなく、被告堀内から小金井を経て買い受けた原告の所有である。従つて、被告鈴木及び被告堀内は原告に対し、前記同被告ら名義の各登記の登記抹消手続をする義務がある。又、右土地は被告堀内から小金井に、同人から原告にと順次売渡されたのであるから、同被告は小金井の移転登記請求権を代位行使する原告に対し、その旨の移転登記手続をする義務がある。なお原告は、右登記請求権の代位行使にあたり、被告堀内から直接原告への所有権移転登記を訴求しているが、登記は本来物権変動の過程を忠実に写し出すべきであり、又登記請求権の代位行使の場合には、直接債権者への移転登記を認めなくとも、債務者への移転登記により充分に権利保全の目的を達しうるのである(不動産登記法第四六条の二)から、原告は小金井への移転登記として訴求すべきである。そして原告は当裁判所の採らない法律上の見解に基づき、直接原告への登記移転を訴求しているのであるが、右訴求の態様からみれば、直接原告への移転登記と債務者小金井への移転登記とは、同質の給付であり、且つ後者は分量的に前者の給付の一部に該る(前者はいわば後者に給付受領権限を附加したもの)と解される。

よつて原告の被告鈴木及び被告岡田に対する本訴請求は、全部理由があるのでこれを認容し、被告堀内に対する本訴請求は、右の限度において理由があるのでこれを認容し、その余は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担については民訴八九条九二条九三条に従い、主文のとおり判決する。

(裁判官 秋元隆男)

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