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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)7292号 判決 1966年6月07日

昭和三八年(ワ)第七二九二号事件 同四一年(ワ)第一八五号事件原告(以下単に原告という) 福入商事株式会社

右代表者代表取締役 東日出光

右同原告 熊倉実

右両名訴訟代理人弁護士 真木洋

昭和三八年(ワ)第七二九二号事件

被告 中村久夫

右同被告 中野希好夫

右中野訴訟代理人弁護士 井之上理吉

右両名訴訟代理人弁護士 吉本英雄

同 各務勇

右訴訟復代理人弁護士 平出馨

同 住本敏己

昭和四一年(ワ)第一八五号事件

被告 株式会社キヨヒサ

右代表者代表取締役 中野洋吉

右訴訟代理人弁護士 井之上理吉

主文

原告等の請求は、いずれもこれを棄却する。

訴訟費用は原告等の負担とする。

事実

原告等訴訟代理人は、昭和三八年(ワ)第七二九二号事件被告等(以下単に被告中村、同中野という)に対し「被告中村は別紙物件目録第一表示の宅地上に存する同目録第二表示の建物を収去して、該敷地を明渡し、被告中野は右建物から退去せよ。訴訟費用は被告等の負担とする。」、昭和四一年(ワ)第一八五号事件被告(以下単に被告会社という)に対し「被告会社は別紙物件目録第一表示の宅地上に存する同目録第二表示の建物から退去せよ。訴訟費用は被告会社の負担とする。」との判決並びにいずれも仮執行の宣言を求め、その請求の原因として、

(一)  別紙物件目録第一表示の土地(以下本件土地という)は、もと訴外沢井信蔵の所有であったが、昭和三八年二月二六日原告等において共同競落し、同年七月八日所有権移転登記(持分各二分の一)を了したものである。

(二)  被告中村は右地上に何等の権限なく同目録第二表示の建物(以下本件建物という)を所有しているものであり、被告中野、同会社は右建物を占有しているものである。

(三)  よって被告中村に対しては本件建物を収去し、該敷地の明渡しを、他の被告に対しては右建物から退去することを求めると述べ、

被告中村らの抗弁に対し、法定地上権についての事実関係は認めるが法定地上権を取得したという点は否認する。国税徴収法第一二七条第一項は、差押時のみならず、公売の際にも、土地及び地上建物が同一所有者に属していることを要件としていると解すべきであるから、本件の場合は、法定地上権の成立する余地はない。

権利乱用の主張は否認すると述べ、乙号各証の成立は認めると述べた。

被告等訴訟代理人はいずれも主文同旨の判決を求め、答弁として被告中村、同中野において、原告主張事実は認める。抗弁として、被告中村は法定地上権を有するものである。即ち、本件土地は訴外時田庄左衛門が昭和二四年四月二六日国から払下げをうけて、その所有権を取得し、本件建物は、同訴外人が同年九月一七日建築したものであるが、昭和二八年一月六日本件土地を国税滞納処分による差押をうけ、その公売の結果、昭和三五年五月三〇日、訴外沢井信蔵が本件土地の所有権を取得しその後右沢井に対する抵当権実行の結果、原告等がこれを共同競落したものである。ところで本件建物は、昭和二八年一〇月七日前記訴外時田から訴外中村茂雄が買得し、更に同三二年五月一七日被告中村がこれを買受け、同月一八日その旨の登記を了したものであるが、国税徴収法第一二七条第一項及び同法附則第一二条第三項によれば、土地及びその地上建物が同一所有者に属している場合において、土地又は建物の差押があり、その換価によりこれらの所有者を異にするに至ったときは、その建物につき地上権が設定されたものとみなされ、この規定は同法施行(昭和三五年一月一日)後に換価に付する場合において適用する旨規定しているところ、本件の場合、前記の如く、本件土地に対して滞納処分による差押がなされたのは、昭和二八年一月六日で、当時本件土地、建物共、前記時田の所有であり、本件土地が公売に付されたのは法施行後である昭和三五年五月三〇日であるから、競落人である前記沢井に対し、被告中村は法定地上権を取得したものである。そしてこの法定地上権は、被告中村が本件地上に当時から登記ずみの本件建物を所有する以上、これを原告に対抗しうること勿論であるから、被告中村及び同被告から本件建物を賃借している被告中野に対する原告の請求は失当である。かりにそうでないとしても原告の請求は権利乱用である。即ち原告は被告中村等と本件土地につき正当な条件による使用権設定を協議すべき信義則上の義務があるのにこれを行なわず、直ちに本訴を提起するに至ったことは、権利乱用として許されないと述べ、被告会社において答弁として、被告会社が原告主張の如く本件建物を占有していることは認めるが、その余は争う。抗弁として被告中村等の主張を援用すると述べた。

証拠≪省略≫

理由

原告主張の(一)、(二)の事実は、原告と被告中村同中野間には争いがなく、原告と被告会社間において(一)の事実は真正に成立したものと認めうる乙第二号証(登記簿謄本)により認定でき、(二)の事実は争いがないところである。

よって被告等の法定地上権の主張について按ずるに、その事実関係については争いがないから、専ら法解釈如何の問題に帰するところ、現行国税徴収法施行前にあっては、抵当権の設定されていない同一所有者に属する土地及びその地上建物のうち土地のみが公売によって競落された場合には、民法第三八八条を類推適用して地上権の設定があったものとみなすべきではないと解釈されていたが、(最高判昭38・10・1第三小法参照)このような解釈に対しては、つとに学説の反対多く、その立法的解決が望まれていた。

そこで昭和三五年一月一日から施行された国税徴収法(昭和三四年四月二〇日法律一四七号)はその第一二七条において、土地及びその地上建物が滞納者に属する場合に、土地又は建物の差押があり、その換価により所有者を異にするに至ったときは地上権が設定されたものとみなす旨の規定を設け、その附則第一二条第三項により、同条の規定は法施行後に換価に付する建物又は立木について適用する旨定めている。ところで本件の場合は法施行後における土地の換価に係るものであるので同条の適用がないかの如く解されないでもないが、同条が、建物保護の社会経済上の必要という公益的理由から、前述の如き不都合な結果を避けるために採られた立法措置であることを考えれば、土地を換価する場合のみ同条の適用がないと解することはその立法趣旨を忘却し、徒らに国家財政上の利益を偏重するものと謂うべく到底採用できないところである。

これに対し原告は同条は、差押時のみならず公売時においても、土地と建物が同一所有者に帰属していることを要件とすると解すべきである旨主張するが同条の文言及び同条が民法第三八八条の通説的解釈(抵当権設定当時土地と建物とが同一人に帰属してさえいれば、後に所有者が変更しても法定地上権が成立する(大審院連合部判決大12・12・14参照))を前提とし、それから生ずる欠陥を是正するために採られた立法措置であることに照らせば差押時において土地及び建物が滞納者の所有に属しておれば足りると解するを相当とする。

然らば本件土地及び建物が共に訴外時田の所有に属していた昭和二八年一月六日当時土地のみにつき滞納処分により差押がなされ、これが公売の結果訴外沢井が競落しその所有権を取得したのは法施行後である昭和三五年五月三〇日であることは当事者間に争いがないから、公売当時本件土地上に登記ずみの本件建物を所有していた被告中村は法定地上権を取得したものというべく、この地上権は、本件土地につきその後抵当権実行の結果所有権を取得した原告等に対し対抗しうべきものである。

されば爾余の判断をするまでもなく、原告の被告中村に対する本件建物収去の請求及び被告中野、同会社に対する退去の請求は、いずれも失当として棄却すべく、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用して主文の通り判決する。

(裁判官 加藤宏)

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