東京地方裁判所 昭和38年(ワ)809号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔争点〕本件土地五坪九合三勺は、もと佐藤博が他の三三坪五合四勺の土地とともに一筆の土地として所有していたものであるが、佐藤は右三三坪五合四勺の部分を分筆して国鉄に売渡し、本件土地を原告に売渡した。一方、被告らの先代石川浅治郎は右分筆前の土地全部について賃借権をもつていて、その上に建坪三五坪余の鉄筋コンクリート造四階建店舗を所有していたが、国鉄が右分筆により取得した土地は東海道新幹線用地であつたため、国鉄の催告を受けて、昭和三七年一一月頃から右建物の取こわしに着手し、国鉄の買収土地上にある部分の一、二、三階とも各三〇坪四合二勺、四階及び屋根全部を取りこわし、一、二、三階とも本件土地上に在る各五坪三合一勺の部分を残存させて、同年一二月二七日頃その工事を完了し、その後直ちに右残存部分の補修工事に着手したところ、その途中で仮処分の執行を受けて中止した。原告は本件土地所有権に基いて、被告に対し右残存の工作物収去土地明渡しを求めるが、被告が土地賃借権ありとの抗弁を主張したので、建物保護法一条の適用の有無をめぐつて、右残存物件が建物といえるかどうか、また建物といえるとしても取りこわし前の建物と同一性ありといえるかどうかが争われた。
〔判決理由〕ところで、建物保護法第一条第二項にいわゆる建物の滅失とは、建物が壊滅して建物の存在がなくなることをいうのであるが、建物としての存在がなくなつたかどうかは単に物理的な観点からのみでなく、社会的、経済的観点からも考えなければならず、結局社会通念によつて決するほかはない。本件のように旧建物を取りこわしてその一部を残存させ、その残存物に補修工事を施したような場合には、その残存物に補修工事を施せば建物として使用可能か否か及びもし使用可能とすればそれが旧建物と同一性を有するか否かがその判定基準となると考える。旧建物が取壊された状態のままでは使用に耐え得ないことは明らかであるが、建物が滅失したか否かの考察にあたつては、取壊時の状況のみでなくそれに補修工事をした状態において考えなければならない。そこで、本件における残存物について右の点を考察すれば、……を綜合すれば、次の事実が認められる。
別紙目録第四記載の建物取壊工事完了当時の本件工作物の状態は、取壊前の建物の隅の一部の外壁二面と床の残存物をもつて構成される三角形に近い形のもので、支柱が三本残り、梁も一部残つている状態であつた。この残存物については、そのままの状態では到底建物として使用に耐えないことは明らかであるが、切り取られた二面の部分に鉄筋コンクリートの壁体をつけ、その他床、天井等につき修理をすれば建物として通常の強度を有するに至るものであり、そのためには約金五十余万円の改修費を要する。そして、この改修費は同程度の建物を新築するよりはるかに低額である。(鑑定人高橋米三郎の鑑定の結果によれば、右の割合は約一〇パーセント強であるが、右鑑定の結果は必ずしもそのまま信用できないが、改修費の方が新築費よりはるかに低額であるということは認定できる)また登記簿上も旧建物の構造変更として取り扱われている。
してみれば、右の残存物は、これに補修工事を施ば建物として使用可能であり、旧建物の壁二面、支柱、床、梁の一部の基礎構造が残つており、改修費も新築の場合よりもはるかに低額であるというのであるから、補修を受けた建物は旧建物と同一性を有するものと解するのが相当である。従つて旧建物は滅失したとはいえない。(岡松行雄 石崎政男 今井功)