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東京地方裁判所 昭和38年(ワ)895号 判決 1964年2月27日

原告 木下立嶽

被告 国

訴訟代理人 片山邦宏 外二名

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は、原告の負担とする。

事  実 <省略>

理由

原告の請求原因第一項の事実は、当事者間に争いがない。

原告は、府中刑務所長が日曜休日、入浴日に戸外運動をさせないのは違法であると主張するので、この点について判断する。

監獄法第三八条には、在監者には健康を保つに必要な運動をきせることが規定されているところ、右運動については、監獄法施行規則には第一〇六条の外には、なにも定められていないが、同一条文の字句の上で戸外運動をさせる必要がないとされている雨天の日であつても、これが長期間継続する季節や地方においては、健康の保持の必要からして、戸外運動に代る運動等をさせなければならないことは明らかである。この点から考えても、右第一〇六条をもつて、在監者に対する運動についての最低の保障規定と解し、その遵守の有無が直ちに違法判断の基準となるとするのは妥当な見解とはいえず、監獄法第三八条、憲法第二五条の趣旨よりすれば、法が在監者に対して保障しているのは、被告の主張するとおり、在監者が健康を保つに必要な程度の運動であると解すべきであり、監獄法施行規則第一〇六条は、戸外運動が運動の代表的な方法であるところから、戸外運動を例にして、運動の一応の基準を示したものと解するのが相当である。

そこで、かような見地から、府中刑務所長の措置の適否を判断するに、原告が休憩時間に監房内で体操することができることについては、原告は明らかに争わないし、入浴が戸外運動に代る効果(肉体的のみならず精神的にも)を持つことは明らかであり、日曜、休日、入浴にも戸外運動をさせなければ、健康を保つに必要な程度の運動を保障したことにならないと認めることはできない。

もつとも、戸外運動が在監者、とりわけ原告のように独居拘禁に付せられた者にとつて、精神的、肉体的健康上望ましいことも明らかであり、従つて、刑務所長ができる限り在監者に対し、戸外運動をさせることが妥当なことはいうまでもなく、さらに、一応健康を保つに必要な程度の運動が保障されている場合であつても、刑務所長が十分の人的、物的施設を有しながら、なんら合理的理由もなく、いたずらに戸外運動を制限する措置をとることがあれば、違法の問題を惹起することもありうるが、府中刑務所長が、そのような十分の人的、物的施設を有しながら合理的理由もなく戸外運動を制限していることについては、納得のいくようななんらの主張立証がないので、原告の主張するような理由だけで、直ちに府中刑務所長のとつた措置を違法視することはできない。

以上の次第で、府中刑務所長が、原告に対し日曜、休日、入浴日に戸外運動をさせなかつたことは、未だ違法とはいえず、原告の請求は、失当である。

よつて、原告の請求を棄却することとし、訴訟費用につき民事訴訟法第八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 白石健三 浜秀和 町田顕)

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