東京地方裁判所 昭和38年(ワ)9640号 判決
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〔判決理由〕被告らは仮に原告ら主張の損害賠償債権があるとしても、すでに時効により消滅している旨主張するので先ずこの点から判断する。
(一) 被告前田建設に対する請求の判断
原告らは昭和三五年一月一七日にはすでに加害運転手が訴外島田であることを知つていたこと、原告らは事故当日および翌日被告前田建設から見舞、金五万円、香典、金三万円を受預したことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、本件事故現場は被告前田建設が地下鉄新設工事を施工している工事現場であつて、残土を搬出するホツパー附近の詰所には被告前田建設を表示する看板があり、道路使用に用いるバリケードにも被告前田建設の表示がなされており、原告ら宅は右工事現場に近く、原告らは附近を通ることもあつて、右地下鉄工事が被告前田建設の施行にかかるものであることを知つていたほか、原告らは事故当日も、その直後知らせを受けて事故現場へ行き、現場を見ていること、被告前田建設の右地下鉄工事の作業責任者豊田孝正は事故当日、原告ら宅を訪れ原告らを見舞い、見舞金を渡したうえ、葬儀にも参列し香典を供えたこと、至の葬儀には約三〇人から概ね一、〇〇〇円ないし二、〇〇〇円の香典が寄せられたこと、原告正は被告前田建設が多額の見舞、香典を持参したのは、事故に対する責任者としてこれを行つているものと考えていたことなどの事実を認めることができ、右諸事実に弁論の全趣旨を総合すれば、原告らは遅くとも昭和三五年一月一七日頃には、本件事故の加害運転手が訴外島田であることおよび同人と被告前田建設との使用関係を知つたものと推認できるから、原告らの被告前田建設に対する損害賠償債権は右時期から消滅時効が進行し、原告らの本訴提起時であることの本件記録上明らかな昭和三八年一一月一二日にはすでに三年の右消滅時効が完成していることが明らかであり、これを援用する被告前田建設の抗弁は理由がある。
(二) 被告東起業、同布戸に対する請求の判断
原告らは事故当日の昭和三四年一二月二五日、加害運転手が訴外島田であることを知つたこと、原告らは事故の二ケ月後訴外島田の雇主が訴外西山であることを知つたことは当事者間に争いがなく、<証拠>を総合すれば、被告前田建設の施行する地下鉄新設工事につき、訴外明北興業株式会社が同被告から請負つた残土運搬を被告東起業において下請し、同被告はその一部を更に訴外西山に下請させ、訴外西山はその被用者訴外島田に被告車で残土運搬を実施させていた際本件事故が惹起したこと、原告ら宅は右工事現場に近く、その状況を知つていたほか、原告らは事故当日も、その直後知らせを受けて事故現場へ行き、現場を見ていること、事故の翌日行われた葬儀には被告東起業は社名を表示し、香典として金五、〇〇〇円を霊前に供え、従業員二名を参列させたこと、至の葬儀に際し約三〇名から寄せられた香典は概して一、〇〇〇円ないし二、〇〇〇円であつたことなどが認められ、右諸事実に弁論の全趣旨を総合すれば、原告らは昭和三五年二月末頃までには加害運転手が訴外島田であること、被告東起業の下請人訴外西山を通じての訴外島田に対する使用関係、被告布戸の被告東起業における地位<編註、代表取締役>を知つたものと推認するのが相当である。
原告らは被告東起業の存在を、本件訴訟を弁護士坂根徳博に依頼後の昭和三八年九月三〇日に同弁護士に聞かされてはじめて知つた旨主張し、原告らの各本人尋問の結果(各第一、二回)には右に副うような部分もあるが、前記認定のように相当高額の香典を霊前に供されており、香典を供えた者はそんなに多数ではないことや、香典返しなどが行われることが一般であることに対比すると、たやすく措信することはできず、他に右認定を左右するに足る証拠はない。
従つて、原告らの被告東起業、同布戸に対する損害賠償債権は右時期から消滅時効が進行し、原告らの本訴提起時であることの本件記録上明らかな昭和三八年一一月一二日にはすでに三年の右消滅時効が完成していることが明らかであり、これを援用する被告東起業、同布戸の抗弁は理由がある。(吉岡進 岩井康倶 梶本俊明)
<編註> 原告らは、被告前田建設株式会社、同東起業株式会社に対しては、自賠法三条と民法七一五条一項、被告前田建設に対しては、更に商法二六一条三項、七八条二項、民法四四条一項(その代表取締役が自動車運行の安全確保処置を怠つたために本件事故の発生をみたのであると主張する)に基づいて、被告布戸(被告東起業の代表取締役)に対しては、民法七一五条二項に基づいて損害賠償を請求したものである。