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東京地方裁判所 昭和38年(行)103号 判決 1965年9月28日

原告 株式会社東京技術研究所

被告 特許庁長官

主文

一  本件訴のうち、実用新案権の設定の登録を求める部分、実用新案権の設定の登録をすべき義務の確認を求める部分及び実用新案権の設定の登録をしないことが違法であることの確認を求める部分は、いずれも、却下する。

二  原告のその余の請求は、棄却する。

三  訴訟費用は、原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

原告訴訟代理人は、第一次的に「一(一)被告は、原告に対し別紙目録記載の考案について、実用新案権の設定の登録をせよ。(二)訴訟費用は、被告の負担とする。」との判決を求め、一の(一)の請求が認められないときは、順次予備的に「二被告は、原告に対し、別紙目録記載の考案について、実用新案権の設定の登録をすべき義務のあることを確認する。」「三被告は、原告に対し、別紙目録記載の考案について、実用新案権の設定の登録をしないことは、違法であることを確認する。」「四被告は、原告に対し、昭和三十七年十二月十二日、別紙目録記載の考案についてした実用新案権登録料納付書の不受理処分は無効であることを確認する。」旨の判決を求めた。

被告指定代理人は、本案前の申立として、主文第一項と同趣旨の判決を求め、本案の申立として、「原告の請求はいずれも棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求めた。

第二当事者の主張

(請求の原因等)

原告訴訟代理人は、請求の原因等として次のとおり述べた。

一  原告は、昭和三十二年十二月十八日、被告に対し、別紙目録記載の考案について、実用新案登録の出願をした。被告は審査官岡田喜久治に右出願の審査をさせ、同審査官は審査の結果、出願公告をすべき旨の決定をし、被告は、これに基づいて、昭和三十七年八月九日出願公告(実公昭三七―第二〇五五六号)をしたところ、決定の異議申立期間である出願公告の日から二月以内に、何人からも異議の申立がなかつたので、同審査官は、同年十一月十六日右出願については拒絶の理由を発見しないから、この出願の実用新案は登録すべきものと認める旨の査定をした。原告は、被告から同月二十七日付認証のある右登録査定謄本の送達を受けたので、同年十二月六日、実用新案法第三十一条第一項第一号の規定により、右実用新案の第一年から第三年までの登録料金千八百円を納付し、被告はこれを受理した。したがつて、被告は同法第十四条第二項の規定により、原告の本件出願について、実用新案権の設定の登録をすべき義務があるから、原告は、被告に対し、請求の趣旨一記載のとおり、実用新案権の設定の登録を求める。

二  もし、右請求が行政事件訴訟法の解釈上認められないとすれば、原告は、被告に対し、順次予備的に、左記のとおり請求する。

(一) 被告は、前記一の理由により、本件考案について、実用新案権の設定の登録をすべき義務を有するにもかかわらずこれを争つている。よつて、原告は、同法第三条第四項及び第三十六条の規定により、請求の趣旨二のとおり、被告が実用新案権の設定の登録をすべき義務を有することの確認を求める。

(二) 被告は、右のとおり、本件考案について、実用新案権の設定の登録をすべき義務を有するにもかかわらず、現在まで、その設定登録をしないでいるのは違法である。よつて原告は同法第三条第五項及び第三十七条の規定により、請求の趣旨三のとおり、被告が実用新案権の設定登録をしないのは違法であることの確認を求める。

(三) 被告は、同年十二月七日付発送の文書(ハガキ)をもつて原告に対し、前記登録査定謄本は誤送につき返戻されたい旨通告し、さらに、同月十二日付文書をもつて、前記登録料の納付書は、本件出願の審査中につき受理しない旨通知するとともに、登録料の納付書を返送した。

しかしながら、原告は、前記のとおり、本件実用新案については、審査官岡田喜久治から登録査定を得、被告から登録査定謄本の送達を受け、法定の登録料を納付したのである。被告は、右登録査定について、無効又は取消の審判手続を経ることなく、被告の記名も押印もない一片の文書(ハガキ)をもつて誤送を理由に返戻を求め、さらに登録料の納付書を受理しない旨通知しても、右不受理処分は法律上何らの効力を有しないものである。よつて、原告は、同法第三条第四項及び第三十六条の規定により、請求の趣旨四のとおり、被告がした登録料納付書の不受理処分は無効であることの確認を求める。

三  被告主張の第四項の事実のうち、被告から、その主張のとおり異議申立書副本及び答弁書提出命令書が送付され、原告が答弁書を提出したこと及び日本電信電話公社が異議申立をしたことは認めるが、右異議申立が異議申立期間内にされたこと及び審査官岡田喜久治が本件登録査定を取り消したことは否認する。右異議申立が期間経過後にされたものであることは、前記登録査定から登録料受理までの経緯及びその当時原告が、被告において本件出願関係書類を一括して保管していた包装内の書類を調査した際にも、異議申立書は存在しなかつた事実に徴して明白である。原告が異議に対する答弁書を提出したのは、適法な異議申立があつたものと仮定して、本件出願に関する原告の権利を守るためにしたものに過ぎないのであり、適法な異議申立があり、本件出願については審査中であることを認めたのではない。

被告は、前記昭和三十七年十二月七日付文書で登録査定を取り消したと主張するが、このような法律に基づかず、被告の記名押印さえない文書をもつて、一旦有効に成立した登録査定を取り消すことはできない。出願人が出願に対する拒絶査定を受けた場合には抗告審判の請求及び行政訴訟の提起により争う途が開かれているのみであり、これに反して、出願に対し適法有効な登録査定があり、出願人に登録査定謄本が送達され、出願人が登録料を納付した場合には、被告はこの出願に対し権利設定の登録をすべきであり、これに対し不服のある者は、無効審判請求あるいは行政訴訟の提起により争うべきである。したがつて、仮に審査官岡田喜久治が適法な異議申立を看過して登録査定をしたとしても、すでに登録査定謄本の送達及び登録料の納付がすんだ以上、被告は実用新案権の設定の登録をすべきものであり、日本電信電話公社はこれに不服であれば、無効審判を請求し、あるいは行政訴訟を提起して争うべき筋合である。

四  被告主張の第五項の事実のうち、被告主張のとおり拒絶査定があり、被告から右査定謄本の送達があつたことは認めるが、その余の事実は否認する。

本件登録査定は、すでに述べたとおり、違法であり、その謄本の送達も終り、登録査定の効力を生じているから、これを取り消すことは許されず、その後においてした右拒絶査定は違法なものであり、法律上何らの効力を有するものではない。

(答弁等)

被告指定代理人は、答弁等として、次のとおり述べた。

一  本訴のうち、被告に対し実用新案権の設定の登録を求める部分(請求の趣旨一)、被告が実用新案権の設定の登録をすべき義務を有することの確認を求める部分(請求の趣旨二)及び被告が実用新案権の設定の登録をしないことは違法であることの確認を求める部分(請求の趣旨三)は、左記の理由により、いずれも不適法な訴である。

すなわち、裁判所は、行政訴訟において、特定の行政処分が適法であるかどうかを事後的に判断するにとどまり、処分がされる前に、積極的に行政庁が何をすべきかを確定することによつて、行政庁に一定の処分をすべき拘束を加える権限を有するものではなく、この意味では、行政処分を求める給付の訴であろうと、行政処分をすべき義務のあることの確認を求める訴であろうと、その間に何らの差異はない。したがつて、前記の実用新案権の設定登録を求める訴及び実用新案権の設定登録をすべき義務を有することの確認を求める訴は、裁判所に対し、司法審査の限界を超え、本来行政庁のすべき行政権の発動を求めるものであるから、不適法である。

次に、被告が実用新案権の設定登録をしないことは違法であることの確認を求める訴は、被告に登録義務があるとの前提に立ち、登録しないことは違法であるとするものであるから、行政事件訴訟法第三条第五項所定の不作為違法確認の訴に当らないことは明らかである。これは、要するに、前記登録義務を有することの確認を求めるものと、実質的には、何ら異らないから、先に述べたと同じ理由により、不適法である。

二  原告主張の第一項の事実のうち、本件出願について、原告主張の経過により、出願公告の査定及び出願公告がされたこと、原告主張のとおり、審査官岡田喜久治が右出願について登録査定をし、被告が原告に右査定謄本を送達したこと及び原告がその主張の登録料を被告に納付し、被告がこれを受領したことは認めるが、その余の事実は否認する。

三  同第二項の事実のうち、被告が原告に対し、原告主張のとおり、登録査定謄本は誤送であるから返戻されたい旨並びに登録料の納付書は受理しない旨通告し、かつ、納付書を返送したこと及び被告が本件考案について実用新案権の設定の登録をしないことは認めるが、その余の事実は否認する。

四  本件登録査定は、本来、取り消しうべき行為であり、審査官岡田喜久治がこれを取り消し、被告が、昭和三十七年十二月七日付発送の文書をもつて取り消しの通知をしたことにより、その効力を失つたものである。すなわち

(一) 本件出願については、実用新案権法第二十一条第一項の規定により、大正十一年法律第九十七号実用新案法(以下「旧実用新案法」という。)第二十六条、同年法律第九十六号特許法(以下「旧特許法」という。)第七十四条第一項の規定によるべきところ、これによると、出願公告の日(本件の場合は、昭和三十七年八月九日)から二月以内に異議の申立をすべき旨定められており、本件においては、日本電信電話公社から、申立期間内である同年十月八日、適法な異議の申立がされている。よつて、審査官岡田喜久治は旧実用新案法により準用される旧特許法第七十五条第一項の規定により、昭和三十七年十二月十三日付で原告に対し異議申立書副本とともにこれに対する答弁書の提出命令書を送付したところ、原告は、昭和三十八年一月二十九日付で答弁書を提出しているのである。

(二) 審査官岡田喜久治は、原告主張のとおり登録査定をしたのであるが、これは次に述べるように、手続を誤り違法であつた。すなわち、旧実用新案法第二十六条、旧特許法第七十五条第二項、第七十七条の規定によれば、審査官は異議に対する決定と同時に出願に対する査定をし、異議の申立があつたときは、これに対する決定をせずに、出願に対する登録査定をすることはできない旨定められている。

右登録査定は、日本電信電話公社から適法な異議申立がされていたにかかわらず、これを看過し、異議に対する決定をしないで行われたものであるが、実用新案登録の出願について、公告によつて公開し、第三者からの異議申立を認める制度がとられているのは、出願にかかる考案が登録された場合には、強力な排他的権利を創設することとなり他に対する影響も大きいところから、登録査定を行うに際し、これが登録に値する内容を有するかどうかを慎重に審査することとし、そのためには、第三者からの異議申立を認める方法によることが、最も有効適切であるがためである。かかる趣旨からすれば、異議が申し立てられているにもかかわらず、これを看過し、これに対する審査、決定をしないで登録査定が行われた場合には、異議申立を認めた制度の趣旨は、全く没却されることとなり、登録に値しない内容のものを登録するというような事態も生じ、ひいては社会の発展を阻害し、公共の利益に反する結果となることも生じうるのである。したがつて、異議申立を看過してされた本件登録査定は、違法であり、取り消されるべきである。

そればかりでなく、本件出願は、これに適用される旧実用新案法第一条所定の要件をみたさず、登録に値しない内容のものであり、異議申立は理由があるものであつたのである。

要するに、本件登録査定は、適法な異議申立を看過したことにより、その手続並びに内容の判断を共に誤り、登録に値しない内容のものについて行われたのであり、このような内容のものについて、公共の利益を無視してまで強力な排他的権利を与えることは許されないのである。

(三) このような次第であつたので被告は、前記昭和三十七年十二月七日付発送の「本件登録査定謄本は誤送につき返戻されたい」旨の文書を原告に発送し、右文書はその頃原告に到達した。この文書によれば、「先に登録査定謄本をもつて通知した登録査定は誤つたものであり、取り消すから効果のないものである。」との趣旨は十分知りうるから、これをもつて、本件登録査定は適法有効に取り消されたのである。

(四) したがつて、原告の本件出願は、異議申立により現在審査の段階にあり、未だ登録すべき状態に至つていないのであるから、本訴請求は失当である。

五  仮りに、被告が昭和三十七年十二月七日付発送の前記文書が、登録査定の取消通知としての効力を有しないとしても、審査官岡田喜久治は、昭和三十九年六月八日付をもつて、本件出願に対する拒絶査定をし、その謄本は、同月十九日被告から原告に郵便をもつて発せられ、その頃原告に到達しており、この拒絶査定は、先の登録査定を取り消す趣旨を含むものであるから、その通知によつて本件登録査定は取り消されたものである。

第三証拠関係<省略>

理由

第一本案前の申立について

一  原告は、本訴において、第一次的に被告に対し、原告の出願にかかる本件考案について実用新案権の設定の登録をすることを求め、第二次的に、右考案について、実用新案権の設定の登録をすべき義務を有することの確認を求めている。

しかしながら、行政訴訟事件において、裁判所は、原則としてすでに行われた特定の行政処分が違法であるかどうかを事後的に審査するものであり、処分前に、行政庁に対し、特定の行政処分をすることを命ずることは、裁判所自身が、訴訟手続により、行政権の専権に属する行政処分をするのと同じ結果になるので、三権分立の建前から許されないところであり、また、裁判所が、処分前に、行政庁に対し、特定の行政処分をする義務を有することを確定することも、実質的には行政処分を命ずるのと異るところはないから、右と同様の理由により許されない。したがつて、原告の右訴は、いずれも、不適法なものといわざるをえない。

二  原告は、第三次的に、行政事件訴訟法第三条第五項の訴として、被告がその義務あるにかかわらず、これを怠つていることを理由に、前記実用新案権の設定の登録をしないことは違法であることの確認を求める。しかしながら、同条項の訴は、行政事件訴訟は、事後審査を原則とするから、行政庁が処分をした後にはじめて取消訴訟の提起が可能となり、行政庁が相当の期間内になんらかの処分をすべきにかかわらず処分をしないときは、いつまでもこれを争う途がないというのでは、国民の権利保護に欠けることになるので、行政庁が相当の期間内になんらかの処分をすべきにかかわらず、これをしないとき、その不作為自体が違法であることの確認を訴求できることとしたものである。したがつて、原告の右訴のように、ある特定の処分(実用新案権の設定の登録)をすべき義務があるにかかわらず、これをしないことが単に違法であることの確認を求める訴は、これに該当しないものと解するを相当とする。したがつて、原告の右訴もまた不適法なものといわざるをえない。

第二本案の請求について

(争いのない事実)

一  本件実用新案登録の出願について、原告主張の経過により、出願公告の査定及び出願公告がされたこと、原告主張のとおり、審査官岡田喜久治が右出願について登録査定をし、被告が原告に右査定謄本を送達し、原告が第一年から第三年の登録料を納付し、被告がこれを受領したこと、被告が、昭和三十七年十二月七日付で、原告にあてて、右登録査定謄本は誤送につき返戻されたい旨の文書を発送し、右文書はその頃原告に到達したこと、被告が原告に対し同月十四日付文書をもつて、本件出願は審査中であるから右登録料の納付書は受理しない旨通知するとともに納付書を返送し、その頃、いずれも原告に到達したこと及び日本電信電話公社が登録異議の申立をしたことは、いずれも、当事者間に争いがない。

(異議が適法かどうか)

二 成立に争いのない甲第四号証及び乙第二号証の一、二、原本の存在及びその成立に争いのない甲第六号証並びに証人小松雪枝の証言を総合すれば、日本電信電話公社がした前記異議の申立書は、昭和三十七年十月八日特許庁出願課受付に提出されている事実を認めることができる。もつとも、原告の指摘するように、本件考案については、同年十一月十六日付で登録査定が行われ、その査定謄本の送達があつたこと、同年十二月六日原告が第一年から第三年の登録料を納付した際も被告において受領していること(以上の事実は、当事者間に争いがない。)及び前記甲第六号証(昭和三十三年実用新案出願整理簿写)の本件出願に関する部分に「三七、一二、一〇異議」の文字が記入されていることからみると、異議申立が前記日時にされたかどうかについて疑いを生ずる余地なしとしない。しかしながら、前記各証拠、特に乙第二号証の一、二及び証人小松雪枝の証言によれば、特許庁では、異議申立書が出願課受付に提出されると、係員はこれに日付印を押し、印紙などを調べたうえ、その日のうちに帳簿に記入して整理する建前ではあるが、実際は、受付書類が多数であるため、異議申立書に日付印のみ押して(これをさかのぼらせたり、遅らさせたりすることはない。)保管し、早ければ翌日、おそくとも四、五日中に帳簿に記入し、かくして整理がすんだ異議申立書は、受付から出願課整理係及び調整課異議係を経て担当の審査官に送付される扱いであること、本件異議申立書は、日本電信電話公社の申立にかかるものであるが、公共企業体の申立書には印紙の貼用を要しないのでその調査もせず、また、同公社の書類は、一般に多数なので、他の書類中に紛れ込み易い状態にもあること、雑件については、日付印を押し、提出者に受領証を渡すだけで、帳簿には記入しないので、異議申立書が雑件のうちに紛れ込むと、そのまま出願課整理係に送付されることになるが、同係の整理は相当手間どるので、異議申立書の発見は遅れることになり、前記整理簿の異議の月日の記載は、本件異議申立書が前記の経過で整理係に送られ、同係員がこれを発見したのちにしたものであること及び本件異議申立書は登録査定まで審査官に送付されていなかつたことが認められるので、前記の事実から、直ちに前認定を覆えすことはできないし、他にこれを左右するに足る証拠はない。

以上認定のとおり、右異議申立は、昭和三十七年十月八日されたものであるところ、本件出願公告及び登録異議申立に関しては、実用新案法施行法第二十一条第一項により、旧実用新案法第二十六条、旧特許法第七四条第一項の規定によるべく、これらの規定によれば、出願公告(本件においては、前記のとおり、昭和三十七年八月九日)から二月以内に異議の申立をする定めになつているから、本件出願公告の日から二月以内である同年十月八日にされた前記異議の申立は、適法なものというべきである。

(「誤送につき返戻」による取消)

三 被告が昭和三十七年十二月七日発送の文書をもつて「本件登録査定謄本は誤送につき返戻されたい」旨原告に通告したことは、当事者間に争いのないところであるが、これをもつて本件登録査定の取消処分とみることはできないことはいうまでもなく、(本件出願の審査の担当者でない被告が登録査定を取り消す処分をする権限を有しないことは多くの説明を要しない当然の事理である。)また、その頃審査官岡田喜久治において本件登録査定を取り消した事実を認むべき何らの証拠もない。しかもその文言からいつても、右文書による通告をもつて、正当にされた取消処分の通告とみることもできない。これを要するに被告が発した「誤送返戻」の通告は、その果す実際的役割は如何にあろうと、法律的には、なんらの意味をもたない事務処理上の一―便法にすぎないというほかはない。けだし、たとえ、その謄本その他が返戻されたとしても、すでに適法な送達があつた事実したがつて、それによつて生じた効果は、動かすべくもないからである。

(拒絶査定による取消)

四 被告は、本件登録査定は、のちにした拒絶査定により取り消された旨主張する。しかして、審査官岡田喜久治が、被告主張のとおり本件出願に対し拒絶査定をし、被告がその主張の頃に、右査定謄本を原告に送達したことは、当事者間に争いのないところであり、成立に争いのない乙第四号証によれば、右査定には、本件出願は、登録異議の決定に記載した理由によつてこれを拒絶すべきものと認める旨の記載のあることが認められ、これによれば、拒絶査定において、直接本件登録査定について触れるところはなかつたが、その趣旨は、瑕疵前登録査定を取り消し、あらためて、本件出願について拒絶査定をするものであるこというにあることは、両者が並び存在しえないことから、きわめて明白であるから、本件登録査定は、ここに右拒絶査定により取り消されたものと認めるのが相当である。

原告は、出願に際し、一旦登録査定が行われ、その査定謄本が出願人に送達され、登録査定の効力を生じた以上、右査定を取り消すことは許されない旨主張する。しかしながら、本件登録査定は、適法な異議申立について決定することなく行われたものであることは、前認定のとおりであるから、旧実用新案法第二十六条、旧特許法第七十四条第一項の規定に反する違法な処分であり、このような違法な処分をした審査官としては、実用新案権の設定の登録が完了しない限り、登録査定の謄本が送達された後においても、右違法な登録査定処分に基づいて権利設定の登録が行われ(登録査定に対しては、異議申立人その他の第三者が、審判を請求して争う途がないから、そのまま推移すれば、登録が行われるほかはない。)ることを避けるため、みずから右登録査定を取り消しうるものと解するを相当とする。けだし、審査官において、このような違法な登録査定に基づき登録処分がされるのを拱手傍観すべきであるとすることは、適法にして、かつ、適正な審査をすべきその職務権限に背反するとともに、他方登録査定は、出願人に対し、法律上なんら新しい権利ないしは利益を与えるものではないのみならず、審査官が、登録査定を取り消し、異議申立を認容して拒絶査定をした場合には、出願人は、この拒絶査定に対し審判を請求して争うことができる筋合であり、これを取り消すことにより、出願人の権利ないしは法律上の利益を害することにはならないからである。

したがつて、本件登録査定の有効に存在することを前提として、被告の登録料納付書不受理処分が無効であることの確認を求める原告の本訴請求は、すでにこの点において、理由がないものといわざるをえない。

(むすび)

五 以上説示のとおりであるから、原告の本件訴のうち、請求の趣旨一から三の部分は、いずれも不適法として却下し、同四の部分は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について、民事訴訟法第八十九条を適用し、主文のとおり判決する。

(裁判官 三宅正雄 太田夏生 荒木恒平)

(別紙目録省略)

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