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東京地方裁判所 昭和39年(む)195号 判決 1964年4月16日

被告人 西軍治

決  定

(被告人氏名略)

右の者に対する恐喝被告事件について、昭和三九年四月一〇日東京地方裁判所裁判官篠田省二がなした勾留更新の裁判に対し、東京地方検察庁検察官森保から適法な準抗告の申立があつたので、当裁判所はつぎのとおり決定する。

主文

原裁判を取消す。

理由

本件準抗告の申立の趣旨は、原裁判が勾留を昭和三九年四月一八日から更新するとしたのを、勾留を同年五月一八日から更新すると変更すべきであるというにあり、その理由とするところは、別紙添付の本件準抗告および裁判の執行停止申立書添付別紙中「申立の理由」とある部分のとおりであるから、これを引用する。

よつて一件記録を検討するに、被告人が昭和三九年三月一三日恐喝被告事件について東京地方裁判所に公訴が提起され、同裁判所裁判官は同年三月一八日被告人に対し同被告事件について勾留状を発布し、即日この勾留状は執行されたこと、原裁判官が同年四月一〇日同被告事件について同月一八日からこれを更新する旨の裁判をなしたことが明らかである。

原裁判官は、右更新の裁判をなす前提として、公訴提起の後に勾留した場合その勾留期間は一箇月であると解しているものと思われる。しかしながら刑事訴訟法第六〇条第二項本文但書によれば、勾留の期間は公訴の提起のあつた日から二箇月とするとあるところ、同条項は、公訴提起が逮捕中または勾留中の被告人に対しなされた通常の場合を規定したもので、公訴提起の後に勾留がなされた場合にも、同条項中の「公訴提起のあつた日」を「勾留の日(法第七三条第二項の引致の日)」と読み変えて適用あると解するのが相当であり、公訴提起の後になされた勾留の期間も二箇月と解すべきである。

そうであるとすれば、本件の勾留の期間は、その勾留の日である昭和三九年三月一八日から二箇月を経過する同年五月一七日満了することになるから、その勾留更新をすべき起算日は、同年五月一八日であることが明らかである。従つて、本件勾留の更新の起算日を同年四月一八日とした原裁判は違法といわねばならない。

ところで、検察官は、原裁判を同年五月一八日を起算日とする勾留更新に変更すべき旨を求めているが、その更新相当日から一箇月以上も前である現在、これを必要とすべき事情を見出すことはできないから、原裁判を取消すことをもつて十分であるというべきである。

よつて、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第二項を適用して主文のとおり決定する。

(裁判官 坂本武志 杉山英己 本吉邦夫)

(別紙)

一、申立の趣旨

(一) 原決定は、勾留更新期日を昭和三十九年四月十八日と定めたが、本件勾留の勾留更新期日は昭和三十九年五月十八日とするのが正当であるから、右裁判の変更を求める。

(二) 原決定の執行を本件準抗告の裁判があるまで延期するため、同決定の裁判の執行停止を求める。

二、申立の理由

(一) 被告人は別件犯人蔵匿被告事件(昭和三十九年三月二日起訴、同日勾留)につき勾留中、その勾留期間満了前である昭和三十九年三月十三日本件恐喝罪につき追起訴され、同月十八日右追起訴にかかる恐喝被告事件についても勾留状が発付されたため、以後引き続き両罪につき勾留中のところ、同年四月十日右恐喝被告事件に基づく勾留について同月十八日からこれを更新する旨の原決定がなされたものである。

(二) しかして、原決定が昭和三十九年四月十八日をもつて勾留更新期日としたのは、本件恐喝被告事件に基づく勾留の期間をその勾留の日から一箇月として算出したものと認められる。

本件において勾留期間の起算日をその勾留の日とすることについては、被告人の勾留期間およびその起算日を定める刑事訴訟法第六〇条第二項本文前段の解釈として相当であり、かつ、判例(昭和二十五年四月二十二日福岡高等裁判所判決高等裁判所刑事判決特報第七号一四四頁)の趣旨とするところであるが、原決定が勾留期間を一箇月として勾留更新期日を算出したことは不当であり、勾留期間は二箇月とし、勾留更新期日は昭和三十九年五月十八日と改めるのが正当であると思料する。何故ならば、前記刑事訴訟法第六〇条第二項本文前段は、「被告人の勾留期間は、公訴の提起のあつた日から二箇月とする。」と被告人の勾留期間を明定しており、本件のごとく起訴後の勾留の日を勾留期間の起算日とする場合においても、勾留期間そのものは右規定によつて二箇月とすべきものである。原決定は右の規定を無視した違法な裁判であると考える。(前記福岡高等裁判所の判例参照)

(三) 刑事訴訟法第六〇条第二項本文後段は「特に継続の必要がある場合においては、具体的にその理由を附した決定で、一箇月ごとにこれを更新することができる。」と定めているが、本規定はもつぱら勾留更新後の勾留期間を規定したもので、本件勾留期間の算出に適用すべきでないことは明らかであり、また、本件被告人は前記のごとく本件恐喝被告事件に基づく勾留に際し別件犯人蔵匿被告事件に基づき勾留されていたため、犯人蔵匿被告事件に基づく既往の勾留が実質的に恐喝被告事件についても利用される実情にあつたものではあるが、新たに恐喝被告事件について勾留の理由および必要性を判断したうえで勾留状が発付された以上は、両事件の勾留はそれぞれ別個に取り扱うべきものであり既往の勾留を理由に、まつたく別個の犯罪事実にかかる勾留に法的根拠のない短縮を行なうことは許されないと信ずるものである。

以上の理由により前記申立の趣旨のとおり原決定の変更を求める次第である。

昭和三十九年四月十日

東京地方検察庁

検察官検事 森保

東京地方裁判所刑事第十四部

裁判官 篠田省二 殿

被告人の勾留期間について

(昭和三九年刑(わ)第九四四号、昭和三九年三月一三日起訴)

恐喝西軍治

本日、右被告人の勾留を昭和三十九年四月十八日から更新する旨の勾留更新決定の送付を受けましたが、右被告人の勾留期間を勾留の日である昭和三十九年三月十八日から一月とされて勾留更新決定をされた理由を承りたく照会いたします。

昭和三九年四月一三日

東京地方裁判所刑事第一四部

裁判官 篠田省二

東京地方検察庁

検察官検事 森保 殿

被告人の勾留期間についての回答

(昭和三九年刑(わ)第九四四号、昭和三九年三月一三日起訴)

恐喝西軍治

甲罪について被告人を勾留中、その勾留期間満了前に既に起訴されている乙罪について、別個に勾留状を発布した場合、乙罪についての勾留期間については、(イ)乙罪についての勾留の日から一ヶ月、(ロ)乙罪についての勾留の日から二ヶ月、(ハ)甲罪の勾留の満了日まで、の三通の解釈がある。ところで、(ハ)説は、甲罪の既往の勾留を乙罪についても実質的に利用して来たことを重視するのであるが、新たに乙罪について勾留の理由及び必要を判断した上で勾留状を発布するのであり、しかも、二重勾留を認める趣旨からも、乙罪については甲罪とは別個に勾留期間を計算すべきである。そこで、一ヶ月か、二ヶ月かの問題であるが、乙罪について起訴と同時に勾留する場合には刑事訴訟法第六〇条第二項によつて二ヶ月とすべきであるが、乙罪について起訴された後に勾留する場合には、右法条の本文前段の通用がないこと、二ヶ月説をとつた場合には乙罪についての起訴から勾留までが長期となつた際には更に二ヶ月勾留することになり余りにも長期になる可能性があること、一ヶ月と解しても引き続き身柄拘束の必要がある場合には更新によつて勾留を継続できること等の理由により、右の如き事例においては勾留期間は一ヶ月と解するのが相当である。

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