東京地方裁判所 昭和39年(ワ)11107号 判決
原告 前田義市
被告 国
訴訟代理人 河津圭一 外一名
第一、主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
第二、申立<省略>
第四、争点および判断
一、原告の主張
1 公示送達は受送達者の住所、居所その他送達場所がわからない場合に許される送達方法であるが、公示送達の方法によるときは、受送達者は送達書類の内容を知ることが事実上ほとんど不可能であるから、裁判官が公示送達の許可をするについては、受送達者の住所、居所その他送達場所がわからないかどうかを十分に調査し、慎重に判断しなければならない。
2 本件において、原告にあてた訴状等が不送達になつたのであるから、前記裁判官は、訴外寺本が原告の送達場所につきどの程度の調査をしたか、同人と原告とがどのような関係にあるかなどについて、訴外寺本を尋問して確かめるべきであつた。そうすれば、原告は昭和三二年一一月頃まで前記訴状記載の元住所に居住していたが、その頃千葉市にいる息子の所に転居したこと、右元住所には訴外市川寅次郎が居住しているが、同人と原告との間には取引関係があり、その清算が済んでいないこと、訴外寺本は前記訴を提起する数ケ月前に原告を相手方として、長野地方裁判所に民事調停の申立をしたが、その申立書は原告の元住所に送達できたことなどが判明したはずである。それなのに、同裁判官は訴外寺本を尋問しなかつた。
同裁判官は、訴外寺本を尋問するのでなければ、職権で原告の住民票を調査して、原告の元住所あてに訴状を送達してみるべきであつた。そうすれば、同所に居住している訴外市川が訴状を原告に転送したであろうし、そうでないとしても、同人を通じて原告の現住所が判明したであろう。それなのに、同裁判官はこのような方法も構じなかつた。
同裁判官は、以上の方法によらないにしても、右訴外市川又は原告の元住所付近の人に照会してみれば、原告の現住所を知ることができたはずであるのに、これもしなかつた。
3 右のとおり、同裁判官は適切な調査をすれば、原告の現住所を知ることができたはずであるのに、前記第三の3記載の千葉市長の証明書および同4記載の千葉警察署の回答を誤解し、原告あての訴状が不送達になつたことから、漫然と原告の住所、居所その他送達場所が不明であると判断したものである。
すなわち、原告は昭和三二年一一月頃、それまで居住していた前記訴状記載の元住所から、長男の訴外前田一が居住している千葉県千葉市亥の鼻町一一一番地に転居し、更に、前記訴が提起された当時は同市発戸町二丁目二二一番地に転居していたのであつて、前記訴状記載の現住所に居住したことは一度もない。同裁判官はこのことを前記千葉市長の証明書および千葉警察署の回答によつて知つたはずであるのに、これを看過し、原告が右住所に一度は居住したことがあるものと妄信し、同所にあてた訴状等が不送達となつたことから、その後原告が行方不明になつたものと速断したのである。しかし、原告が一度も居住したことがない所にあてた訴状等が不送達になつたことは当然のことであつて、このことから、原告の住所、居所その他送達場所が不明であるということはできない。
4 以上のとおり、同裁判官は適切な調査をすれば原告の住所を知ることができたにもかかわらず、これをなさず原告の住所、居所その他送達場所が不明であると判断し、原告に対する送達を公示送達によることを許可したのであるから、右許可は違法であつて、右違法な許可が同裁判官の著しい不注意に基いてなされたことは、明らかである。
(中略)
三、右争点に対する判断
民事訴訟法第一七八条第一項にいう住所、居所その他送達場所が「知レサル場合」とは、何人にも知れない場合を意味するのではなく、通常の方法による調査を実施しても知れない場合を意味すると解するのが相当である。
本件において、前記裁判官が、前記訴が提起された当時判明していた原告の最後の住所、すなわち前記訴状記載の元住所を管轄する長野警察署および訴外寺本が原告の現住所であるとして右訴状に記載した住所を管轄する千葉警察署に、それぞれ原告の所在調査を嘱託したのに対し、元住所付近を調査した長野警察署から、原告は干葉市に転居したとのことであるが、詳細は不明である旨の回答があり、他方、千葉警察署から、原告は前記訴状記載の現住所に居住したことがないので、調査不能である旨の回答があつたことは前記(第三の4)のとおりである。右事実によれば当時同裁判官は、原告が干葉市に居住しているらしいことは推測できても、原告の住所、居所その他送達場所を知ることはできなかつたことが明らかである。
右のように受送達者の元住所および転居先と思われる土地を管轄する警察署にそれぞれ所在調査を嘱託するのは通常の調査方法であつて、このような調査を実施したにもかかわらず、原告の住所、居所その他送達場所が知れなかつた以上、同裁判官が更にその上原告主張のような調査を実施しなかつたとしても、本件公示送達の許可は相当であつて、何ら違法はないというべきである。
そうすると、本件公示送達の許可が違法であることを前提とし、これにより損害を受けたという原告の主張は、その余の争点について判断するまでもなく、失当である。
よつて、原告の請求を棄却し、訴訟費用は敗訴の原告の負担とする。
第五、判断を要しなかつた争点<省略>
第六、証拠関係<省略>
(裁判官 上野宏 矢口洪一 青山正明)
目録<省略>