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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)12288号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決要旨〕一、請求原因第一項の事実 のうち、昭和三九年六月二三日午後一〇 時一〇分頃東京都大田区西糀谷二丁目二 五番地先道路上(ただその場所について は当事者双方の主張に相違がある、この 点後述)において被告樋口の運転する 被告車<編註 営業用普遍乗用自動車、 シボレー>が大森方面から進行してきた のを再び大森方面に進行するため、右廻 りの転回をしようとしたこと、その時高 夫は後部荷台に南正次を同乗させて原告 車<編註 自動二輪車>を運転し、大鳥 居駅方面から大森方面に向け進行し、右 被告車の転回せんとする場所に差しかか ったが、ハンドル操作の自由を失い、コ ンクリートの縁石に接触し、次いで歩道 縁にあつたコンクリート製の電柱に衝突 して頭腔内損傷等の傷害を受け死亡する に至ったこと、被告会社が被告車を所有 し、当時自己のために運行の用に供して いたところ本件事故が惹起したことは当 事者間に争いがない。そして<証拠>及 び弁論の全趣旨によれば、高夫は、転回 しょうとしていた被告樋口の運転する被 告車との接触を遮けようとして、原告車 のハンドルを左に切ったが、その操作の 自由を失い、本件事故の発生をみるに至 ったことが認められるから、本件事故が 被告車の運行を原因として惹起したこと 明らかである。

(被告樋口の過失について)

<証拠>に弁論の全趣旨を総合する と、次のような事実が認められ、<証 拠>中この認定に反する部分は前掲各証 拠に対比して信用しがたく、他にこの認 定を覆すに足りる証拠はない。

本件事故現場は北は大森方面に、南は 京浜急行大鳥居駅、大師橋を経て川崎方 面にそれぞれ通ずる歩車道の区別のある 道路(通称羽田街道)上で東は糀谷四丁目 方面に、西は京浜国道にそれぞれ通ずる 道路との交差点(前記第一交差点)付近 で、京浜急行大鳥居駅の北方約七〇〇米 の地点である。これより南方大鳥居駅方 面寄りに同じく東西に通ずる道路との、 信号機の設置されている交差点(前記第 二交差点)があり、右両交差点間の距離 は約七五米である(右距離については当 事者間に争いがない)。右羽田街道は全 巾貞二二米の歩車道の区別のある道路 で、車道巾員は一五米、その中央に中心 線が白色ペイントで明瞭に表示されてお り、車道両側には巾員三・五米の歩道が 設置されている。第一及び第二交差点に おいて右道路と東西に交差する道路はい ずれも巾員約七・四米の歩車道の区別の ない道路である。事故現場付近の道路は 直線で、視界を妨げる障害物はなんら存 在せず見透し極めて良好である。付近に は街路灯(水銀灯)の設備があり、その ため路面は比較的明るい。

本件事故当時の交通量は比較的閑散と していた。被告樋口は被告車に客を乗せ 大森方面から大鳥居駅方面に向け羽田街 道を南進し、第一交差点に差しかかつた ところ、乗客から方向を転換して再び大 森方面に進行するよう指示を受けたが、 直ちにこれに応ずることなく、第一交差 点を過ぎ、転回のための方向指示器を点 滅させながら進行し、第二交差点の手前 約三〇米の地点で一旦停止し、第二交差 点に設置してある信号が赤になるのを待 った。その時大鳥居駅方面から大森方面 に対向してくる一台の乗用車があつた が、右車は右信号が赤に変ったので第二 交差点において停止した<中略>。被告 樋口は第二交差点に対向車が停止してい るのを確認し、転回の動作に入った。と ころで、被告樋口は被告車の大きさ及び 道路の巾員の状況から一気に転向するこ とは不可能と考え、一旦右折した後バッ クして二度に転回を完了するつもりであ った(被告車は大型の外車で車巾二米、 車長五・三二米で、廻転のためには最小 一二・四〇米の巾員を要する。一方右道 路の車道巾員は一五米で、被告樋口が赤 信号待ちのため停止したときは被告車の 左側端と歩道右端との間に約二米の距離 があつた)。被告樋口は停止の状態から 右にハンドルを切り除々に進行し、被告 車の前部が車道の中心線を一ないし二米 こえる頃大鳥居駅方面から大森方面に向 け、第二交差点の赤信号を無視してかな りの高速度で前記停止していた乗用車の 右側車道中心線寄りに進行してくる高夫 の運転する原告車を発見したので直ちに 停止し、原告車の通過を待った。高夫は 当時原告車の後部座席に南正次を同乗さ せ、大鳥居駅から大森方面に向け、時速 八〇粁近い高速度で進行し第二交差点に 差しかかつたが前方に転回しようとして いた被告車を発見し、これとの接触を遮 けるため、ハンドルを急拠左に切ったと ころ、原告車が四輪車等に比し極めて安 定度の悪るい自動二輪車で、そのうえ後 部に高夫よりも背の高い男子である南正 次を同乗させることによりなお不安定な 状態にあり、加えるに右のような高速度 のため、被告車との接触は遮けたもの の、ハンドル操作の自由を奪われ、ハンドルを右 に切り返すことができず、しかもブレー キをかけたこともないまま車道縁石に沿 って進行し、前記のごとき事故をみるに 至った。

以上の認定事実によれば、被告樋口 は、前方第二交差点の大森方面から大鳥 居駅方面に向う車両等のための信号が赤 信号に変ったのを確認し、かつ大鳥居方 面から大森方面に向け進行してきた乗用 車が右信号に従って第二交差点において 停止したことを確認してから転回のため の右折運転を開始し、その後においても 大鳥居駅方面にも注意を向け、原告車が 信号を無視して疾走してくるのを発見す るや直ちに停止するの措置を講じ、かつ 右停止した位置は、被告車の前部先端と 歩道東端との間に少くとも五米の巾員を 残し、運転が安全な速度と方法とによる ものであれば優に被告車の前方を通過で きるものであつたこと明らかであつて、 被告樋口にはもはや本件事故の発生につ きなんらの過失はないものというほかは ない(ちなみに、進行(対向)方向の信 号が赤信号であることのみを確認し、ほ かに対向車の有無、その速度等に注意を 向けないで転回するならば、責任を免れ ないことはいうまでもないが、本件にお いては被告樋口は対向車が赤信号に従っ て停止するのを見届けてから転回を開始 したもので、一般に先行する車両が信号 に従って停止するときは後続車もこれに 従って停止することは吾人の経験すると ころであるから、仮に本件において被告 樋口が、その動静を確認した乗用車のほ かにこれに後続する車両の有無、速度等 の状況、さらに信号に従って停止した先 行車を、敢えて信号を無視し、追越して 進行することの可能性等についてより慎 重な考慮を示さなかつたとしても ――― 本件においてこれを認めるに足りる証拠は ない ――― そのことのみで被告樋口に過失 ありと断ずることは酷にすぎるものとい わなければならない。仮に百歩譲って、 右のごとく後続車が信号及び先行車に従 うものと予測することが軽卒のそしりを 免れないとしても、被告樋口は転回の動 作を開始した後も大鳥居駅方面に注意を 向け、原告車が第二交差点に進入してく るのを発見するや中央線をややこえただ けで直ちに急停車の措置を講じ注意義務 を尽したことは上記判示のとおりである から結局右非難も失当に帰する)。

そして上記認定事実によれば、本件事 故は、被害者高夫自身の信号無視、速度 違反(原告らの主張によれば本件道路に おける最高制限速度は時速六〇粁であ る)並びに安全運転違反等の過失によつ て惹起したものといわざるをえない。

従ってその余の争点を判断するまでも なく、原告らの被告樋口に対する本訴請 求は理由がないものというべきである。

三、(被告会社自賠法第三条但書所定 の免責事由について)

本件事故が被告車高夫の過失によつて 惹起したもので、被告樋口が被告車の運 行に関し注意を怠らなかつたことは上記 判示のとおりである。そして<証拠>に よれば、被告会社は被告車の運行につい ては注意を怠らなかつたこと、当時被告 車に構造上の欠陥及び機能上の障害がな かつたこと(なお右事実は原告らにおい て明らかに争わない)が認められ、右認 定を覆すに足りる証拠はない。

そうだとすれば、原告らの被告会社に 対する本訴請求はその余の争点について 判断するまでもなく、理由なきに帰す る。(岩井康倶)

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