東京地方裁判所 昭和39年(ワ)2436号 判決
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〔参照判例〕東京地判昭三五・四・五判時二二〇・一一、大分地判昭三七・八・一〇行政例集一三・八・一三九一
〔判決理由〕そこで、問題は、右のような事実関係において、原告ら主張のような精神的損害の発生存続を肯認しうるか否かである。案ずるに、本件買収処分によつて原告らが精神上の苦痛を蒙つたこと自体はこれを推認しえぬではないが、既にその買収処分の無効が判決を以つて確定され、原告らが、他に特別な事情のない限り完全に原状を回復する可能性を取得しえた以上、先に原告らの蒙つた精神的苦痛はこれによりもはや十分に慰藉せられたものというべきである。かように言つたからとて、違法の行政処分により生じる精神的損害は原状回復によつて常に填補せられるものであると、一般的に断じるわけでは、もとより、ない。例えば、国税滞納の事実がないのに、これありと誤認して滞納処分としての差押がなされた場合には、たとえ差押が解除されて財産状態が原状に回復したとしても、差押の公示によつて傷けられた当人の名誉はそのことでは必ずしも慰藉しえないから、更に精神的損害の賠償を論ずる余地が残るであろう。然し、本件行政処分のように、その違反によつて侵害せられた法益が所有権・賃借権というような財産権に止まるものであつた場合には一般に、不法行為によつて財産権を侵害されたことによつて生じた精神的損害の填補の問題に帰し、その財産権が当人にとつて特別の精神的価値を有し、一刻も離し難く、原状回復するまでの間これを行使しえないことによつて生ずる精神的苦痛(財産上損害はもとより別論である。)が、後日の原状回復だけでは癒し切れないほど大きいといつたような何らか特別な事情が存するのでない限りは、その財産権の回復によつて精神的損害も填補せられると解するのが相当である。そして、本件では、右のような特別の事情の存在は主張・立証されていないのであるから、原告らの慰藉料請求権は既に消滅したものというほかない。(倉田卓次)