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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)4474号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

【判決理由】二、そして、成立に争のない<甲号証―省略>によれば、被告は、本件仮処分事件(東京地方裁判所昭和三六年(ヨ)第二、三一九号実用新案権仮処分申請事件)の本案訴訟について第一審(東京地方裁判所昭和三六年(ワ)第四五四七号事件)において敗訴の判決を受け、第二審(東京高等裁判所昭和三七年(ネ)第二〇四二号事件(注))においても原告の販売する「三光タイバー」は被告の有する実用新案権の権利範囲に属していないとの理由により、控訴棄却の判決を受け、この敗訴判決は昭和三九年七月一八日上告却下の決定により確定するに至つたことが認められる。従つて、これによつて被告が原告に対してした仮処分につき被保全権利を有していなかつたことが確定したわけであつて、被告のした仮処分の執行が違法であつたことは、いうまでもない。

三、原告は、かような違法な仮処分の執行をしたものは無過失責任を負うべきであると主張するけれども、過失責任主義をとる現行法のもとにおいてはかような解釈は無理であつて、このような場合には、特別の事情のない限り、違法な仮処分の執行によつて生じた権利侵害について過失があつたものと推定するにとどめるのが当事者の衡平を保つ所以であると考える。

四、被告は、仮処分申請にあたり慎重な調査をとげたから過失はないと抗争するので、この点について検討する。(証拠―省略)を総合すれば、次の事実が認められる。

被告は、仮処分命令を申請するに当り、被告の有する実用新案の出願代理人となつていた弁理士橘英二及び同弁理士の事務所で働いていた弁理士宮武文一の両名に原告の「三光タイバー」が被告の実用新案権の権利範囲に属するか否かについて鑑定を求めた。両弁理士はともに、被告の実用新案の登録請求の範囲には、仮枠保持杆に鍔を設ける旨記載されているが、原告の「三光タイバー」のうち、仮枠保持杆に相当する本体ボルト部分に設けられている鍔に該当するリングゲージは、本体ボルトに嵌脱自在に螺着されていること及び被告の実用新案の明細書によれば、前記鍔は、堰板の外側に圧接して使用する旨記載されているのに、原告の「三光タイバー」における前記リングゲージは専ら堰板の内側に圧接して使用されていることの二点をどのように解釈判定するかが結局鑑定の決め手になると判断し、この二点を中心として種々比較検討した。その結果、両弁理士は、その理由とするところは若干趣を異にしたものの、いずれも原告の「三光タイバー」は被告の実用新案権の権利範囲に属するとの同一鑑定をしたので、被告は、これに基き本件仮処分命令の申請をするに至つた。

しかしながら、前記乙第八号証によれば、前記本案訴訟の第二審裁判所である東京高等裁判所は、被告の実用新案の登録請求の範囲には、「仮枠保持杆の先端中心には縦孔を設けその口部に雌ねじを形成し」と記載されており、縦孔には、構造上雌ねじを構成する部分以外になお深部の存在することが当然予定され、これが外部に通ずる透孔に連絡しているため独自の作用効果を有するから、縦孔を有することは本件実用新案の構成要件をなすものであるのに、原告の「三光タイバー」のうち、前記仮枠保持杆に相当する本件ボルト部分の先端中心には、雌ねじを構成する浅い孔があるのみで、前記深部に相当する部分がなく、従つて縦孔が存在しないから原告の「三光タイバー」は被告の実用新案権の権利範囲に属さない旨判断したことが認められる。

してみれば、被告としては、本件仮処分命令の申請に当つてはこの点につき是非とも検討を加えなければならなかつたのに、これをした事実は認められないから、この点において被告は過失の責を免れることができない。従つて、被告は違法な仮処分の執行によつて原告に被らせた損害を賠償する義務があるわけである。<中略>

七、被告は、原告の被つた前記損害は原告において仮処分の執行を受けた後民事訴訟法第七五九条に則り特別事情を主張して仮処分決定の取消を容易に求め得たにもかかわらず、これをしなかつたために生じた損害であつて、被告の仮処分の執行とは因果関係がない旨主張するが、原告の被つた損害は、既に認定したように、被告の違法な仮処分の執行そのものによつて惹起されたものにほかならず、特別事情による取消を求めなかつたために生じたものではないから、被告の主張は採用の限りではない。

八、また、被告は、原告が、自己の損害の発生ないし拡大を防止するため、先に述べた法律上の救済手続をとることができるのにこれを活用しなかつたから、この点に過失があるとして過失相殺を主張する。しかしながら、本件仮処分はいわゆる断行の仮処分であつて、金銭補償のみによつては権利が保全できないものとして発せられるものであり、債務者が製品の製作、販売を禁止されることによつて破るであろう損害等は仮処分命令をするに当り考慮されるのがほぼ実務上のならわしであつて、特別事情による仮処分決定の取消を求めることは容易なことではないところ、本件についてみても、原告において特別事情を主張して本件仮処分決定の取消を求めれば容易にその目的を達したであろうと思わせるような証拠は全然ない。従つて、たとえ、原告においてこれをしなかつたとしても過失の責を負わなければならない道理はない。被告の過失相殺の主張もとるに足りない。(古関敏正 吉井参也 小酒礼)

(注) 昭和三七年八月二九日言渡――

本誌一三五号八九頁以下。

なお、本件仮処分命令は異議によつて取り消されている。――昭和三八年四月六日言渡東京地裁昭和三七年(モ)第一二、四五九号、本誌一四四号一六〇頁以下。本件被告はこの判決に対しても控訴したが、昭和三九年一月三〇日東京高裁で控訴棄却が言い渡され、同年六月一八日確定した。

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