東京地方裁判所 昭和39年(ワ)5075号 判決 1966年9月28日
原告(反訴被告) 新菱冷熱工業株式会社
右代表者代表取締役 加賀美勝
右訴訟代理人 宇田川好敏
被告(反訴原告) 大畠トラ
右訴訟代理人 大塚久米之亟
主文
被告は、原告に対し新宿区四谷二丁目五番地二宅地一二一坪二合における原告の家用余水排水のため同所五番七宅地二一坪四合六勺内に敷地されている別紙図面記載の下水管ABCDEに通水させよ。
反訴原告の反訴請求は棄却する。
訴訟費用は本訴並びに反訴によりて生じた分全部被告(反訴原告)の負担とする。
事実
原告(反訴被告、以下単に原告と略称)は主文第一項と同旨訴訟費用被告負担の判決を求め、
請求原因並びに反訴請求原因に対する答弁として、次の通り陳述した。
原告は従来原告方(イロハニイ)で用いる余水は原告地内のマンホール(A)に集注し、低地である被告地(ホヘトチホ)の北端に沿い西から東に敷設された下水道管(ABEを結ぶ)を通過して東方の下水道に排水して来たところ、被告は昭和三九年三月初め右排水路を廃止し(BCDEを結ぶビニール硬管を敷設して被告方の余水を排水している)た。被告は右のABEを結ぶ排水路は詰って流れないので廃止したから原告方の余水は北方の電車道の下水道に排水して貰いたいというのである。しかし北方の電車道の下水道への排水は通水路が長大であるだけでなく、北方に向けて昇り勾配となっていて、原告のイロハニイの土地の方が一一〇ないし一四〇センチメートル低いのであるから若し北方公道に排水しようとするときは揚水ポンプ等設備費見積一七四万九六〇〇円を要する。以上の理由で原告方のマンホールAよりBCDを経て東方の公道に排水するための通水せしめることを求めるというものであり、昭和二二年以降被告がクリーニング業を営んでいることは認めるも、当初ABEを通水する下水管は原告の専用であって、五番地の二宅地一二一坪二合の地上の事務所を所有し、右宅地所有権は昭和三八年四月に買取ったものであるが、原告の右の建物は寮ではないと附陳した。
立証≪省略≫
被告(反訴原告、以下単に被告と略称)は本訴につき請求棄却訴訟費用原告負担の判決を求め、反訴請求の趣旨として、反訴被告は新宿区四谷二丁目五番地の七宅地二一坪四合六勺の北側中央部(B)より反訴原告所有建物建坪一七坪五合二階一七坪五合の床下を経過する下水管によりC、DEを経る下水管により余水排水をしてはならない。訴訟費用は反訴被告の負担とするとの判決を求め、
反訴請求原因並びに本訴請求原因に対する答弁として次のように述べた。
被告方はクリーニング業を営むものでもとABEを結ぶ下水排水管はもと直径三寸位土管で被告の専用であったが破損したので昭和三〇年頃これを直径五寸位の土管と取替えて使用して来たものであったところ、何時の間にか隣家の島田三郎方の汚水が流入し、同三八年夏頃原告が同土地(五番地の二)を買取り、その地上の原告会社の寮と思われる建物に一〇名位居住し余水水洗便所の汚水等が流入した。これは被告が承諾したことがないのに原告において、被告設置の右の土管に汚水を流入せしめる工事をしたことに基づく。そして同三九年二月二七日頃原告方からの汚水が被告方建物の下に流入し悪臭を発し且つ非衛生の事態を生じた。従前のABEの排水路は隣接の久保方とのコンクリート塀に接し修理不能ゆえ、BCDを経由する被告方の建物の床下に下水管を新たに通し翌二月二八日、二九日頃にその工事をして、現在被告方の排水をこれによりなしているものである。従ってこれに原告方の多量の汚水を流入せしめるときは建物床下に溢水、流通不完全のおそれ多大であるから、原告に対し右下水管に通水することの禁止を求めるため反訴に及んだというのであって、
原告が北方に排水するには設備費用に多大なかかりがするということは被告の床下に排水路を通してよいという理由にはならないと附陳した。
立証≪省略≫
理由
≪証拠省略≫を綜合すれば、原告の四谷二丁目五番地二宅地一二一坪二合は別紙図面イロハニイの部分(以下甲地と略称)、被告の同所五番七宅地二一坪四合六勺は同図面ホヘトチの部分(以下乙地と略称)であってその方位は同図面に示す通りであり概ね北方が稍高く、従って甲地の方が乙地より稍高い関係になるものであるところ、甲地の従前の所有者西山喜則は昭和一八年頃からこの土地に住んで、甲地を用いていたものであって、これを買い受け所有権を取得したのは昭和二四、五年頃であり、同三八年四月にこの土地を原告に売渡し、その間この土地を使用していた。そして従前西山喜則が甲地を使用していた当初甲地の東側に裏門があって幅九尺位の私道で東側の公道に通じ、その私道の下に甲地からの下水を地主の承諾をえて流していて、同所五番の八か七即ち図面ABEの附近を通じていたところ、その後右五番七の端、即ちABEに六寸の土管を排水管として入れ爾後こに甲地の余水を排水していたが、これより後甲地を原告に譲渡し、その後は原告が同様これにより排水していた。被告は昭和二二年頃乙地に来てこの土地を使用するようになり、被告は右の土管にその被告方の排水を流す土管を継いだものと思われ、右従前のABEの六寸の土管は西山喜則が地主大西則彦の承諾をえてこれを敷設したものであった。そして被告本人も昭和二二年頃この土地に来たときには既にABEの土管が存在したいたと陳述していることが認められる。
また≪証拠省略≫によれば、被告はその後右の六寸の排水用の土管を昭和三〇年頃いちど取替え径五寸位の土管にしたもので、右乙地は借地であったが昭和三八年に被告は買受け所有権を取得して現在に至っていることが認められ、弁論の全趣旨によればその後BE間においてその後溢水したこと、被告はその排水のためBC間に排水管を通したことが明らかである。しかして前掲証拠によれば、ABE附近の乙地の隣地との境界はコンクリート塀が存在し、BE間に排水管を新たに敷設することも、旧い部分を修理することも不能の状況にあることが認められ、他方甲地より北方を経由迂回して都電の通ずる公道に新たに排水路を設けることを考慮しても、道程が長大であるばかりでなく、前記判示の通り、北方に向け次第に高地となっているので揚水ポンプを用いる等の設備なしには、排水路の用をなさないことを窺うに充分である。以上の理由により甲地及び乙地の排水路に関する可成り前からの前示認定の事情に徴するときは、BCD間は被告方の地内に被告が設けた排水管であるにもせよ、BE間が通水できない以上原告方の家用排水を通水せしむる為止むをえないから、従って、ABCD間の部分の排水管に通水を求むる原告の本訴請求を理由あるものと認め、反訴原告の反訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民訴法第八九条を適用し主文のとおり判決する。
(裁判官 長利正己)