大判例

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東京地方裁判所 昭和39年(ワ)5276号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔争点〕原告は、被告は訴外アザミ縫製有限会社の代表取締役名義で昭和三八年一二月三〇日原告宛に金額六三〇、八五〇円の約束手形一通を振出した。しかしながらみぎ訴外会社はみぎ振出日以前である昭和三八年一二月五日解散、訴外駒田正を清算人と定めてその登記を経由していたものであるから、みぎ振出当時被告は訴外会社の代表資格を欠き、したがつてみぎ手形は被告が代理権を有しないのに、代理人として署名したものにほかならないから被告自らその支払の責を負うべきである、と主張した。

被告は、本件手形は清算中の訴外会社の清算人である訴外駒田正が振出したもので、その支払義務は訴外会社にあつて被告にはない。すなわち被告はかつて訴外会社の代表取締役であつたが、形式上その地位にあつたにすぎず、同会社の経営は専ら訴外駒田正において掌理し、同会社から手形払出の代理権を授与せられ、同訴外人は従来自己を表示する名称として「代表取締役駒田一郎」なる名義を用いて訴外会社の手形を振出していたものであるが、

訴外会社は原告にたいし解散前である昭和三八年一一月末日仕入れた商品代金債務を負担していたので、清算事務処理中の訴外駒田正はその支払いのため従来用いていた被告の代表名義を用いて本件手形を振出したものであつて、右は訴外会社のため有効な手形行為として成立し、訴外会社において、みぎ手形の支払名義を負担すべきものであると抗争した。

判決は被告の抗弁を採用し、原告の請求を棄却したが、つぎのとおり説明している。

〔判決理由〕(1)訴外会社は繊維製品の製造、加工業を営む会社であるが、もともと訴外駒田正の個人企業的色彩の濃厚な会社であつたので、その代表取締役として正の養父にあたる被告が登記せられていたけれども同人はいわば名目上その地位にのせられていたにすぎず、昭和三七年三月訴外会社が設立せられて以来実質上同会社の営業に関与したことは全くなく、その経営管理は専ら取締役であつた正において、一切これを掌理し、したがつて訴外会社がなす商取引は手形行為を含め全般的に正が訴外会社より包括的に授権せられた代理権に基き遂一これを処理していたものと認められること。

(2) しかし乍ら訴外駒田正が訴外会社のために手形を振出すにあたつては、たまたま代表取締役が被告とせられていたので便宜上同人の名義を用いて振出人を「アザミ縫製有限会社代表取締役駒田一郎」と表示して振出すのが慣例となつていたこと。

(3) 訴外駒田正は昭和三八年一二月一五日訴外会社の解散にともない清算人に就任しその後は同人がその地位において訴外会社を代表するにいたつたところ、訴外会社は清算前である同年一一月末に原告会社から商品六三万〇八五〇円相当を仕入れ、その代金債務を同会社に負担していたので、その支払のため同年一二月三〇日本件手形(甲第一号証の一、二)を振出したものであるが、その振出名義はいぜん従来の慣用に従い「アザミ縫製有限会社代表取締役駒田一郎」と表示したこと。

等の事実を認めることができ他に右認定を左右するに足る証拠はない。

而して以上認定の事実によれば、事実訴外会社を代表して本件手形を振り出しかつ振り出す権限を有したのは訴外駒田田正であつて、そもそも右駒田一郎なる名義は、駒田正がながらく同人自身を表示する称号として慣用して来た名称にほかならないことが明らかであるから、たまたま本件手形の振出人欄記載の訴外会社代表者が駒田一郎名義になつているからといつて同名の被告に対し無権代理人として本件手形上の責任を追求することは失当であるといわねばならない。(土井俊文)

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