東京地方裁判所 昭和39年(ワ)6702号 判決
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〔判決理由〕まず、被告の右の行為が信義則に反するものかどうかについて判断する。前記認定の事実からすると、本件宅地建物の所有者たるモリシタは原告のほか富士信託、北斗建設その他多数の不動産取引業者に対しそれぞれ別個にその売却方の仲介依頼をしていたもので、右取引業者らは右同一物件についてそれぞれ競争的な立場においてその売買の仲介をすべき立場にあつたというべきであり、一方被告は希望の物件を広く探索する目的から、大槻不動産、北斗建設及び原告というように複数の取引業者に対しそれぞれ宅地建物買受方の仲介依頼をしていたものであり、多額の資金を投じて自己の住宅を求めようとする者ができるだけ広くその対象を物色することは人情の自然であるからそのこと自体はかくべつ非難するには当らないというべきところ、被告はまず大槻不動産を通じて富士信託から、次いで北斗建設から、さらに原告から、あいついで多くの物件の紹介を受けた中にたまたまいずれも本件宅地建物を含み、期せずして本件同一物件について、競合的にその現地案内をうけて下見をするとともに売主側の希望価格等の呈示をうけるなどの紹介をうける結果となつたので、その段階において、被告が依頼した右取引業者のうちから、被告のもとの勤務先の従業員の父という縁故があり、報酬金額(報酬の最高額は法定されているが、その範囲内では自由なるべきこと宅地建物取引業法第一七条により明らかである)ならびに売主との交渉などの点についても被告にもつとも有利な申出をしていたところの大槻不動産をとくに選択して、これを通じて爾後の仲介を行わしめることとし、原告ならびに北斗建設に対しては仲介依頼の解除通知をしたうえで、右大槻不動産ならびにこれを通じて富士信託の仲介によつて本件売買契約を成立せしめたものであつて、かように、宅地建物の買受希望者が広く物件を探索する目的から複数の不動産取引業者に買受方仲介の依頼をしたところ、たまたま右複数の業者が同一の売主から同一物件につき競合的に売却方仲介の依頼をされていたものであるため、これらの業者は買受仲介委託の面においても互に競争的立場に立つこととなつたという場合には、ほかにとくだんの事情のないかぎり、買受仲介委託者としては右業者のうちから自己にもつとも有利な条件を提示した者を選択して、爾後その業者の仲介によつてのみ当該物件の売買契約を成立せしめる自由を有するものというべきことは競争の本質上当然のことであつて、その場合他の業者に対しては紹介にかかる同一物件がその意にかない、買受の決意をしたものであつても当該業者に対してすでに爾後その物件についての売買の交渉をすすめるべき旨の指示をした場合のほかは、爾後の右指示をすることなく、さきになされた仲介依託契約を解除することができるものというべく、これによりその者を爾後の取引から排除したとしてもなんら取引上の信義則に反するものではないと解するのが相当である。
この場合他の業者がその仲介から排除される結果になるのはひつきよう爾後当該物件につき売買交渉の仲介を進めるべき段階において競争に敗れたというまでのことで、なんら怪しむに足りない。してみれば原告がいまだ被告に対したんに物件の紹介をしたというにとどまりそれ以上当該物件について仲介をすすめるべき旨の指示を得ない段階において、被告が原告に対する爾後の仲介の依頼を解除したうえ、右大槻不動産及びこれを通じて富士信託に爾後の仲介をなさしめて本件売買契約を締結するにいたつたのは正当というべくほかに被告の右行為が信義則に反するとすべきとくだんの事情は認められない。(浅沼武 篠原幾馬 渡辺忠嗣)