東京地方裁判所 昭和39年(ワ)6847号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕そこで本件事故に対する被告の責任について考える。
本件事故におけるフアンカバーの落下原因は前記認定の事実によれば、
(1)平井一徳がフアンカバーを降そうとして仮組立の冷却塔にのぼり、同人の額が横梁の位置にくるような状態で手をのばし、フアンカバーを持ち上げようとしたところ、そのフアンカバーに加えた力が何らかの経路でその数個先きに置いてあつたフアンカバーに伝り、それを落下させたものと推定するのが相当である。
この点に関して平井一徳はその証人尋間の際、「私が製品に手をかけて落したということは考えられない。何故落ちたのかわからない。」旨述べているが、地震その他非人為的あるいは平井一徳以外の人為力によりフアンカバーが落下したことを窮わせるような証拠は何もないから、右認定を覆えすに足りない。
(2)さらにフアンカバーをのせた木材およびフアンカバーそのものを針金その他により固定しえなかつたことも、フアンカバー落下の一因をなしていると考えられるのが相当である。
そして右(1)の点すなわち平井一徳がフアンカバーを降すのに十分な高さまでのぼることなく、手を上にのばして頭上のフアンカバーを降そうとした点、および数個先のフアンカバーにまで同人の力を伝わらせた点は同人の不注意(過失)というべく、また右の(2)点すなわち天井のような高い所に鉄板製のフアンカバーを保管するにあたつて、そのフアンカバーやその下の木材を針金その他により固定していなかつた点は工場管理責任者としての工場長角田治男の不注意(過失)というべきであり、結局本件事故の発生は平井一徳の過失と角田治男の過失の競合にもとずいて発生したものというべきである。
被告は角田治男および村田貞治が原告に事前に注意を与えていたし、原告自身安全帽を着用していなかつたから、角田治男および平井一徳には過失がない旨主張するが、仮にこれらの事実があつたとしても、それによつて右に認定した角田治男および平井一徳の各過失が無くなるおそれはないから、右本訴は理由がない。そして角田治男および平井一徳が被告の従業員であることは前認定のとおりであり、また角田治男のフアンカバーを保管する行為および平井一徳のフアンカバーを降す行為がいずれも被告の事業の執行としてなされたものであることは明かであるから、被告は民法第七一五条第一項にもとづき原告が本件事故により蒙つた損害を賠償する義務がある。(西山要・西川豊長・上田豊三)