東京地方裁判所 昭和39年(ワ)7113号・昭41年(ワ)1453号 判決
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〔判決理由〕………を総合すれば次の事実が認められ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。
(イ)被告近藤は本件土地上の旧建物を改築するために、昭和三九年六月中旬ごろからその取こわし工事に着手し、同月末これを完了し、本件土地はさら地になつた。選定者らはそのころ現場を訪れて、右の旧建物取こわしの事実を知つたので、被告近藤が本件土地に建物を新築するなどの行為に出るであろうと考えた。
(ロ)そこで補助参加人は、以前から法律問題等について種々と相談したことのある(昭和三五年には、その所有土地の明渡訴訟事件を委任したこともあつた)成田哲雄弁護士に、同年六月末か七月初め、右取こわしに対する処置について意見を求めたところ、同弁護士から「地上建物を取こわして土地がさら地になつてしまえば借地権は消滅し、売る方も買う方も安心だから売つてしまつた方がよい」と示唆勧誘されたので、本件土地を売却する気持になり、その買主として同弁護士の父親が代表者をしている原告を紹介された。そして選定者らは同月八日原告代表者成田信雄に会つて売買の交渉をすすめ、翌九日には双方で本件土地の現場を視察し、同月一二日売買契約を締結して、同月一五日にはその旨の所有権移転登記を了した。当時の本件土地のさら地としての時価は三・三〇平方メートル当り約五〇〇、〇〇〇円であり、実際にも売買当事者間で本件土地の時価は右の程度であろうとの話も出たにもかかわらず、右売買の代金は三・三〇平方メートル当り二〇〇、〇〇〇円であつた。
(ハ)なお、右売買に際し選定者らは原告代表者成田信雄、同成田善三郎に、被告近藤との間の賃貸借関係(その期間が昭和四五年一二月までであることを含めて)および地上の旧建物が売買の直前に取こわされたことなどについて詳細にその事情を述べた。
(ニ)原告はその代表者成田善三郎、同成田信雄(善三郎の二男)らの同族会社であり、競売物件など土地、建物の売買、貸金などを業とするものであつて、本件土地は転売の目的で買い受けたものであつた。なお、右成田善三郎はもと弁護士であつたが、貸金業等の取締に関する法律違反ならびに弁護士法違反被告事件について懲役刑等に処せられたため昭和三七年一月二四日弁護士名簿の登録を取消されたものである。
(ホ)原告代表者成田善三郎は、本件土地の移転登記を了した翌日の七月一六日、「原告が本件土地の所有権を取得したがその際地上の旧建物は取こわされていたから、被告近藤の賃借権は原告には対抗し得ないことは、建物保護法によつて明白である。しかし、原告は被告近藤からの相談に応じない訳ではなく、原告としては本件土地の隣接地(七六・〇三平方メートルあり、被告近藤が所有していた)を買い受けたい希望もあり、あるいは本件土地を被告近藤に売却してもよい。なお、原告代表者成田善三郎は多年弁護士の職にあつたが数年前から退職しており、長男は一〇数年前から弁護士を開業中である。」旨を書き送つた。右書状の用紙には「弁護士成田法律事務所」との記載がある。右成田善三郎は、さらに同年七月一八日、一九日にもほぼ同様の趣旨の書面を被告近藤に送付し、本件土地と被告近藤所有の隣接土地を共に処分すれば、単独で処分するよりもはるかに有利であるから、話し合いによつて解決したいと、重ねて右隣接土地の売却方を暗示した。
(ヘ)また原告は昭和三九年七月二〇日、前日の七月一九日被告近藤が本件土地にトタン板の塀を造つたことを理由にその妨害排除等の仮処分を申請し、同月三〇日には本訴を提起し、八月一日にはその旨を被告近藤に通告した。右仮処分事件の際、昭和三九年七月末に、原告と被告近藤間において示談交渉が行なわれたことがあつたが、成田善三郎は被告近藤に対し、本件土地をさら地としての時価相当額(三・三〇平方メートル当り五、六〇万円)で買い受けることを要求し、立ちのき料としてはいわゆる涙金程度のものしか支払えないと述べた。
右認定の事実に基づいて検討するに、原告代表者成田善三郎は法律に明るいところからこれを悪用し、改築のために旧建物が取こわされた間げきをぬい、前所有者をそそのかして急きよ本件土地を買い受けたものというべく、しかもこれを買い受けるや直ちに、被告近藤の賃借権は原告に対抗し得ない旨を主張して本訴を提起するなどの挙に出ているのであるから、被告近藤が前所有者に対して有していた賃借権を害する目的があつたことは明白であり、また時価の半額以下で本件土地を買い受けながら、これを被告近藤に時価相当額で売りつけようと試み、あるいは被告近藤所有の隣接土地の買い受けをも策するなど、不当な利益を獲得するための買い受けであつたことも明らかである。
従つて、たまたま地上建物が取こわされていたことを理由に、原告は、被告近藤の賃借権の対抗要件のけんけつを主張し得るとし、原告の本訴請求を認容することは著しく正義に反するものというべく、原告がいわゆる背信的悪意者であることは明白であるから、被告近藤は前所有者に対する賃借権をもつて原告に対抗し得るものというべきである。(田嶋重徳 定塚孝司 矢崎秀一)