東京地方裁判所 昭和39年(ワ)9991号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕原告主張の本件売買契約について、被告は原告に対する本件土地の売主であることを争うので、まずこの点について判断する。本件土地につき被告から原告に対し昭和三八年一二月一〇日所有権移転登記がなされたことは当事者間に争いがなく、右事実 ……をあわせ考えれば次のとおり認めることができる。すなわち、本件土地は不動産業者である訴外山田喜一郎が訴外望月文吾から買い受けるにあたり、被告の夫渡辺昇から買受資金一二〇万円の融資を受けたことから、その担保の趣旨で喜一郎はこれを他に転売するまでの間右渡辺および被告の了解のもとに望月から直接被告名義に所有権移転登記を了した。被告は喜一郎が、本件土地を他に転売するときには所有名義人としてこれに協力すべく、そのさい夫渡辺昇はその貸金の回収を受けることをあらかじめ承知していた。
昭和三八年一一月ごろ、喜一郎はこれを原告に売却することとなつたが、この売買にあたつては実弟山田樫郎のほか原告側では訴外和田義雄および松本某が仲介人として関与し、同月二五日喜一郎宅で同人、樫郎、和田、松本ら関係者が集つた上取引をし、被告を売主とし原告を買主とし被告が本件土地を代金二三〇万円で原告に売り渡す旨の売買契約書(甲第一五号証)を作成したが、右書面においては山田喜一郎が自ら被告の氏名を記載し、あらかじめ預つていた被告の印を押印し、原告側は和田義雄が原告のため代理人として署名押印した。原告は即日手附金(内金に充当)として金五〇万円を売主側に交付し、売主側では喜一郎か樫郎かによつて被告名義の署名押印をしてその旨の手附金領収証(甲第一号証の一)を作成して原告側に交付した。ついで同年一二月一〇日東京法務局杉並出張所に関係者相会して被告から原告への所有権移転登記手続がなされたが、その数日前には被告は喜一郎に自己の印鑑証明書および白紙委任状を交付し、登記当日には自らもまたこれに立会した。右登記と同時に原告は残代金一八〇万円を支払つたが、その受取(甲第一号証の一一)は山田樫郎において被告名義のものを作成して原告に交付し、喜一郎は右代金一八〇万円の中から被告の夫渡辺昇に前記債務一二〇万円を返済した。これらの取引の全過程を通じて原告においてはあくまで登記簿上の名義人である被告が所有者であり、かつ売主であるものと信じて疑わず、その後本件紛争が起り被告側に交渉したさいも、被告側では当初は被告名義の回答を寄せ、代金の返還は告訴事件等の解決後話合いたい旨を主張していた。かように認められる。
以上の事実によつて考えれば、被告は喜一郎との内部関係はともあれ、本件土地の売買については土地所有者たる立場において自ら売主となつたのであり、喜一郎および樫郎らに対しては本件土地売買に関する一切の代理権を与え、同人らの代理行為により結局原告と被告との本件土地の売買契約が成立したものであり、原告の支払つた代金は売主としての立場で全額被告が受け取つたこととなると認めるのが相当である。(浅沼武)