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東京地方裁判所 昭和39年(特わ)100号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕(三) 弁護人は、別紙第二の一の13、二の29、三の37の松井新太郎に対する貸付金利息の益金計上について、被告会社がその代表者松井新太郎に貸付けた金七〇五七二〇円に対し年一割の利息を認定するのは、法律に基づかず違法である。すなわち、右消費貸借は本来利息の定めのない消費貸借であるのに、国税局は昭和三四年八月二四日直法一―一五〇法人税取扱通達三六に基づき年一割の利息を認定しているのであるが、右通達は課税標準たる所得の範囲をも法律によつて規定しなければならないとする租税法律主義に反し、またこれを刑事訴追の立場から考えるとき、逋脱罪の前提となるべき所得(構成要件に該当する事実)の範囲を法律に基づかず単なる通達によつて規定していることになり罪刑法定主義に反する。要するに、右通達は租税法律主義を規定する憲法第八四条に違反し、かつ刑事訴追の立場からみても違法なものであるから、これに基づき前記利息を認定し被告会社の所得とすることは許されない、と主張する。

なるほど、憲法第八四条の租税法律主義は、課税物件・課税標準・税率などについて法律で定めることをもその内容とするものであるが、それらの全部にわたつて常に法律で定めなければならないという趣旨ではなく、ことの性質上その一部については命令に定めを委任することは許されているものである。殊に、法人税の課税標準である所得の範囲については、その復雑な所得計算のすべてにわたつて法律で定めることは技術的に困難なところから、昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法第九条第八項は、同法に規定する主要なもののほか所得の計算に関し必要な事項についての定めを命令に委任し、この委任により昭和四〇年政令第九七号による改正前の法人税法施行規則は所得の計算に関し必要な事項を定めていたものである。いま本件松井新太郎に対する貸付金についてみるに、右改正前の法人税法施行規則第一〇条の四(現行法人税法第三五条第一項に相当する)は役員に支給した賞与の額は当該事業年度の所得の計算上損金に算入しない旨規定し、同第一〇条の三第三、四項(現行法人税法第三五条第四項に相当する)によると、右賞与に債務の免除等による経済的利益が含まれる旨規定されていた。これらの規定によれば、法人が役員に経済的利益を与えた場合、それが賞与と認められるものであり、その経理を行つていないときは、法人税の負担を不当に減少させる結果とならぬよう、当該利益の評価額を益金に加算し、これを役員に対し賞与として支給したものと認むべきことになるのである。ところで、被告会社が利息の定めなく前記金七〇五、七二〇円を代表者松井新太郎に貸与したのは、まさに通常取得すべき利率により計算した利息額相当の経済的利益を与えたものであり、しかもこれは前記施行規則第一〇条の三第四項により賞与と認むべきものである。そしてこのような場合の通常取得すべき利率を、昭和三四年八月二四日直法一―一五〇法人税取扱通達三六は、原則としておおむね年一割とするとしているのであるが、税務官庁のこの取扱いは経済界の一般的取引の実情に照らし社会通念上相当として是認しうるものである。そうだとすれば、被告会社の松井新太郎に対する前記無債の貸付金については、各事業年度において年一割の利息相当額を認定賞与として益金に加算すべきであり、このことは、すでに述べたとおり、単に通達のみによるのではなく法令の根拠に基づいているのであるから、何ら租税法律主義に反するものではなく、また罪刑法定主義にも反しない。弁護人の論旨は理由がない。

(四) 弁護人は、別紙第二の一の9、二の9の各仕入割戻高の計上洩分について、法人税法は実質課税の原則を掲げているから、本来法人税の対象となる所得があつたとするには、単に請求権が発生しただけでは足らず、法人が現実に利益を享受したときをもつて所得があつたものとみるべきであるところ、右各勘定科目については、いずれもその事業年度において被告会社が現実に利益を享受していないから、いまだ被告会社の所得ではない、と主張する。

しかしながら、信用取引が広く行われる現代企業の会計において、所得の年度帰属、損益認識の基準としての発生主義の原則は、一般に認められている原則であり、法人税法も昭和四〇年法律第三四号による改正前から、その全体の構成からみて原則として発生主義を採用していると解されるのであつて、弁護人主張のように、各請求権について現実にその支払を受けた――弁護人のいう「現実に利益を享受する」とは、現実に支払を受けることを指していると解される――時点で益金に計上すべきもの、すなわち現金主義によるべきであるとすれば、他の商品売買等すべての勘定科目についても同様に現金主義により現金の収支があつた時点で損益を認識しなければならず、そうなるとかえつて企業の損益計算は不合理なものとなるであろう。したがつて、原則として発生主義により請求権が発生した時点で損益を把える税務官庁の取扱いは、これを是認すべきところ、前掲関係証拠によれば、前記各仕入割戻り高の計上洩分は、それぞれ各年度においてその割戻金額が予めなされていた当事者間の契約により算定可能でその請求権が発生し確定していたものであることが認められるから、これを益金に計上すべきである。なお、いわゆる「実質課税の原則」は、前記改正前の法人税法では、その第七条の三に規定していたもので、所得が誰に帰属するかの問題に関するものであるから、弁護人主張のように、現金主義の論拠にはならない。弁護人の論旨は理由がない。

(五) 弁護人は、別紙第二の一の23、二の23、三の26の各価格変動準備金繰入の否認、同一の24、二の24、三の27の各貸倒準備金繰入の否認について、右否認は昭和三九年二月二一日付の青色申告承認の取消に基づくものであり、右否認の結果所得となつた分については、被告人らに逋脱犯としての責任はない。なぜなら、逋脱罪の既遂時期は確定申告の時とみるべきであるから、逋脱の結果発生後に青色申告承認の取消という行政処分によつて生じた所得分についてまで、被告人松井敬太郎において逋脱の責任を負うことはないはずであり、またその分についてまで逋脱の犯意はなかつたものである。したがつて、税務行政上の措置として右青色申告承認の取消によつて生じた所得分を課税の対象とすることは格別、右所得分についてまで刑事責任を追求することは失当である、と主張する。

そこで検討してみるに、過少申告による法人税逋脱罪の既遂時期については、虚偽過少の確定申告をし正当な税額を納付しないで所定の納付期限を経過したとき既遂に達すると解するのが相当であり、またその犯意については、詐欺または不正の行為により所得を過少に申告して国の法人税の収納を減少させるに至るべきこと――逋脱の結果――を概括的に認識することをもつて足りる(逋脱所得が、どの勘定科目の脱漏ないし架空計上額によつて構成されているかということまで、個別的に認識する必要はない)と解すべきであり、前掲証拠によれば、被告人松井敬太郎に右犯意があつたことは明らかである。そして逋脱の結果は、国が収納すべき正当な税額によつて決定されるべきものであり、この逋脱の結果に対し逋脱犯は刑事責任を負わねばならない。したがつて、青色申告の承認が取消された場合には、国が収納すべき正当な税額は、価格変動準備金、貸到準備金等の繰入を否認して算定される税額であるから、その税額と申告税額との差額が逋脱税額となるものである。けたし、青色申告の承認制度は、納税義務者が所定の帳簿書類に真正な記帳をすることを前提として税法上各種の準備金繰入額の損金計上等の特典が認められるものであるところ、本件被告会社の青色申告の承認は、本件逋脱の不正行為を原因として昭和四〇年法律第三四号による改正前の法人税法第二五条第八項第三号により弁護人主張の日付で取消されたものであり(前掲22の証拠)、かつ本件のような場合青色申告の承認が取消され各種準備金繰入額の損金計上などの特典が受けられなくなるであろうことは一般に予見しうべきことでもあるから、本件逋脱の不正行為と青色申告承認の取消との間には相当因果関係があると考えるのか相当であり、したがつて被告人らが青色申告の承認を取消された結果所得となつた分についても逋脱犯の刑事責任を負うべきは当然である。なお、このことは、逋脱罪が納期を経過した時点で既遂に達するという見解と相容れないものではない。弁護人の論旨は、これまた理由がない。(守谷芳 吉永忠 松本昭徳)

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