東京地方裁判所 昭和39年(行ウ)81号 判決 1974年2月22日
東京都府中市白糸台五丁目七番四号
原告
細川勇五郎
右訴訟代理人弁護士
佐瀬昌三
同
井出雄介
右訴訟代理人佐瀬昌三訴訟復代理人弁護士
山崎
同
溝淵道
同
竹村悦子
東京都府中市分梅町一丁目三一番地
被告
武蔵府中税務署長
斎藤貞雄
右指定代理人
宮北登
同
高橋郁夫
同
門井章
同
佐々木宏中
右当事者間の所得税更正処分取消請求事件について、当裁判所は、次のとおり判決する。
主文
原告の請求を棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
第一、当事者の求めた裁判
一、原告
1. 立川税務署長が原告の昭和三五年分の所得税について昭和三八年八月三一日付でした更正処分を取り消す。
2. 訴訟費用は被告の負担とする。
との判決
二、被告
主文同旨の判決
第二、当事者の主張
一、原告の請求原因
1. 原告は、昭和三六年三月一五日立川税務署長に対し原告の昭和三五年分の所得税について総所得金額(ただし、事業所得のみ)を六六一、四〇〇円とする確定申告書を提出したところ、同署長は、昭和三八年八月三一日付をもつて右金額を一七、二三七、〇二九円とする旨の更正処分(以下、本件更正処分という。)をした。
昭和四〇年七月一日立川税務署長の所管事務のうち原告の住所地を含む区域の所管事務は被告に引継がれ、被告がその権限を承継した。
2. しかしながら、本件更正処分には原告の総所得金額を過大に認定した違法があるので、原告は右処分の取消しを求める。
二、請求原因に対する被告の認否および主張
1. 請求原因1の事実は認めるが、同2の主張は争う。
2. 原告は不動産取引の仲介業を営むものであるが、係争年分の原告の総所得金額(ただし、事業所得のみ)は八三、二八二、九八八円であり、その算出根拠は次のとおりである。
(一) 収入金額 二二五、四九三、七二一円
(二) 必要経費 一四二、二一〇、七三三円
(1) 土地買収代金 一一〇、七九六、〇〇〇円
(2) 建財名義料 三、二七七、四一九円
(3) その他の経費 二八、一三七、三一四円
(三) 事業所得金額((一)-(二))八三、二八二、九八八円
3. 以下、事業所得の算出根拠について説明する。
(一) 収入金額 二二五、四九三、七二一円
原告は、大和土地建物株式会社(以下、大和という。)と共同して東京都日野市内の農地等を買収して、これを工業用地として他に売却することにし、原告が農地等の買収および売却を、大和が買収資金の負担をそれぞれ分担することにして、右買収および売却の事業を進めた。そして、原告は、係争年中に右買収にかかる土地を東京芝浦電気株式会社(以下、東芝という。)外三社に代金合計三一三、二五六、〇五六円で売却したが、原告は右売却代金のうち二二五、四九三、七二一円を取得し、同額の収入を得たものである。すなわち、右売却代金について、原告はそのうちの四四、九五六、〇二五円を、大和は残額二六八、三〇〇、〇三一円をそれぞれ買主から直接受領しているが、原告は右売却に先立ち大和より買収資金一八〇、五三七、六九六円を受領しており、大和が直接受領した売却代金二六八、三〇〇、〇三一円のうち一八〇、五三七、六九六円は大和が原告に支払済の買収資金の回収額であり、その残額八七、七六二、三三五円が右共同事業による大和の収入金額であるから、結局、原告の収入金額は前記売却代金三一三、一五六、〇五六円から大和の収入金額八七、七六二、三三五円を差し引いた二二五、四九三、七二一円となる。
(二) 必要経費 一四二、二一〇、七三三円
(1) 土地買収代金 一一〇、七九六、〇〇〇円
原告は日野市内の農地等七六、八八四坪を上毛補償料、天地返し費用も含んで坪当り一、五〇〇円(合計一一五、三二六、〇〇〇円)で買収したが、東芝外三社に売却したのはそのうちの七三、八六四坪であり、残りは棚おろし資産として原告に留保されているから、必要経費となるのは右買収代金のうち右七三、八六四坪に相当する一一〇、七九六、〇〇〇円である。
(2) 建財名義料 三、二七七、四一九円
原告は前記土地の買収および売却にあたり、建財株式会社常務取締役の名義を使用し、その名義料として右会社に対して五、〇〇〇、〇〇〇円を支払つた。しかしながら、原告は右会社が原告のために昭和三二年一二月から昭和三六年三月までの間に支払つた立替金一、七二二、五八一円を清算していないから、原告が支払つた実質的名義料は、右の差額三、二七七、四一九円である。
(3) その他の経費 二八、一三七、三一四円
原告が前記土地の買収および売却に要したその他の経費は、甲第一ないし第二一号証および第二三号証(いずれも枝番は省略)記載の合計額二八、一三七、三一四円を超えることはない。
4. 以上のとおり、原告の係争年分の総所得金額は八三、二八二、九八八円であるから、その範囲内にとどまる本件更正処分は適法である。
三、被告の主張に対する原告の認否および反論
1. 収入金額について
被告の主張3(一)の事実は認める。
2. 必要経費について
被告主張の必要経費額は争う。必要経費についての原告の主張は次のとおりである。
(一) 土地買収代金 一六五、二〇一、〇〇〇円
原告が買収した土地は全部で七三、八六四坪であつて、これらはすべて東芝外三社に売却され、原告に留保されている棚おろし分はない。右土地買収代金は上毛補償料、天地返し費用も含んで合計一六五、二〇一、〇〇〇円であり、その内訳は、原告と大和とが昭和三五年一二月三日に共同事業の収支について清算した際、被買収者側の領収書を調査のうえ確認した土地買収代金一六三、八〇二、四〇〇円と原告がそれとは別途に買収した東京都南多摩郡七生村(現日野市)平山字一四号一六一四番の一、二宅地三三三坪の土地代金一、三九八、六〇〇円の合計額である。原告は、土地買収代金として少くとも坪当り平均二、二〇〇円を支出している。
(二) 地元利益分配金 八、六一一、六二五円
前記土地買収にあたり昭和三二年五月二日、原告、大和と被買収者らとの間において地元利益分配金として利益金の一割を支払う旨の合意が成立し、原告は被買収者側にその前渡金として合計一〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたが、実際の地元利益分配金は昭和三五年一二月三日前記清算の際八、六一一、六二五円と確定した。
(三) 農民税金引当金 三、五二三、七五八円
前記土地買収にあたり、原告、大和と被買収者らとの間において、被買収者らの売買による所得に対する課税分を買収者側で負担する旨の合意が成立していたので、昭和三五年一二月三日前記清算の際被買収者側から要求があり、右三者が協議のうえ、原告が名義を農民税引当金として三、五二三、七五八円支払う旨の合意が成立し、原告は昭和三二年二月一二日、同年一二月二七日および昭和三三年四月八日の三回にわたつて被買収者らの代替地買収のために被買収者らの代表者に貸付けた合計一六、五五〇、〇〇〇円のうちから清算することにして支払つた。
(四) 地元懸案処理引当金 三、五二三、七五八円
前記買収にかかる農地を被買収者らが東芝外三社に引渡すについて、工場用地としては平坦な一区画として引渡す必要があり、そのために土地登記簿の地積の合筆あるいは分筆をなしたが、その費用がかさんだとして、昭和三五年一二月三日前記清算の際被買収者側から土地買収代金の増額要求があり、原告、大和と被買収者らが協議のうえ、原告がその名目を地元懸案処理引当金として三、五二三、七五八円支払う旨の合意が成立し、原告はこれを前記農民税金引当金と同様の方法で支払つた。
(五) 建財名義料 五、〇〇〇、〇〇〇円
原告は前記買収および売却にあたり、建財株式会社常務取締役の名義を使用したので、その名義料として右会社に対して五、〇〇〇、〇〇〇円を支払つた。被告主張の立替金一、七二二、五八一円はすでにそれ以前に清算ずみである。仮に、いまだ清算ずみでないとすれば、右立替金(昭和三二年一二月から昭和三六年三月までの間の仮払金)は右会社の債権として残存しているから、原告が支払つた名義料が五、〇〇〇、〇〇〇円であることには何ら影響を及ぼさない。
(六) 印鑑料 一、〇七二、二五七円
右金額は前記土地の買収後、被買収者らから農地転用許可申請書や所有権移転登記の申請書の押印を得るための代償として支払われたものであるが、その実質は土地買収代金の増額分にあたるものである。
(七) その他の経費 四一、七八三、五三九円
原告が前記土地の買収および売却に要したその他の経費として、被告の認める甲第一ないし第二一号証および第二三号証(いずれも領収書類)記載の金額の合計額二八、一三七、三一四円のほかに左記のように甲第二四ないし第二八号証(いずれも枝番は省略)記載の金額の合計額一三、六四六、三二五円(ただし、甲第二七号証の一ないし三については、その合計額一六、五五〇、〇〇〇円のうち九、五〇二、四八四円の限度で、甲第二八号証の一、二については、その合計額一〇、〇〇〇、〇〇〇円のうち一、三八八、三七五円の限度でそれぞれ主張する。)がある。
(1) 甲第二四号証の一ないし一一〇(ただし、一〇七、一〇九を除く。)四七七、〇五一円
右金額は、原告と大和とが昭和三五年一二月三日前記清算をした後に生じた前記土地買収の残務整理費用である。
(2) 甲第二五号証の一ないし一五 五五七、二一五円
右金額は、原告が前記土地買収後税理士枝川巳義に原告の所得税の申告およびそのための帳簿書類の整理を依頼したので、その給料、賞与およびその他の費用として支払われたものである。
(3) 甲第二六号証の一、二 一、七二一、一〇〇円
右金額は、原告が被買収者側の代表者中村仲次郎に対し前記土地買収の経費として支払つたもの(甲第二六号証の一)および右土地買収がほぼ完了したころ被買収者らの代表者との連絡係等を務めた者約三六名、建財株式会社の担当従業員浅野秋夫外一〇名および右土地買収のために利用した旅館の従業員らに対して慰労金として支払つたもの(甲第二六号証の二)の合計金額である。
(4) 甲第二七号証の一ないし三 九、五〇二、四八四円
原告は、前記のとおり、昭和三二年二月一二日、同年一二月二七日および昭和三三年四月八日の三回にわたつて被買収者らが代替地を買収するために被買収者らの代表者中村仲次郎および中村庫之助に対し合計一六、五五〇、〇〇〇円を貸付け、そのうちの七、〇四七、五一六円については原告が支払うべき農民税金引当金、地元懸案処理引当金各三、五二三、七五八円と相殺して清算したが、残額九、五〇二、四八四円については右被告買収者らの代表者両名が相次いで急死したため回収不能となつたから、右金額は貸倒金として必要経費に算入されるべきである。
(5) 甲第二八号証の一、二 一、三八八、三七五円
原告は、前記のとおり、被買収者らの前記代表者両名に地元利益分配金の前渡金として合計一〇、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたが、地元利益分配金の確定額は八、六一一、六二五円であるから、その差額一、三八八、三七五円については右代表者両名にその返還を求めうるところ、前記のように右代表者両名は相次いで急死したため回収不能となつたから、右金額は貸倒金として必要経費に算入されるべきである。
四、原告の反論に対する被告の認否および再反論
1. 土地買収代金について
原告は、本件土地買収代金は一六三、八〇二、四〇〇円と一、三九八、六〇〇円の合計額一六五、二〇一、〇〇〇円である旨主張するが、右一、三九八、六〇〇円が土地買収代金に加算されるべき旨の右主張は、本件訴訟における準備手続において原告が何ら主張することなく、右手続終結後の口頭弁論においてなされた新たな主張であり、準備手続調書またはこれに代るべき準備書面に記載のない事項であるうえ、訴訟終結に近い段階における時機に後れた主張であるから、民事訴訟法二五五条一項、一三九条により許されないというべきである。
2. 地元利益分配金、農民税金引当金、地元懸案処理引当金について
原告の主張はいずれも争う。原告が右各金員をその主張にかかる前渡金、貸付金から被買収者らに清算のうえ支払いをした事実を証する証拠はないから、それらの必要経費への算入は認められない。
3. 建財名義料について
原告は、仮に建財株式会社の立替金がいまだ清算ずみでないとすれば、右立替金は右会社の債権として残存しているから、原告が支払つた名義料が五、〇〇〇、〇〇〇円であることには何ら影響を及ぼさない旨主張するが、右主張も前記1「土地買収代金について」で述べたのと同様の理由により民事訴訟法二五五条一項、一三九条により許されないというべきである。仮に、右主張が許されるとしても、次の理由により右主張は失当である。すなわち、約定に基づく名義料五、〇〇〇、〇〇〇円および立替金一、七二二、五八一円合計六、七二二、五八一円の前記会社の債権は、右名義料が単に右会社の名義を原告が使用することを認めたことによる対価に過ぎない関係もあつて、原告から合計五、〇〇〇、〇〇〇円の支払いを受けたことにより決着がつけられ、以後、残額について右会社は原告に何ら請求をしておらず、原告もまた弁済しようとはしていないから、右会社には原告に対する債権は残つておらず、原告の債務はすでに消滅しているというべきである。
4. 印鑑料について
原告の主張は争う。原告が右金員を経費として支出したことを証する証拠はないから、その必要経費への算入は認められない。
5. その他の経費について
(一) 原告主張のその他の経費のうち、甲第二四、第二五号証記載分については、右各金員の支払者たる領収書類等のあて先が区々で、かつ、不明瞭である等の点からみて、前記土地の買収経費との関連性に乏しく、それらの必要経費への算入は認められない。ことに、細川興産株式会社をあて先とする領収書類については、右会社は原告の経営する会社で、原告と同一業種たる不動産業を営むものであるから、それらは右会社の経費というべきものであり、また、甲第二五号証記載分の経費についても、枝川税理士は右会社の顧問税理士であるとともに、右会社の監査役でもあつたのであるから、右経費は、右会社の経費というべきである。
(二) 甲第二六号証記載分については、そのうちの同号証の一記載の分は前記土地買収代金と重複する。また、同号証の二記載の分は右書証の信憑性がないから、必要経費への算入は認められない。
(三) 甲第二七、第二八号証記載分について、原告は、右各金員はこれを支払つた被買収者らの代表者が死亡したために回収不能となつた旨主張するが、甲第二七号証の一ないし三および同第二八号証の一、二のような「借用証」という確固たる証拠があるならば、当然被買収者らの後任の代表者に対してその返済を求めうる筋合であるから、客観的に貸倒れになつたものとは認められない。仮に、いまだ返済がなされていないとしても、それは原告が右各金員の回収を放棄したからにほかならず、したがつて、必要経費となるものではない。
(四) 原告主張の甲第二四ないし第二八号証記載分の各経費(ただし、甲第二六号証の一記載の分を除く。)が、仮に、原告の経費に該当するとしても、それらはいずれも本件課税年度の末日(昭和三五年一二月三一日)以後に支出され、あるいは貸倒れとなつたものであり、右末日以後に支出されたものについては右末日において具体的に支出すべき債務として確定していたものとは認め難いから、結局右各経費は係争年分の原告の事業所得の算出上は必要経費に算入されず、その支出した日あるいは貸倒れの生じた日の属する年分の原告の事業所得の算出上控除すべき必要経費とすべきものである。
第三、証拠
一、原告
1. 甲第一号証の一ないし一二、第二号証の一ないし一一および一三、第三号証の一ないし一五一、第四号証の一ないし八八、第五号証の一ないし八七、第六号証の三、五、六、九ないし一二、一五ないし二七、二九ないし三六、三九ないし四一、四四ないし五四、五六ないし六二、六四ないし九三、九六ないし一〇一および一〇三ないし一三〇、第七号証の一ないし三五および三七ないし四四、第八号証の一ないし四、第九号証の一ないし七七、第一〇号証の一ないし四九、第一一号証の一ないし三二、第一二号証の一ないし八七、八九ないし一〇九および一一一ないし一六〇、第一三号証の一ないし二〇、第一四号証の一ないし二六、二八ないし三三および三五ないし四七、第一五号証の一ないし五および七ないし一四、第一六号証の一ないし一三、第一七号証の一ないし八、一〇ないし三〇、三二、三四ないし四一、四三ないし五〇および五二ないし五四、第一八号証の一ないし六、第一九号証の一ないし二一、二三ないし二七、二九ないし三二および三四ないし七〇、第二〇号証の一ないし二五、第二一号証の一ないし一七、第二三号証の一ないし一二、第二四号証の一ないし一〇六、一〇八および一一〇、第二五号証の一ないし一五、第二六号証の一、二、第二七号証の一ないし三、第二八、第二九号証の各一、二、第三〇ないし第四五号証、第四六号証の一、二、第四七ないし第四九号証、第五〇ないし第五二号号証の各一、二、第五三号証を提出。
2. 証人浅野秋夫の証言、原告本人尋問の結果(第一、二回)および鑑定人長野勝弘の鑑定の結果を援用。
3. 乙第一、第二号証、第三号証の一ないし一九、第四号証の一ないし三、同号証の四、五の各一、二、同号証の六の一ないし三、同号証の七ないし九、同号証の一〇の一、二同号証の一一、同号証の一二の一、二、同号証の一三、一四、
同号証の一五の一、二、同号証の一六ないし一八については原本の存在ならびに成立を、乙第六号証、第八号証、第九号証の一、第一〇ないし第一六号証の各一、二、第一七、第一八号証の各一、第一九ないし第二四号証の各一、二、第二六号証、第二七、第二八号証の各一、二、第二九号証、第三二号証、第三三号証の一、二、第三四、第三五号証についてはその成立をそれぞれ認めるが、その余の乙号各証の成立は不知。
二、被告
1. 乙第一、第二号証、第三号証の一ないし一九、第四号証の一ないし三、同号証の四、五の各一、二、同号証の六の一ないし三、同号証の七ないし九、同号証の一〇の一、二同号証の一一、同号証の一二の一、二、同号証の一三、一四、同号証の一五の一、二、同号証の一六ないし一八、第五号証の一ないし三、第六号証、第七号証の一、二、第八号証、第九ないし第二四号証の各一、二、第二五、第二六号証、第二七、第二八号証の各一、二、第二九ないし第三二号証、第三三号証の一、二、第三四、第三五号証を提出。
2. 証人町田昭一郎、同青木博孝の各証言および原告本人尋問の結果(第一回)を援用。
3. 甲第四六号証の二のうちの郵便官署作成部分、第四七、第四八号証、第五〇ないし第五二号証の各一、二、第五三号証の成立はいずれも認めるが、第四六号証の二のうちの郵便官署作成部分を除くその余の部分も含めてその余の甲号各証の成立は不知。
理由
一、請求原因1の事実は当事者間に争いがない。そこで、本件更正処分が違法かどうかについて判断する。
1. 原告が不動産取引の仲介業を営むものであることおよび被告主張の原告の係争年分の所得が事業所得に該当するものであることは、原告において明らかに争わないから、これを自白したものとみなす。
2. 次に、被告主張の原告の係争年分の事業所得の算出根拠について検討する。
(一) 収入金額
被告の主張3(一)の事実は当事者間に争いがない。そうすると、原告の収入金額は二二五、四九三、七二一円となる。
(二) 必要経費
(1) 土地買収代金
原告が前記買収にかかる日野市内の農地等七三、八六四坪を東芝外三社に売却し、前認定の収入を得たことは当事者間に争いがない。ところで、原告が買収した土地が全部で七六、八八四坪かそれとも七三、八六四坪かについては当事者間に争いがあるが、必要経費に算入されるべき土地買収代金は右売却にかかる七三、八六四坪の土地の買収代金であるというべきであるから、右買収代金額について検討する。
原告は、右売却にかかる七三、八六四坪の土地の買収代金(上毛補償料、天地返し費用を含む。)は原告と大和とが昭和三五年一二月三日に前記共同事業の収支を清算した際の確認額一六三、八〇二、四〇〇円と東京都南多摩郡七生村平山字一四号一六一四番の一、二宅地三三三坪の土地買収代金一、三九八、六〇〇円の合計額一六五、二〇一、〇〇〇円である旨主張し(なお、被告は、右平山の土地三三三坪の買収代金一、三九八、六〇〇円が土地買収代金についての原告の従前の主張額一六三、八〇二、四〇〇円に加算されるべき旨の原告の主張は民事訴訟法二五五条一項、一三九条により許されない旨主張するか、本件訴訟の経緯に鑑みると、原告が右主張をしたためにことさら訴訟が遅滞するものとは認められないから、原告の右主張は採用できない。)、原本の存在ならびに成立に争いのない乙第一号証には原告主張の原告、大和間の清算の際の確認買収代金額一六三、八〇二、四〇〇円に符合する金額が「大和元金」として記載されているが、右乙号証の全体の記載内容および証人浅野秋夫、同青木博孝の各証言ならびに弁論の全趣旨を総合すると、右乙号証記載の「大和元金」一六三、八〇二、四〇〇円は、原本と大和とが昭和三五年一二月三日に前記土地買収に関する共同事業の収支を清算し、右事業による利益の分配額を算出してその覚書(乙第一号証)を作成した際、大和側の関係帳簿に基づいて大和がそれまでの間に原告に提供した事業資金の総額として計上されたものに過ぎないことが認められ、原告本人尋問の結果(第一回)のうち右認定に反する部分は前掲各証拠と対比してにわかに措信し難く、他に右認定を妨げるに足りる証拠はない。してみれば、右「大和元金」は、原告が前記土地買収に関する共同事業遂行のために支出した金額を直ちに意味するものではなく、また仮に、それがそのまま原告によつて右事業のために支出されたとしても、その使途は前記土地の買収から売却までに要した一切の経費の支弁に充てられた可能性が多分にあるから、他に右「大和元金」がそのまま全額原告から被買収者らに土地買収代金として支払われたことを認めるに足りる証拠のない本件においては、前掲乙第一号証をもつてしても前記七三、八六四坪の土地買収代金が前記平山の土地三三三坪の土地買収代金を除いて一六三、八〇二、四〇〇円であると認めることは困難であり(なお付言するに、仮に、原告主張のように乙第一号証の記載内容について信憑性があるとするならば、原告の前記共同事業による分配利益金額(事業所得金額)は少くとも同号証記載の分配利益金二八、七二八、三八二円となって、本件更正処分における認定総所得金額を上回ることになり、原告の主張は主張自体矛盾することになる。)、他にこれを認めるに足りる証拠はない。そうすると、仮に、原告主張のとおり前記平山の土地三三三坪の土地買収代金が一、三九八、六〇〇円であるとしても、前記七三、八六四坪の土地買収代金の合計額が一六五、二〇一、〇〇〇円であるとの原告の主張は採用できないといわざるをえない。
一方、被告は、前記七三、八六四坪の土地の買収代金は、上毛補償料、天地返し費用も含めて坪当り一、五〇〇円(合計一一〇、七九六、〇〇〇円)である旨主張し、成立に争いのない乙第六号証および弁論の全趣旨により成立の認められる乙第七号証の一、二は右主張に符合しているもののようにもみえる。しかし、右乙号各証と原告本人尋問の結果(第一回)により成立の認められる甲第四三号証、同第四五号証、原本の存在ならびに成立に争いのない乙第四号証の四の二、同号証の七ないし九、同号証の一〇および一二の各一、二ならびに原告本人尋問の結果(第一回、ただし、前記および後記措信しない部分を除く。)を総合して判断すると、前記七三、八六四坪の土地の買収代金の坪当り平均単価は地代相当が一、五〇〇円(結局、乙第六号証および同第七号証の一、二は土地買収代金のうち地代相当分が坪当り一、五〇〇円であることを証するに止まると解される。)、上毛補償料、天地返し費用等の補償料が五〇〇円、合計二、〇〇〇円であると認定するのが相当であり、乙第四号証の一三には前記平山の土地三三三坪の坪当り買収単価が四、二〇〇円である旨の記載があるが、右は大和が原告に右土地の買収代金として提供した資金額を意味するに止まり、原告が右土地の所有者に支払つた買収代金額が坪当り四、二〇〇円であることまで直接証するものでないことがその文面上明らかであるから、右認定を妨げるものではなく、他に右認定を左右するに足りる証拠はない。右の認定の事実によれば、前記七三、八六四坪の土地買収の個々の具体的契約内容が証拠上全く不明な本件においては、右認定の坪当り平均土地買収単価二、〇〇〇円を七三、八六四坪に乗じて算出した金額一四七、七二八、〇〇〇円をもつて必要経費に算入されるべき土地買収代金額と認定するのが相当であり、他に右認定を左右しうるべき証拠はない。
(2) 地元利益分配金
原告は地元利益分配金として八、六一一、六二五円を被買収者らに対する前渡金一〇、〇〇〇、〇〇〇円と清算して支払つた旨主張するので検討するに、前掲乙第一号証、証人浅野秋夫の証言により成立の認められる甲第四二号証および証人浅野秋夫、同青木博孝の各証言によれば、原告と大和とはまず昭和三五年八月一六日に前記共同事業の収支を清算することにして右事業による利益の割合を原告と大和とが合わせて九割、地元が一割の割合で分配する旨の清算の覚書(甲第四二号証)を作成し、次いで、前認定にかかる同年一二月三日の最終的な清算の際、原告は大和から既に支払いを受けた事業資金の中から地元に対して地元利益分配金の名目をもつて八、六一一、六二五円を支払うこととして清算がなされたことが認められるが、原告主張のように原告、大和と被買収者らとの間において前記土地買収にあたり前記事業による利益金の一割を地元に支払うべき旨の合意がなされていたことおよび原告が現に地元利益分配金として八、六一一、六二五円を支出したことについては、原告、大和間の清算覚書に過ぎない前掲甲第四二号証、同乙第一号証からは、いまだこれを認めるに足りず、また、原告本人尋問の結果(第一回)のうち右主張に副う部分はなんら確たる証拠による裏付けがないからたやすく採用できない。もつとも甲第二八号証の一、二の中村仲次郎名下の印影が同人の印章によるものであることが鑑定の結果により認められるので全部真正に成立したものと推認すべき甲第二八号証の一、二によれば、原告は前記土地買収にあたり昭和三二年五月二日に二、〇〇〇、〇〇〇円、同年一〇月二七日に八、〇〇〇、〇〇〇円、合計一〇、〇〇〇、〇〇〇円を被買収者らの代表者中村仲次郎外一名に貸付けていることが認められるが、右甲号各証の文面からは原告主張のように地元利益分配金の前渡金として右金員が交付されたものか必すしも明瞭ではないから、右甲号各証によるも、原告の前記主張事実を認めることは困難であるといわざるをえない。その他、本件全証拠を検討するも、原告が地元利益分配金八、六一一、六二五円を支払つた事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本来、原告主張の右事実はその性質上原告において立証が容易であるにもかかわらず、その立証を避けない以上、地元利益分配金八、六一一、六二五円の支出は存しないものと推認せざるをえない。
(3) 農民税金引当金、地元懸案処理引当金
原告は農民税金引当金、地元懸案処理引当金各三、五二三、七五八円を被買収者らに対する貸付金一六、五五〇、〇〇〇円と清算して支払つた旨主張するので検討するに、前掲乙第一号証および証人浅野秋夫、同青木博孝の各証言によれば、前認定にかかる昭和三五年一二月三日の原告と大和との間における清算の際、原告は大和から既に支払いを受けた事業資金の中から被買収者らに対して農民税金引当金、地元懸案処理引当金の名目をもつて各三、五二三、七五八円を支払うこととして清算がなされたことが認められるが、原告主張のように右清算の際に原告、大和と被買収者らとの間において農民税金引当金、地元懸案処理引当金各三、五二三、七五八円を被買収者らに支払う旨の合意が成立したことおよび原告が現に右の各金員を支出したことについては、原告、大和間の清算覚書に過ぎない前掲乙第一号証からはいまだこれを認めるに足りず、また、原告本人尋問の結果(第一回)のうち右主張に副う部分は、右各金員を現実に支出したことについての供述内容が極めてあいまいであるうえ、なんら確たる証拠による裏付けもないからたやすく採用できない。もつとも、鑑定の結果により成立の認められる甲第二七号証の一、二および同号証の三の中村仲次郎名下の印影が同人の印章によるものであることが鑑定の結果により認められるので全部真正に成立したものと推認すべき同号証の三ならびに弁論の全趣旨によれば、原告は、原告主張のとおり昭和三二年一一月一二日、同年一二月二七日および昭和三三年四月八日の三回にわたつて被買収者らの代表者中村仲次郎外一名に対して被買収者らの代替地買収のために合計一六、五五〇、〇〇〇円貸付けていることが認められるが、右甲号各証の文面からは右貸付金は後日原告が被買収者らに支払うべき土地買収代金との清算(相殺)が予定されていたことが窺われ、右貸付金の存在から直ちに原告主張のように農民税金引当金と地元懸案処理引当金が右貸付金と清算(相殺)して支払われたことまで推認できないことはいうまでもない。その他、本件全証拠を検討するも原告が農民税金引当金、地元懸案処理引当金各三、五二三、七五八円を支払つた事実を認めるに足りる証拠はない。そうすると、本来、原告主張の右事実はその性質上原告において立証が容易であるにもかかわらず、その立証を遂げない以上、農民税金引当金、地元懸案処理引当金各三、五二三、七五八円の支出は存しないものと推認せざるをえない。
(4) 建財名義料
原告が前記土地の買取および売却にあたり建財株式会社常務取締役の名義を使用し、その名義料として右会社に対して五、〇〇〇、〇〇〇円を支払つたことは当事者間に争いがない。ところで、被告は、原告は右会社が原告のために支払つた立替金一、七二二、五八一円を清算していないから、原告が支払つた実質的名義料は右の差額三、二七七、四一九円である旨主張するので検討するに、右会社が被告主張のとおり原告のために一、七二二、五八一円を立替えて支払つたことは当事者間に争いがないが、いずれも証人町田昭一郎の証言によつて成立が認められる乙第五号証の一ないし三、同第三〇号証および証人町田昭一郎、同浅野秋夫の各証言によれば、右会社の立替金一、七二二、五八一円はすべて原告の前記土地買収事業のための経費の立替えとして支出されたものであることが認められるから、仮に原告が支払つた建財名義料五、〇〇〇、〇〇〇円のうちの一、七二二、五八一円が被告主張のとおり右会社に対する立替金債務の弁済にあてられたものとみるべきであるとしても、右の支出もまた前記土地買収事業による収入を得るための必要経費というべきである。そして、右会社が立替えて支出した右一、七二二、五八一円の経費が原告、被告各主張のその他の必要経費において重複計上されていることについてはこれを認めるに足りる証拠がない。そうだとすると、いずれにしても原告が支払つた建財名義料五、〇〇〇、〇〇〇円の必要経費への算入は否定し難いところであり、被告の前記主張は採用できない。
(5) 印鑑料
原告は被買収者らに対して印鑑料として一、〇七二、二五七円を支払つた旨主張するが、原告本人尋問の結果(第一回)のうち右主張に副う部分はその供述内容自体あいまいであるうえ、確たる証拠による裏付けもないからにわかに措信し難く、その他これを認めるに足りる証拠はない。そうすると、本来、原告主張の右事実は、その性質上原告において立証が容易であるにもかかわらず、その立証を遂げない以上、印鑑料一、〇七二、二五七円の支出は存しないものと推認せざるをえない。
3. ところで、原告、被告各主張の「その他の経費」の総額の判断をしばらくおき、以上認定したところをまとめると、原告の係争年分の収入金額は二二五、四九三、七二一円であり、必要経費(ただし、原告、被告各主張の「その他の経費」を除く。)は(1)土地買収代金一四七、七二八、〇〇〇円、(2)建財名義科五、〇〇〇、〇〇〇円となる。そうすると、仮に、原告、被告各主張の「その他の経費」が原告主張のとおり四一、七八三、五三九円であるとしても、必要経費の合計金額は一九四、五一一、五三九円となるに過ぎず、これを前認定の収入金額から差引くと、原告の係争年分の事業所得金額は三〇、九八二、一八二円となり、本件更正処分において認定された総所得金額一七、二三七、〇二九円を超えることが明らかである。してみれば、その余の争点について判断するまでもなく、本件更正処分における総所得金額の認定は正当であるというべきである。
二、以上によれば、本件更正処分は適法であり、これが違法であると主張する原告の本訴請求は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法八九条を適用のうえ、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官 高津環 裁判官 牧山市治 裁判官 横山匡輝)