東京地方裁判所 昭和39年(行ク)20号 決定 1964年7月13日
申立人 塩竈丸栄造船株式会社 外一名
相手方 建設大臣
主文
本件申立てを却下する。
申立費用は申立人らの負担とする。
理由
本件申立ての要旨は、相手方は昭和三九年六月九日起業者宮城県の申請により塩竈漁港修築工事のうち臨港鉄道敷設工事及びこれに伴う一級国道四五号線付替工事のため土地収用法二〇条に基づき事業の認定をなしたが、右事業認定は違法であつて取消しを免れないにもかかわらず、起業者宮城県は手続を続行し、申立人佐藤栄所有の土地を収用すべく宮城県収用委員会に裁決の申請をしており、もし同収用委員会が本訴の事業認定取消訴訟の確定をまたず裁決手続を進行するにおいては申立人らが同所で営む造船事業に回復すべからざる損害を与えることになるから、これを避けるため、右収用委員会の裁決手続の根幹をなす事業認定の効力の停止を求める緊急の必要があるというのである。
しかしながら、土地収用法に基づく事業の認定があつても、収用委員会における収用の裁決があるまでは、起業地内に存する土地ないし物件の所有者は土地の形質の変更を伴わない限度において自由にその土地ないし物件を使用することができるのであるから、本件においても、申立人らはその所有する土地及び造船施設を使用して従前どおり造船事業を継続することを妨げられるものではなく、また全疎明資料によるも本件事業認定によつて申立人らが造船事業を継続するについて回復困難な損害を受け、または受けるおそれがある特段の事情を認めることができず、しかも収用委員会の収用の裁決がなされたのちにおいても、申立人らはその裁決の効力を争つて出訴し、そこにおいて裁決の執行の停止を求めて造船事業の継続を確保する方途もあるのであるから、いまだ収用委員会の収用の裁決もなされていない現段階において申立人らに回復の困難な損害を避ける緊急の必要があるとは認められない。
よつて、その余の点に判断を加えるまでもなく本件申立てはその必要性がないものとして却下することとし、申立費用については民事訴訟法第八九条第九五条を適用して全部申立人らの負担とし、主文のとおり決定する。
(裁判官 位野木益雄 高林克己 石井健吾)