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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)10820号 判決 1967年1月25日

原告 高山栄三

<ほか二名>

原告三名訴訟代理人弁護士 大野米八

同 野口敬二郎

被告 東京泰昌産業株式会社

右代表者代表取締役 白田憲

右訴訟代理人弁護士 稲沢宏一

主文

被告は、原告千基奉に対し、金五〇〇、〇〇〇円とこれに対する昭和四〇年四月三〇日から支払済みにいたるまで年六分の割合による金員を支払え。原告高山栄三、同中原房子の請求をいずれも棄却する。

訴訟費用は、原告千基奉と被告間においては全部被告の負担とし、原告高山栄三、同中原房子と被告間においては被告に生じた訴訟費用の三分の二を原告両名の負担とし、その余は各自の負担とする。

この判決は、原告千基奉の勝訴部分に限り仮に執行することができる。

事実

≪省略≫

理由

一、まず、原告芦田弘こと千基奉に対する本案前の抗弁について検討するに本件訴状および訴状添付の甲第二号証の一、二によれば、原告は右甲第二号証の一、二の約束手形の受取人として、右約束手形の振出人である被告に対して振出人の責任を問うべく本件給付の訴を提起したものであるところ、右訴状および甲第二号証の一の記載によればその氏名は「芦田弘」なることに確定され得るのであるが、同原告は、右氏名が同原告の銀行取引上の通称であり、固有の氏名は「千基奉」であるとして第九回口頭弁論期日において当該表示を「芦田弘こと千基奉」と訂正を申立てたことが記録上明らかである。ところで、原告千基奉本人尋問の結果によると、同原告は、外国人登録証に表示される日本名の通称を「森田秀雄」と称するもので、「芦田弘」なる名称は銀行口座を設ける際に使用した仮名であることを認め得るのである。してみると、前掲当事者の表示の訂正は、原告において仮名を使用することから実名を使用せんとする目的に出るものであって、仮名、実名とも「千基奉」なる実在人の表示であることについては共通であるから、右当事者の表示訂正を通じて原告の人格の同一性は維持されており人格の変更を来さないものと解するのが相当である。もっとも訴訟上の当事者は、裁判所に対して裁判権の行使を求める者およびその相手方であり、当事者が何人であるかは、判決の名宛人のみならず裁判籍、訴訟事件の同一性、既判力の範囲等訴訟手続の基礎を決定する重要な事項であるから、当事者は原則として実名もしくは社会生活上周知された通称によって訴訟行為をなすべく、仮名による訴は、当事者の確定を妨げるものとして不適法であるといわなければならないけれどもなお右の仮名が口頭弁論終結時にいたるまで実名による表示に訂正されるならば、当初の瑕疵は治癒され得るものと解するのが訴訟経済上妥当な措置というべきである。

してみると原告芦田弘こと千基奉については前掲の当事者の表示訂正の申立がなされたことにより、その訴は適法に帰したものというべく、なお不適法として却下を求める被告の主張は採用し難い。

二、そこで本案について判断する。

≪中略≫

以上を要するに被告の原告高山栄三、同中原房子に対する抗弁は理由があり、原告千基奉に対する抗弁は理由がないから、原告千基奉の請求は正当として認容するが原告高山栄三、同中原房子の請求は失当として棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条、同第九三条、仮執行の宣言について同法第一九六条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判官 守屋克彦)

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