大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和40年(ワ)2845号 判決

以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。

〔判決理由〕一被告が甲、乙実用新案権を有し、その登録請求の範囲の記載がいずれも原告主張のとおりであること、原告が別紙目録記載のNCR八〇号型レジスターを製造し、譲渡し、貸し渡し、譲渡または貸渡のため展示していることは、当事者間に争いがない。

二ところで、甲実用新案権の技術的範囲につき、被告は、

(イ) 支軸を中心として回動する弧状の表示杆の裏側に係止杆を設け、この係止杆に多数の凹部を列設したこと、

(ロ) この凹部にはレバーの一端に突設した突子を係入させ、レバーは適当に枢支されてその他片は作動枠杆上に係止させてばねを張設したこと、

(ハ) 作動枠杆は外部に設けた把子または操作用の把杆のいずれかで傾動するようにしてあること、(すなわち作動枠杆を傾動させるのは把子だけか把杆だけで足り、両者により傾動し得る必要はない。)

を要件として構成される金銭登録機の構造である旨主張し、(イ)(ロ)については当事者間に争いがないが、原告(ハ)はの要件につき「把子および操作用の把杆の両者を備え、作動枠杆は外部に設けたこの把子および把杆のいずれでも傾動されるようにしてあること」である旨主張する。

(ハ)の要件につき本件登録請求の範囲には「枠杆14は外部に設けた把子16または操作用の把杆36で傾動されるようにした」と記載されていることは、当事者間に争いがないところ、<証拠>および鑑定人Fの鑑定の結果によれば、金銭登録機において係止杆の凹部にレバーの突子を係入させ所要位置で係合できるようにし、把子の作用をもつて枠杆を傾動させ、これに係合しているレバーの係合を離して表示杆を復動させる構造が特許庁資料館昭和二六年八月一三日受入の米国特許第二、五四五、五五〇号特許明細書によつて公知であることが認められる。そして、<証拠>によれば、本実用新案の説明欄には本考案の構成として「この把杆36の傾動で、作動片37は打鈴を行いかつ前記作動枠杆14を作動させるように連結杆42で連結されている。従つて作動枠杆14は把子16でも把杆36の作動でも動作されるようになつている。」旨記載され、更に「表示杆4の操作を誤つたことを発見した場合は、把子16を回動して、作動枠杆14を右回転方向に回動すると、レバー12の他片12'が上動され、突子13を凹部7から外し、係止を解くので、下動された各表示杆4は、ばね18によつて復元するから、再び、表示杆4を作動して正規のものを表出させる、表出が終ると把杆36を往復作動し記録紙にその表示を印字すると共に作動枠杆14を動作して下動されている各表示杆4を復元させるのである。」旨記載され、その作用効果として「この実用新案は、軸2を中心として弧状の表示杆とこれを任意の位置に停止させて所要の表示をその位置に並列させるようにし、その係止は、把杆の作動又は把子の作動で一角に(一斉にの誤植と認められる。)外れ表示杆を復動できるようにしたので、復元が一角に(一斉にの誤植と認められる。)行われて能率的であり、また誤操作の場合のやりなおしが簡単にでき、しかもその構成を簡易にした効果がある。」旨記載されていることが認められる。以上の点からみると、本実用新案における金銭登録機は、把子および操作用把々の両者を備えそのいずれによつても作動枠々を傾動し得るようにしたことを一つの特徴とし、操作用把杆の動作は、作動枠杆の傾動のほか、印字、打鈴、抽出の突出に関連するのに対して、把子の動作は単に誤操作の場合における作動枠杆の傾動に関連するのに過ぎないことが認められる。

してみれば、本件考案の(ハ)の要件は原告の主張するとおり「把子及び操作用の把杆の両者を備え、作動枠杆は外部に設けたこの把子及び把杆のいずれによつても傾動されるようにしてあること。」と解するのが相当である。この認定に反する乙第二号証の見解は採用し難い。

三つぎに乙実用新案権の技術的範囲につき、被告は

(イ) 支軸に枠杆の下部を遊嵌し、枠杆の上辺は支軸を中心とする弧状に形成し、その一側には同率の弧状に形成した係上杆を取付けて内端面には多数の凹孔を列設し、上面には表示杆を取付け、この表示杆の表面には鋸歯状にした指掛部を所要数列設して表面に数字、記号等の表示を施したこと。

(ロ) 係止杆の凹孔にはレバーの突子を係合させて所要位置で係止できるようにしたこと。

(ハ) かつ、枠杆の下部には連杆を介して活字板を連結し、これらを所要数列設させたこと。

(ニ) レバーを把子のいずれかで係合を離すようにしたこと。(すなわち、把杆または把子のうち一つのみで係合を離すことを必須の要件とし、常に両者によることは要件ではない。)

(ホ) 所要の数字及び記号を当杆上で停止し並列するようにしたこと

を要件として構成される金銭登録機の構造である旨主張し、(イ)(ロ)(ハ)(ホ)については当事者間に争いがないが、原告は(ニ)の要件につき「把杆および把子の両者を備え、レバーをこの把杆でもまた把子でも係合を離すようにしたこと。」である旨主張する。

本実用新案の登録請求の範囲の記載によると、本考案は表示杆の下面にある係止杆の凹孔にレバーの突子を係合させて表示杆を所要位置に係止できるようにし、この係合を把杆または把子によつて離すようにした点を一つの要件とすることが明らかである。ところで<証拠>によると、本実用新案の説明欄には「作動枠杆16は凵状に両端が屈曲されその端部が軸に固着され、その軸18の外端に把子19が取付けられ、把子19の作動で、作動枠杆16が傾動されると、レバー13の係止片が上動され突子14を回動されて係止杆5の凹孔7から外れ、表示板6およびこれらに連らなる活字板10を解放する。」および「作動把杆21の軸22には打鈴装置および活字板10に記録紙を当てる装置およびそれを送る装置等が設けられると共に、軸18に連動杆23で連結し、この作動把杆21の作動に関連して、表示杆6が解放されるようになつている。」旨記載され、更に「把杆21を往復動させると、往動で、印字打鈴および抽出しの抽出が行われ、復動で、記録紙の送りと作動枠杆16が傾動されて、レバー13を作動し、突子13(突子14の誤植と認められる。)を凹孔7から外し、表示杆6および活字板10を0位置に復動させる、この作動が反復されて計入、記録が行われるのである。」旨記載されていることが認められる。そして、前記鑑定の結果によれば、把子では主として誤動作時の復元を、把杆では他の操作とともに復元操作ができる効果をもつものであると考えられる。以上の諸点を考えあわせれば、本件登録請求の範囲として「把杆21または把子19で係合を離すようにし」という記載は、把杆と把子との機能上の選択性を表現したものであり、本考案の(ニ)の要件は原告の主張するとおり、「把杆および把子の両者を備え、係止杆とレバーとの係合を把杆および把子のいずれによつても離すことができるようにしたこと」と解するのが相当である。この鑑定に反する乙第二号証の見解は採用することができない。

四ところで、別紙目録記載のNCR八〇号レジスター(原告製品)のうち甲実用新案の操作用の把杆、乙実用新案の把杆に対応するものは操作ハンドルhであり、甲実用新案の把子、乙実用新案の把子に対応するものは把子Hであることが明らかである。そして、原告製品の把子Hは、これを押すことによつて甲実用新案の作動枠杆に相当するヨークNを傾動させること、これによつて乙実用新案の係止杆の凹孔に相当する弧状のラックZの歯から乙実用新案のレバーに相当する錠止片Kが外され、両者の係合が離脱する構造となつている点において甲実用新案の把子、乙実用新案の把子に相当するものということができる。しかしながら、原告製品の操作ハンドルhは、これを往復操作することによつて印字、打鈴、抽出突出等の動作を行わせるだけで、甲乙両実用新案の表示杆に相当するキーセグメントは零位置に戻らず、キーセグメントを零位置に戻すためにはさらに把子Hを押さなければならない構造となつている点において、原告製品の操作ハンドルhは、甲実用新案の操作用の把杆、乙実用新案の把杆とその構造を異にし、それより生ずる作用効果も異なることは明らかなので、これらに該当しないものといわなければならない。

してみれば、原告製品はこの点において甲乙両実用新案の要件を具備せず、したがつて、その技術的範囲に属さないことになる。

五よつて、原告の本訴請求は正当であるから認容……する。(古関敏正 吉井参也 宇井正一)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!