東京地方裁判所 昭和40年(ワ)293号 判決
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【判決理由】一、被告は、昭和三九年一〇月二四日進興木材株式会社(以下進興という)に対し本件木材を代金二、三八五、六七七円で売却し、平田組に宛て、本件木材を進興に引渡されたき旨の記載のある荷渡指図書を発行して進興に交付したことは当事者間に争いがない。
二、……によれば、原告は、昭和三九年一〇月二七日、本件木材を進興から代金二、四七四、〇三五円で買受け、直ちに原告振出の約束手形を右代金支払のため進興に交付し、進興は、平田組に宛て、本件木材を原告に引渡されたき旨の記載のある荷渡指図書を発行して、これを前項記載の荷渡指図書と共に原告に交付した。そして同日、原告の担当社員である滝沢正興は本件木材の保管証明書を受ける目的で、右荷渡指図書二通を平田組事務所に持参して、これらを平田組社員に呈示したところ、右平田組社員は、本件木材はあるけれども責任者である平田真朗が偶々不在であるから翌二八日朝同事務所に来て貰いたいと言つたので、右滝沢は、右荷渡指図書二通を平田組事務所に預けたまま帰社したことを認めることができ、これに反する証拠はない。
三、以上の事実に基づいて、本件の主たる争点である本件木材の所有権者につき判断する。そのため、まず、原、被告、進興、平田組の各業務、本件木材の占有関係並びに第一項および第二項の荷渡指図書の性質等を考えて、結論を出そう。
(一) ……を総合すると、原、被告、進興は木材業者(材木屋)であつて、平田組は所謂「筏屋」と称され、東京港口、隅田川筋深川筋一帯において、主として木材の回送をその業務の本体とするもので、原、被告、進興等の木材業者は東京都所轄警察署の許可を得て、右川筋に占用堀(貯木場)を持つて、そこに繋留、保管する所有木材については自ら筏を組んだり、解いたり、回送したりすることなく、これら作業は、特定の「筏屋」をして行わせており、平田組は被告を得意先として被告の占用堀(東京都深川区千石町一丁目一一番地所在)において、被告の指揮を受けて、被告所有木材の管理回送に従事し、その仕事の多寡に応じて被告から手数料を得ていたものであり、本件木材は、被告が所有して以来右占用堀において被告が平田組を使用して占有していたものであり、本件木材につき、平田組は、少くも右占用堀に本件木材の存する間は被告の占有補助者であつて、独立の占有はなかつたことを認めることができる。ところで、甲第七号証の一ないし三、第八号証の一ないし三は、証人平田真朗の証言によれば右はいずれも右占用堀の写真であると認められ、同所には「株式会社平田組置場」なる標示がなされていることは右各写真によつて明白であるから、このことは、前記認定に反する観がある。しかしながら、……によると、前記川筋の材木屋の占用堀の貯木の管理を十分にするため、右川筋の「筏屋」を以て組織する東木筏業協同組合は、昭和三三年(当時の所轄警察は水上署)からの要望もあつて、実際に材木屋の占用堀の貯木の管理をする「筏屋」がその得意先の占用堀にその筏屋の標識を立ててその仕事の責任範囲(見廻り責任)を明らかにすることとし、次いで昭和三六年(当時の所轄警察は深川警察署)同様の意味で各筏屋の標識を新らしいものとし、右占用堀の「株式会社平田組置場」の標示も右の趣旨のもので、右占用堀が平田組のものであることおよびその貯木を平田組が占有していることをも意味していないと認められるから、甲第七、八号証の各一ないし三は前記認定の妨げとはならない。
(二) 当事者間に争いのない本理由第一項の事実およびすでに認定した同第二項の事実と証人滝沢正興の証言によると、原、被告および進興の如き材木屋の間には、木材の売買において当事者が木材の引渡および所有権の移転時期を明確にしようとする場合には、売主が買主に自己宛若しくは第三者(代理占有者)宛の荷渡指図書を交付する慣行があることを認めることができ、他に右認定に反する証拠はない。
(三) 以上の認定事実を総合すると、東京都における材木屋間の木材の売買において、買主の希望により売主が買主を受取人とする荷渡指図書を発行する場合において、当該木材が売主の占用堀に在るときは、その占有補助者である筏屋に宛てて、即ち自己宛の荷渡指図書を買主に交付し、買主が右木材を転売するときは右荷渡指図書を転買人に交付すると共に原売主宛(実際上はその占有補助者たる筏屋宛)の荷渡指図書を発行して新旧荷渡指図書二通を転買人に交付する慣行があり、右慣行は木材取引の簡易化と安全を図るため発生したものと考えられるから、売主が自己宛の買主を受取人とする荷渡指図書を買主に交付したときは、それによつて売買の目的物たる木材の引渡の効力が生じ、所有権はそのときに買主に移転するものであり、売主が第三者(代理占有者)宛の荷渡指図書を買主に交付したときは、買主において右第三者に右指図書を呈示して、第三者が目的木材が自己の占有下に存在することを確認したときに、右木材の引渡の効力と所有権移転の効力が発生するものと解せられる。
(四) 右の見解に従い、かつ以上の認定事実によれば、本理由第一項の荷渡指図書は被告が自己宛てに進興を受取人として昭和三九年一〇月二四日付売買に基いて、同日進興に交付したものであるから、これによつて進興は本件木材の引渡を受け、同時にその所有権を取得し、被告は爾後進興の代理占有者として、本件木材を占有するに至つたことは明らかである。同第二項の荷渡指図書は、進興が本件木材の代理占有者たる被告に宛てて原告を受取人として、昭和三九年一〇月二七日付売買に基いて、同日発行し、これを前記第一項の荷渡指図書と共に原告に交付し、原告は同日本件木材の占有補助者たる平田組に右二通の荷渡指図書を呈示して、本件木材が被告の前記占用堀にあることの確認を得たというべきである。もつとも、進興の発行した右荷渡指図書の実際の名宛人は平田組であるけれども、平田組が本件木材につき被告の占有補助者であること並びに名宛人を占有補助者とする慣行があることは前項の通りであるから、右荷渡指図書は被告宛と同視すべきものと考えるのが相当である。そうすると、原告は、右呈示と確認によつて本件木材の引渡を受け、それによつてその所有権を取得したものといわなければならない。(西山 要)