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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)3385号 判決 1968年4月10日

理由

一  原告らの請求原因事実中原告米本が更生会社から本件鉱業財団につき、根抵当権の設定をうけた日および原告会社が更生会社から本件不動産につき抵当権の設定をうけた日ならびに本件不動産の届出時評価額の点を除くその余の事実はいずれも当事者間に争いがなく、《証拠》を総合すると、原告米本が、更生会社から本件鉱業財団につき根抵当権の設定をうけたのは昭和三九年三月一三日と認められ、また、《証拠》を総合すると、原告会社が更生会社から本件不動産について抵当権の設定をうけたのは、同月一一日と認められる。他に右認定を覆すに足る証拠はない。なお原告米本は別紙目録(一)の手形債権の担保として更生会社から、約束手形二通手形金合計一、八九五、九二〇円の裏書譲渡をうけているが(この点は当事者間に争いがない。)、右手形の譲受が会社更生法一二三条一項所定の担保権に属するものとの主張立証はない。

二、そこで被告の抗弁について判断することにする。

(一)  更生会社が、戦後主として石炭採掘業を営んでいたことは当事者間に争いがなく、《証拠》を総合すると、更生会社は、対外的には業績は順調であるかのように公表していたが、実際は、昭和三八年九月頃から経営は悪化の一途をたどり、昭和三九年二月下旬頃には累積欠損は五〇〇、〇〇〇、〇〇〇円を超えるに至り、その頃から株価は一株七〇円前後に下落し、それ以後もひき続き株価は急激に下落し続け、同年三月一〇日頃には一株二〇円前後にまで暴落し、同月一三日に至り東京地方裁判所に対し、更生手続開始の申立をなすに至つたものであることが認められる。他に右認定を覆すに足る証拠はない。

(二)  原告米本に対する被告の抗弁三(二)(2)(イ)に対する判断

《証拠》によれば、原告米本は、昭和三八年九月頃更生会社に対し、三〇、〇〇〇、〇〇〇円を貸付け(この点は当事者間に争いがない。)、その担保として、当時の更生会社の代表取締役であつた白城定一から同人所有の更生会社の株式四〇〇、〇〇〇株につき質権の設定をうけていたが、同年一二月下旬頃内金五、〇〇〇、〇〇〇円の返済をうけ、その際残金二五、〇〇〇、〇〇〇円の支払のため更生会社から別紙目録(一)の約束手形の振出をうけたものであること、右株式以外に追加担保を差し入れることについては、原告米本と更生会社との間において右貸付の当初から明確な取極めはなく、そのうちに適当な担保があれば差し入れるといつた程度のものであつたこと、本件鉱業財団は右貸付がなされた頃には既に抵当権を設定しうる状態にあり、当事者間に抵当権設定の意思があれば、右貸付時あるいは右手形の振出時においてこれをなしえたにもかかわらずこれをなさず、右一認定のとおり更生会社の破綻寸前になしたものであること、更生会社が原告米本のために本件根抵当権を設定したのは、右約束手形の満期以前であること等の事実が認められ、右事実によれば、更生会社の原告米本に対する本件根抵当権設定行為は、義務なくしてなされた担保の供与であると認めるのが相当である。他に右認定を左右するに足る証拠はない。そして、本件根抵当権の設定行為は、前認定のとおり更生会社が更生手続開始の申立をなした日になされたものであるから、更生会社の右根抵当権設定行為は会社更生法七八条一項三号本文に該当するものと認められる。したがつて被告の右抗弁は理由がある。

(三)  原告会社に対する被告の抗弁三(三)(2)(イ)に対する判断

証人浅谷芳一および同河村福夫の各証言によれば、原告会社の所持する別紙目録(三)の約束手形の原因債権は、更生会社が昭和三九年二月下旬その株価の下落に対処するため、加藤晴吉の名義で原告会社に対し更生会社の株式の現物取引にもとづく買付を委託し、原告会社がこれに応じて買付けを行つた結果生じた株式の買付代金の立替金請求権を更生会社との合意のもとに貸付債権に改めたものであることが認められる。仲買人たる原告会社は、買付の委託をうける際に特約があれば格別、通常は、右株式買付代金の立替金請求権につき、更生会社に対し、買付株式以外の物件に対し担保の供与を求めうる権利はなく、また更生会社はその義務を負うものでなく、(本件において右特約があつた旨の主張立証はない。)当事者間で右立替金請求権を貸付債権に改め、更生会社が別紙目録(三)の約束手形を振出したとしても、更生会社が原告会社に対し担保供与の義務を負うものでない。したがつて、更生会社が原告会社のために、本件不動産に設定した本件抵当権の設定行為は義務なくして行われた担保供与行為であると認るのが相当である。右認定を左右するに足る証拠はない。そして、本件抵当権の設定行為は、前認定のとおり、更生会社が更生手続開始の申立をした前三〇日内になしたものであるから、更生会社の右抵当権設定行為は、会社更生法七八条一項三号本文に該当するものと認められる。したがつて被告の右抗弁は理由がある。

三、原告らの再抗弁に対する判断

(一)  原告米本の五(一)(1)の再抗弁に対する判断

前認定(一および二(一))のとおり、更生会社が原告米本に対し本件根抵当権を設定したのは、更生会社が更生手続開始の申立をした当日であり、当時は、更生会社の株価は暴落していたもので、これらの事実からすれば原告米本においても、更生会社が破綻に陥ることを十分予測しうる状況にあつたと認められ同原告において、更生会社が他の更生債権者等との平等を害することを知つて本件根抵当権設定行為をしたことを知らなかつたものは認められない。

原告米本卯吉本人尋問の結果中右認定に反する部分は措信し難く、他の本件全立証をもつてしても、原告米本の五(一)(1)の再抗弁を認めるに足りない。

(二)  原告会社の五(二)(1)の再抗弁に対する判断

前認定(一および二(一))のとおり、更生会社が原告会社に対し、本件不動産に対し本件抵当権を設定したのは、更生会社が更生手続開始の申立をした日の僅か二日前であり、当時は、既に更生会社の株価は暴落し続けていたものであつて、かかる事実からすれば、原告会社においても、更生会社が破綻に陥ることを十分予測しうる状況にあつたと認められ、同原告において、更生会社が他の更生債権者等との平等を害することを知つて本件抵当権の設定行為をしたことを知らなかつたものとは認められない。証人河村福夫、同白城定一および浅谷芳一の各証言ならびに原告会社代表者米本卯吉本人尋問の結果中右認定に反する各部分は措信し難く、他の本件全立証をもつてしても原告会社の五(二)(1)の再抗弁を認めるに足りない。

四、以上のとおり、被告の各否認権行使の主張は理由があるから、原告らの本訴請求は結局理由がないことに帰するので、いずれもこれを棄却する。

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