東京地方裁判所 昭和40年(ワ)469号 判決
以下は、判例タイムズに掲載された記事をそのまま収録しています。オリジナルの判決文ではありません。
〔判決理由〕前説示のとおり、武川の過失によつてホリデイ所有の本件ヨットを毀損させた行為は、武川が被告住友の業務として右ヨットを荷揚するにあたり、ホリデイに加えた不法行為であると同時に、同被告をこの履行補助者として使用した運送人ベン・ラインの荷送人スノーデンに対する運送契約上の債務不履行にあたるものということができる。
ところで、被告住友は、(ⅰ)荷役上の過失を理由として損害賠償を求めるものは、まず運送人ベン・ラインに対して契約責任を追及すべきである、(ⅱ)かりにベン・ラインの履行補助者である被告住友に対して不法行為責任を追及することが可能だとしても、右責任はベン・ライン自体について不法行為責任が成立する範囲に限定されるべきところ、本件事故は運送品の取扱上通常予想される事態で、かつ契約本来の目的、範囲を著しく逸脱しない態様において生じたものであるから、ベン・ラインの契約責任のみが成立し、不法行為責任は成立しない。それゆえ、被告住友の不法行為責任も成立するに由ない旨主張する。
思うに、不法行為に基づく損害賠償請求権と債務不履行に基づく損害賠償請求権とは、元来法律要件を異にする別個の請求権であるから、運送品の滅失ないし毀損について、それが運送人の債務不履行であると同時に荷役業者の不法行為となる要件が完備しているときは、右運送人に対する債務不履行による損害賠償請求権と荷役業者に対する不法行為による損害賠償請求権とが競合して成立するものと解するのが相当である。それゆえ、運送人の運送契約上の債務不履行に基づく損害賠償責任が成立するからといつて、荷役業者の不法行為に基づく損害賠償責任の違反が封ぜられる理由はない。よつて前記(ⅰ)の主張は採用しない。
また、海上運送人の運送品等に関する契約責任が国際海上物品運送法第一四条、第二〇条第二項、商法第五七八条、第五八〇条等によつて限定されていること、履行補助者(荷役業者)の地位が海上運送人の従たる地位にあることを根拠に、履行補助者の不法行為責任につき前記(ⅱ)の主張のごとく解釈する先例もある。しかしながら、右のように海上運送人の契約責任が限定されていることは、運送人自身の不法行為責任をいわゆる請求権競合の理論の修正として限定する根拠とはなりえても、それが直ちに運送契約の当事者以外の第三者である履行補助者の不法行為責任を限定するものとは解されないし、また、運送品の取扱上通常予想される事態ではなく、かつ契約本来の目的範囲を著しく逸脱する場合にだけ不法行為責任の成立を限定する理由もない(最高判昭和四四年一〇月一七日判例時報五七五号七一頁参照)。よつて、前記の主張を採用し難い。
(伊東秀郎 小林啓二 篠原勝美)