東京地方裁判所 昭和40年(ワ)5638号 判決 1965年12月23日
原告 原かずゑ
右訴訟代理人弁護士 石橋護
被告 中島正之
主文
原告の請求は棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実
≪省略≫
理由
一、原告がその主張のように飲食店“クラブ88”を経営しているものであること、原告が昭和三七年九月一七日被告の紹介で貫一成を同店支配人として雇傭し、同三八年二月末日解雇したこと、同人が右雇傭期間中原告主張のような横領をしたことは当事者間に争いがない。
二、そこで、原告は、被告が貫一成の身元引受人となり、原告に対し貫一成の原告に対する一切の債務を連帯して負担することも約したと主張するので、判断するに、証人貫一成の証言および原告ならびに被告各本人尋問の結果によれば、被告は原告に対し、貫一成が間違いのない信用のできる人物であるから、自分の給料を減らしてもよいから、同人を採用して貰いたいといって、同人を原告に紹介したものであることが認められ、原告および被告各本人の供述によれば、その際被告は貫一成のことを保証するというような表現を使ったであろうと推認できるが、身元保証人となる場合は、身元保証書とか身元引受書などと題する独立の証書もしくは身元本人の差出す誓約書に連記連署した証書を雇主に差入れるのが通例であるのに、被告がそのような証書を原告に差入れていないことは前顕証拠により明らかであることからして、被告の使った前記表現は、ただ単に貫一成の人物を保証する。つまり、同人が信用のできる人物であることを確言するという趣旨でなされたものであり、同人が原告に損害をあたえた場合はその損害を賠償するということまで約する意思でなされたものではないと解されるので、被告が前記表現を使ったからといって、直ちに被告が原告に対し貫一成の行為により原告が蒙った損害を賠償することを約する旨の身元保証契約を締結したものと認めるわけにはいかない。原告本人の供述の中には被告が身元保証したと述べている部分もあるが、右供述は証人貫一成および被告本人の各供述に照らし措信しがたく、結局、本件口頭弁論に現われた全証拠によっても原告が主張するように被告が貫一成の原告に対する債務を連帯して負担することを約したと認めることはできない。
三、したがって、原告の本訴請求は理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担について民事訴訟法第八九条を適用し、主文のとおり判決する。
(裁判官 輪湖公寛)