東京地方裁判所 昭和40年(ワ)6028号 判決 1966年6月27日
原告 矢頭達也
右訴訟代理人弁護士 平本文雄
被告 垣田静
同 紺野保夫
右両名訴訟代理人弁護士 浅川秀三
主文
原告と被告ら間の当庁昭和四〇年(手ワ)第一、三〇五号約束手形金請求事件について当裁判所が昭和四〇年六月二九日言渡した手形訴訟の判決主文第一項を「被告らは原告に対し各自金九七万六、二九二円およびこれに対する昭和四〇年九月二九日以降完済に至るまで年六分の割合による金員の支払をせよ」との限度で認可し、その余の部分および第二項を取り消す。
右取り消した部分の原告の請求を棄却する。
訴訟費用はこれを三分し、その一を原告その余を被告らの負担とする
事実
原告訴訟代理人は、主文第一項掲記の手形訴訟の判決を認可するとの判決を求め、被告ら訴訟代理人は「主文第一項掲記の手形訴訟の判決を取り消す。原告の請求を棄却する」との判決を求めた。
原告訴訟代理人は請求原因として次のとおり述べた。
(一) 被告垣田静は被告紺野保夫に対し左記約束手形二通を振出した。
(1) 金額 金九九万五、三〇〇円
満期 昭和四〇年三月一〇日
支払地、振出地 東京都杉並区
支払場所 株式会社東海銀行西荻窪支店
振出日 昭和三九年一二月二三日
(2) 金額 金一〇〇万円
満期 昭和四〇年三月一五日
振出日 昭和三九年一二月二三日
その他の記載事項(1)の手形に同じ
(二) 原告は昭和三九年一二月三一日被告紺野から右各手形を拒絶証書作成義務を免除されて白地式で裏書譲渡を受けた。次で原告は右各手形を訴外都留信用組合大月支店に白地式で裏書譲渡し、同支店は訴外株式会社山梨中央銀行に取立を委任し、手形交換所を通じ満期に支払場所に呈示したところその支払を拒絶されたので、原告は後記のように前記組合から右各手形の返還を受けて、その所持人となった。<以下省略>。
理由
被告垣田が被告紺野に対し原告主張の約束手形二通を振出したことは各当事者間に争がなく成立に争のない甲第一、同第二号証の各一によれば、被告紺野が右手形を拒絶証書作成義務を免除して原告に裏書譲渡したことが認められる(但し右事実は原告と被告紺野との間では争がない)。
続いて、右都留信用組合大月支店が本件(1)、(2)の手形を各満期に支払場所に呈示したところ、その支払を拒絶されたので原告が同支店から返還を受けて現に右各手形を所持している事実はこれまた各当事者間に争がない。
よって、被告紺野の右手形の裏書は原因関係を欠くとの抗弁について判断する。<省略>から、本件手形の裏書には何ら対価関係がなく、裏書の原因を欠くとの被告紺野の抗弁は採用することができない。
次に被告らの相殺の抗弁並びにこれに対する原告の再抗弁について判断する。
訴外古田産業株式会社が原告に対し昭和四〇年九月二八日附内容証明郵便をもって同会社の原告に対する昭和三九年八月一二日附借用証書に基く金八六五万円の債権を被告紺野に譲渡した旨の通知をなし、右書面がその頃原告に到達した事実は当事者間に争がなく、証人井上治男の証言によれば右債権譲渡の事実が認められる。
原告が右訴外会社から昭和三九年六月一日から同年七月三一日までの間に七回に亘り計金三〇五万円を借受け、次で同年八月一二日約束手形一七通(金額合計五一五万円)を借り受けたがその内三通金額九〇万円だけが期日に支払われその他は全部不渡りとなったので、結局同会社に対し合計金三九五万円の債務を有したことは原告の自白する事実であり、成立に争のない乙第二号証(但し右欄外の記載部分を除く)および原告本人尋問の結果によれば、原告は右のほか同会社に対し前記借受金の利息として金三〇万円の債務を有した事実が認められる<省略>。<省略>そうだとすれば原告は訴外会社に対し上記認定の金四二五万の債務を有したに止まる。
しかるところ、<省略>を綜合すると、原告は右債務の弁済として訴外会社に対し昭和三九年九月一五日に金二〇八万九、一五四円、同年一〇月七日に金五七万八、七五四円、同年一〇月三一日に金八〇万八、七五六円以上合計金三四七万六、六六四円を支払っていることが認められる。<省略>。
以上の事実によれば、原告は訴外会社に対し金四二五万円の債務を有したところ内金三四七万六、六六四円は既に弁済しているのであるから訴外会社の有した残存債権は金七七万三、三三六円に過ぎず、従って同会社が前記認定の被告紺野に対してなした債権の譲渡は右七七万三、三三六円の限度においてのみ適法に効力を生じ、その余は無効であるといわなければならない。
被告紺野が昭和四〇年一一月一八日午後三時の本件口頭弁論期日において右譲受債権と本件手形金債務とをその対当額において相殺する旨の意思表示をなしたことは記録上明かである。
古田産業株式会社が原告に対し昭和四〇年九月二八日に債権譲渡の通知をなしたことは前記認定のとおりであり、当時既に右債権の弁済期が到来していたことは本件口頭弁論の全趣旨により明かであるから、被告紺野のなした相殺の意思表示は右債権譲渡の対抗要件を具備した同年九月二八日に遡ってその効力を生ずるものというべきである。そして受働債権の順序については特設の指定がないから満期の前後により上記相殺適状時における本件(1)の手形の利息、手形金、次で(2)の手形の利息、手形金の順によりその対当額で相殺されるものといわなければならない。
そうすると、被告紺野の原告に対する金七七万三、三三六円の債権と原告の同被告に対する本件(1)の手形金の残金六九万五、三〇〇円に対する昭和四〇年三月一〇日から同年九月二八日まで(一九二日間)年六分の割合による利息金二万一、九四五円(四捨五入)右手形残金六九万五、三〇〇円、同(2)の手形金一〇〇万円に対する同年三月一五日から同年九月二八日まで(一九七日間)年六分の割合による利息金三万二、三八三円および(2)の手形金のうち金二万三、七〇八円以上合計金七七万三、三三六円はその対当額で相殺となり右原告の被告紺野に対する債権は消滅したこととなる。
しかして、右手形の合同債務者の一人である被告紺野のなした相殺は弁済と同一視すべきものであるから、他の手形債務者である被告垣田も上記認定の限度において本件各手形金の債務を免れるものと解するを相当とする。
よって、被告の本訴請求は被告らに対し各自本件(2)の手形金の残金九七万六、二九二円およびこれに対する昭和四〇年九月二九日から完済まで手形法所定年六分の利息の支払を求める限度においてのみ正当として認容しその余は失当として棄却すべきものであるから<以下省略>