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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)6908号 判決 1968年12月27日

原告 大和信用組合

右訴訟代理人弁護士 萩原平

右訴訟復代理人弁護士 丸岡敏

同 破入信夫

被告 小島昭久

右訴訟代理人弁護士 小坂重吉

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

<全部省略>

理由

一、主位的請求について。

<証拠>を綜合すれば、原告はその主張のように訴外会社に対し金員の貸付をしたことが認められる。

ところで、原告の主張によると、被告の代理人または代行権者である柿添か原告との間にその主張のような連帯保証契約を締結したというのであるが、これを認めるに足る確証はなく、却って、<証拠>を綜合すると、柿添が、原告主張のような連帯保証を約した甲第二号証の保証書に債務者として「有限会社玉名工業代表取締役小島昭久」のゴム印を押し、これに並べて連帯保証人として個人の資格の被告の氏名を記入した上、右各被告の氏名の下に後記認定のような事情から被告より預っていた同人の実印を押捺して、これを原告に差入れたものであり、これは全く被告の不知の間に行われたものであって、被告は柿添に対し右のような連帯保証契約締結についての代理権ないし、代行権限というようなものを与えていなかったことが認められる。(なお被告が、後記認定のように、柿添に対し被告に代って訴外会社の代表取締役の職務を執行することを許していたとしてもそのことから直ちに被告がその個人としての法律行為につき柿添に対し代理権限または代行権限を与えていたものということはできない。)

次に、原告は「柿添がなした右の連帯保証契約締結につき被告は民法第一一〇条によりその責を免れない」と主張するけれども、<証拠>を綜合すると、柿添は、その父の経営する訴外日東工業株式会社に勤務していたが、父から独立して会社経営に乗り出すということで、昭和三六年六月頃訴外会社を設立したものであるところ、形式上、自らは平取締役となり、偶々同人の大学時代の友人であった被告に頼んで名目上の代表取締役になって貰ったこと、その際被告は柿添より会社設立の手続のため必要であるといわれて同人に実印を交付し、その儘これを同人に預けていたのであるが、右の実印交付に当り被告は特に柿添に対し「これを被告個人の用には絶対使用しない」よう念を押していたこと、被告は柿添に対し被告個人に法律効果の及ぶような行為につき被告を代理する権限を与えていなかったことが認められるから、原告の右表見代理の主張は既に失当である(最高裁判所昭和三四年七月二四日判決、民集一三巻八号一一七六頁参照)のみならず、<証拠>による、原告側では、柿添が、被告の実印を所持しており、また、被告の名前を呼ばれてこれに応じていたことから簡単に、柿添を被告本人であると信じ込み、それ以上何らの調査もしていなかったというのであって、この点で金融機関である原告としては軽卒の譏を免れず、過失があるものといわなければならないから、いずれにしても原告の表見代理の主張は採用し難い。

従って、被告に対し原告主張の連帯保証債務の履行を求める本件主位的請求は理由がない。

二、予備的請求について。

原告が訴外会社に対し原告主張のように金員の貸付をしたことは前記認定のとおりであり、訴外会社が、現在倒産しており、右借入金の返済能力がないことは証人柿添昭徳の証言その他弁論の全趣旨に徴し認めるに難くない。

次に、<証拠>を綜合すれば、前記のように被告は柿添の依頼により訴外会社の代表取締役に就任はしたが、それは全く名目だけのものであって、訴外会社の経営の実際は柿添がその一切を掌握し、その業務執行につき被告は全く関与せずまた、柿添より訴外会社の業務執行につき相談を受けることも全然なく(従って被告は訴外会社または柿添から何らかの報酬を受けるということもなかった)、被告は、原告からの本件各金員の借入についても勿論柿添から知らされず、全くこれを知らなかったことが認められる。

ところで、有限会社法第三〇条ノ三にいう「其ノ職務ヲ行フニ付悪意又ハ重大ナル過失アリタルトキ」の悪意または重大な過失は、取締役がその職務を怠ったことにより会社に損害を生ぜしめ、そのために会社債権者に損害を被らしめた場合(所謂間接損害の場合)にあっては会社に対する任務懈怠につき存すべきであるが、本件のように、取締役が、その任務を怠ったために会社に損害を被らしめたというのではなく、その職務を行うに当り第三者に直接損害を加えた場合(所謂直接損害の場合)には、第三者の損害発生につき存することを要するものと解すべきところ、前記認定の事実によれば、被告は訴外会社の名目上の代表取締役に就任し、全くその職務を執行しなかったというのであるから、或いは被告は訴外会社の代表取締役としての職務執行を怠っていたとの非難を免れないとしても、そのことから直ちに、被告において本件各金員貸借により第三者(原告)に損害を被らしめるに至ることを予見しまたは当然予見すべかりしものであったとはいえず、また、右の事実を認めるに足る証拠はないから、被告に前記の「悪意又ハ重大ナル過失」があったものとはいい難い。

従って、被告に対し有限会社法第三〇条ノ三の規定により損害賠償を求める本件予備的請求も失当といわなければならない。<以下省略>。

(裁判官 真船孝允)

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