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東京地方裁判所 昭和40年(ワ)9192号 判決 1966年10月11日

原告

住友不動産株式会社

右代表者

瀬山誠五郎

右訴訟代理人

松本重敏

小坂志磨夫

被告

住友地所株式会社

右代表者

清瀬恵一

右訴訟代理人

長尾仁司

主文

1  被告は、不動産売買、その仲介斡旋および土地造成分譲の営業について「住友地所株式会社」の商号を使用してはならない。

2  被告は、東京法務局新宿出張所受付被告株式会社登記のうち「住友地所株式会社」の商号の抹消登記手続をせよ。

3  被告は、別紙第一目録記載の(一)から(四)までの物件の「住友地所株式会社」の表示、(五)の物件の「住友地所KK」の表示および(一)の物件の「住友」の表示をそれぞれ抹消せよ。

4  被告は、原告に対し、金四〇九、四四〇円およびこれに対する昭和四〇年一〇月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。

5  原告のその余の請求を棄却する。

6  訴訟費用は、被告の負担とする。

7  この判決は、第一、三、四項に限り原告において金一〇万円の担保を供するときは仮りにこれを執行することができる。

事実

第一  申立

一  原告

主文第一、二、三項と同旨の判決および「被告は原告に対し金五四五、九二〇円およびこれに対する昭和四〇年一〇月二九日から支払ずみまで年五分の割合による金員の支払をせよ。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決ならびに第一、三項および損害賠償の請求につき仮執行の宣言を求める。

二  被告

「原告の請求を棄却する。訴訟費用は原告の負担とする。」との判決を求める。

第二  請求の原因

一、原告は、旧住友本社が戦後の財閥解体に際し解散することになったので、第二会社として昭和二四年一二月一日設立されたもので、旧住友本社の事業のうち不動産事業を承継し、ビルディングの賃貸、建築、工業用地宅地の造成埋立工事、等のほか高級アパートの建築管理分譲、不動産の分譲仲介斡旋等の業務を行っている。住友系事業会社は「住友グループを形成して事業活動を行っており、これに属する会社は、原告のほか住友銀行住友化学等三七社に達し、いずれもわが国における指導的役割を果している一流会社であるが、この中にあって原告は現在資本金八億〇一〇〇万円で不動産部門を代表する会社として当該事業分野において第一流の地位を占めるとともに、その商号は国内のみにとどまらず、あまねく海外にまで知られ、絶大な信用を博している。また「住友」の標章は、住友グループに属する各社の商標ないしサービスマークとして周知著名であって、原告についていえば、原告の営業のサービスマークとして広く認識されている。

二、被告は昭和三四年九月一〇日丸晴工業株式会社の商号で、本店を千葉県市川市鬼高町一、四七六番地におき、資本金一、〇〇〇万円で、合成樹脂製品の製造販売、鋼製家具事務機械の製造販売を目的として設立された会社である。ところが、昭和三九年一一月二日商号を現在の「住友地所株式会社」と変更するとともに、目的を不動産の売買、土地の造成および分譲、不動産売買の仲介等に変更し、同月二七日その旨の登記を経由し、ついで同月四日本店を東京都新宿区柏木一丁目一〇六番地に移転し、同年一二月二日その旨の登記を経由し、現商号の下に不動産事業を営んでいる。

三、そして被告は、昭和四〇年一〇月下旬頃埼玉県入間郡日高町所在の宅地分譲を行うに際して川越駅前や分譲地等において別紙第一目録記載のとおり、立看板、看板、テント、幟小旗に「住友地所株式会社」「住友地所KK「「住友駅前団地案内所」と記載して掲げた。

四、被告の商号「住友地所株式会社」と原告の商号「住友不動産株式会社」とは、いずれもその要部が「住友」の部分にあるので類似していることが明らかである。また「住友」の表示は原告がサービスマークとして、すなわちその営業であることを示す表示として用いている標章であって、被告もまたこれを標章として使用している。しかも、被告は宣伝ビラ等に「歴史と信用をモットーとする住友地所株式会社」「業界に躍進を続ける〃住友〃が久々に贈る住友中山団地」等と記載して、被告の営業をもってあたかも原告の営業であるかのようにことさらに宣伝している。したがって、被告は広く知られている原告の商号、標章と同一または類似の商号、標章を使用して原告の営業上の施設又は活動と混同を生じさせてており原告は営業上の利益を害されるおそれがある。

五、以上のとおり、原告は被告の前記行為が原告の営業の施設、活動との混同を生じさせているため有形無形の被害を被っているが、特につぎのような被告の行為によって、原告はその信用を毀損され、損害を被った。

被告は、かねて誇大な宣伝広告により宅地用地の取引の勧誘を行っていたが、とりわけ昭和四〇年五月七日から同月一一日までの間に都内一四区に約四七万枚に上る新聞折込広告を配布し、「住友中山団地」と称する宅地分譲の宣伝を行った。ところが、その宣伝行為が著しく事実と相違していたので、同年七月一六日公正取引委員会より不当景品類及び不当表示防止法第四条第一号及び第二号に該当するものとして不当行為の排除命令を受けた。この排除命令は、同委員会告示第二二号として同日付官報に掲載されたほか、同日付の朝日新聞、日本経済新聞、読売新聞、サンケイ新聞の各紙に住友地所株式会社が悪質業者不良土地会社として報道され、そのためあたかも原告が排除命令の対象となったかのように世人に誤解を与える結果を招来した。

そこで、原告は被告との混同を防衛する現実の必要に迫られ、翌一七日付の朝日新聞、日本経済新聞、毎日新聞、サンケイ新聞の四紙に、被告が原告とは全く別個の関係のない会社であることを別紙第二目録記載の文例で別紙第三目録記載の規格により広告を掲載した。その新聞広告料金は第三目録記載のとおり合計金五四五、九二〇円であるが、これは被告の故意による不正競争行為によって原告の被った損害である。仮にこの広告のうち「なお」以下の部分が不相当であるとすれば、その部分の広告料金一三六、四八〇円を除いた金四〇九、四四〇円が損害である。その計算は別紙第四目録記載のとおりである。

六、よって、原告は被告に対し、不正競争防止法第一条第二号に基き、被告の商号の使用禁止とその抹消登記手続とを求めるとともに別紙第一目録記載の各物件における「住友地所株式会社」、「住友地所KK」および「住友」の表示の抹消を求め、あわせて同法第一条の二に基き損害金五四五、九二〇円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四〇年一〇月二九日から支払ずみまで年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

第三  被告の答弁(省略)

証   拠(省略)

理由

一、(証拠)によれば、次の事実が認められる。

原告は、株式会社住友本社が戦後の財閥解体に際し解散することになったので、第二会社として原告主張の日に設立され、旧住友本社の事業中不動産事業を受け継ぎその後原告の主張する業務を営んでいるが、原告は事業上自ら挙げた実績と住友系諸会社中の一会社であることから、その商号「住友不動産株式会社」はすでに相当以前から日本国内に広く認識されていた。そして、原告は「住友」の標章をサービスマークとして使用しており、この標章は原告のサービスマークとして相当以前から日本国内に著名となっていた。

二、被告が原告主張の日に原告主張のように設立された会社であって、昭和三九年一一月二日商号を「住友地所株式会社」と変更するとともに営業目的を原告の主張するように変更し同月二七日その旨登記を経由し、ついで、同月四日本店を被告肩書地に移転し、同月一二月二日その旨の登記を経由し、現に不動産事業を営んでいることは、当事者間に争いがない。

三、(証拠)によれば、被告は昭和四〇年一〇月下旬頃別紙第一目録記載の宅地の分譲を行ったが、その際立看板、看板、テント、幟、小旗に同目録記載のとおり「住友地所株式会社」、「住友地所KK」、「住友駅前団地案内所」と記載したことを認めることができる。

四、そこでまず被告の商号「住友地所株式会社」を原告の商号「住友不動産株式会社」と対比すると、両者のちがうところは「地所」と「不動産」との部分だけに過ぎず、地所と不動産とはその観念において類似しているから、両商号は全体からみて明らかに類似しているといってよい。つぎに、「住友地所KK」の表示をみると、「KK」は「株式会社」を意味することが明らかであるから、「住友地所KK」と「住友不動産株式会社」とは前同様の理由で類似であるということがでさる。また「住友駅前団地案内所」のうち「住友」の部分は、被告の商号の略称とも、サービスマークとも考えられるが、これは原告の商号の略称ないしサービスマークである「住友」と同一である。このように、被告が原告の商号と類似のものを使用し、原告の商号の略称ないしサービスマークと同一のものを使用する場合、原告のそれが著名なものであり、被告の営業が原告のそれと同種のものである場合には、被告の営業上の施設活動は特段の事情のない限り、原告の営業上の施設活動と混同されるであろうと考えるのが相当である。

五、ところで、(証拠)によれば次の事実が認められる。

被告は昭和四〇年五月七日から一一日まで四〇万枚以上に及ぶ新聞折込ビラを配布し、住友中山団地と称する土地分譲の宣伝を行ったが、そのビラに記載された土地の所在地、最寄駅からの距離、上下水道設備、学校銀行デパート病院映画館等の状態について著しく事実と相違する点があった。そのため公正取引委員会は同年七月一六日被告に対し被告の行為は不当景品類及び不当表示防止法第四条第一号および第二号に違反するものとして前記広告の訂正広告をしなければならない旨および住宅用地の内容について実際のものより著しく優良であり取引条件について取引の相手方に著しく有利であると一般消費者に誤認される広告をしてはならない旨の排除命令を発し、この排除命令は同委員会告示第二二号として同日付官報に掲載された。そして、この事実は同日付の朝日新聞、読売新聞、サンケイ新聞および日本経済新聞紙上に朝日新聞は一段の見出し、他は三段ないし四段の見出しで相当大きく報道され、読者の中には被告の商号が原告の商号と似ているので排除命令を受けた会社は原告であると誤解したものもあった。

以上に認定した事実によれば、原告が被告の営業活動により営業上の利益を害されるおそれのあることは明らかであるといってよい。

従って、被告は不正競争防止法第一条第二号に該当する行為をするものであるから、その商号の使用を中止し、その商号の抹消登記手続をするとともに、立看板、看板、テント、小旗における前記記載を抹消する義務がある。そして、被告が前記行為について故意のあることはいうまでもないから、原告がそのために被るに至った損害を賠償すべき責に任ぜねばならない。

六、そこで、原告の損害額を検討すると、(証拠)によれば、原告は新聞報道の結果世人に与えた誤解を解く必要があるとして、昭和四〇年七月一七日付朝日新聞、毎日新聞、サンケイ新聞および日本経済新聞の紙上に原告の主張するとおりの文面で原告の主張する規格で広告を掲載し、その後間もなく掲載料合計金五四五九二〇円を支払ったことが認められる。

ところで、この新聞広告をみると、その文中住友グループに言及した部分および被告以外にも同名または類似名の会社の存在することに言及している部分は本件と関係がないが、その他の部分は原告が被告の行為によって傷つけられた信用を回復するために適当な措置であったと考えられる。したがって、特別の事情のない限り、この広告に要した費用は、原告が信用毀損によって被った損害の数額を示すものと認めてよいであろう。

そこで、前記適当と認められる範囲の広告料金を求めれば、不適当な部分は字数からみて横二センチメートル二段分に相当するから、全部の広告料金からその割合を計算すると、別紙第四目録のとおりこれを削除するのが相当であるから、残りの掲載料は合計金四〇九、四四〇円となる。

七、してみれば、不正競争防止法第一条第二号に基き、被告の営業について「住友地所株式会社」の商号を使用することの禁止と、登記簿上公示されている商号の抹消登記手続と、前記各物件に現わされた表示の抹消とを求める原告の請求はすべて正当であり、同法第一条の二に基く損害賠償の請求は、金四〇九、四四〇円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四〇年一〇月二九日から支払ずみまで年五分の割合による損害金を求める範囲内において正当であるが、その余は失当である。よって、以上の請求を認容し、その余を棄却することとし、訴訟費用の負担について民事訴訟法第九二条を、仮執行の宣言について同法第一九六条第一項を適用して主文のとおり判決する。(古関敏正 吉井参也 小酒礼)

第一、二、三、四目録(省略)

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