東京地方裁判所 昭和40年(手ワ)1576号 判決 1965年9月07日
原告 郡正
被告 東洋理化株式会社
主文
被告は原告に対し一一五万円およびこれに対する昭和四〇年六月八日以降右完済まで年六分の割合による金員を支払え。
訴訟費用は被告の負担とする。
この判決は三〇万円の担保を供するときはかりに執行できる。
事実
原告訴訟代理人は、主文第一、二項同旨の判決および仮執行の宣言を求め、請求の原因として、
一、原告は、次のとおり記載のある約束手形二通を現に所持している。
金額 満期 振出日(昭和三九年) 名宛人兼裏書人
(1) 五〇万円 昭和四〇年一月一五日 九月一〇日 坂場仲桑
(2) 六五万円 昭和三九年一月一五日 一二月一五日 カシマ工業株式会社
右いずれも、
支払地 埼玉県東松山市
支払場所 武蔵野銀行東松山支店
振出地 東京都中央区
振出人 被告
被裏書人 白地
二、右手形はいずれも被告が振出したものである。
三、右(2) の手形の満期はその振出日より前の日付となつているが、右満期は昭和四〇年一月一五日と記載されるべきところを誤記されたものである。
四、よつて、原告は被告に対し右手形金合計一一五万円およびこれに対する訴状送達の翌日である昭和四〇年六月八日以降完済まで商事法定利率年六分の割合による遅延損害金の支払を求める、
と陳述した。
立証<省略>
被告は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しなかつたが、陳述したものとみなされた答弁書および準備書面によると、「請求棄却、訴訟費用原告負担」の判決を求めるものであり、その答弁および主張は次のとおりである。
一、請求原因第一項の事実は認める。
二、本件手形は、被告会社代表者の不在中に被告会社の経理担当社員真田智昭がたまたま被告会社の経理内容が悪化していたため、その金策を得るため割引依頼の趣旨で訴外長久保金造に対し振出したものである。
三、請求原因第三項の事実は否認する。
四、ところで、本件手形は、右長久保が前記真田に対し、「被告会社の手形を振出せば横須賀青果組合で割引いてやる」というので、その言を信じて前記のとおり真田が振出したものであるところ、被告は、その後本件手形を取得した各名宛人に対しその旨を告げて交渉したが割引く様子がないのでそれらの返還を要求したにも拘らずそのままとなつてしまつたものであるから、本件手形は各名宛人に詐取されたものというべきである。
しかも、被告はその後本件手形を取得した原告に対し右事情を告げてそれらの返還を求めたから、原告は右事情を知りながら本件手形を所持するものである。
五、<立証省略>
理由
一、請求原因第一項の事実は当事者間に争がなく、同第二項の事実は被告において明らかに争わないから自白したものとみなす。
二、本件手形(2) の満期はその振出日より前の日付となつているが、本件手形の如き確定日払手形の振出日は形式的にのみその記載が要求されるものであつて、その記載の実質的な必要性は存在しないものと考えられる。したがつて、形式的にその記載がありさえすればそれが満期より後の日付であつても特段両日付の関係が不合理であることを理由に当該手形を無効とすべきいわれはないものと解するのが相当である。
原告は右手形の満期の記載は昭和四〇年一月一五日の誤記と主張するが、手形外の事実を調べて満期の誤記を認定し、真実記載されるべきであつた日付に補充訂正することは、手形の性質上許されないばかりか、満期と振出日の日付関係如何が前記のとおり手形の無効をきたすことがない場合であれば必要のないことである。
三、被告の主張は、本件手形の各名宛人が本件手形を詐取したとの具体的事情が不明確であるばかりか原告が本件手形を取得した際に被告主張の事情につき如何なる認識をもつていたかの点にふれるところがないから、抗弁として採用できない。
四、そこで、請求原因第一、二項の事実によると原告の請求は理由があるので認容することとし、民事訴訟法八九条、一九六条を適用して主文のとおり判決する。
(裁判官 奥平守男)