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東京地方裁判所 昭和40年(特わ)274号 判決 1965年11月30日

被告人 林純平

主文

被告人を懲役一年六月に処する。

押収してあるベレツタ三二〇口径拳銃二挺(銃身番号、九五七九、三〇三九東京地裁昭和四〇年押第一六〇六号の一、二)を没収する。

昭和四〇年六月一六日付起訴状記載の銃砲刀剣類等所持取締法違反及び火薬類取締法違反の公訴事実については、被告人は無罪。

理由

(罪となるべき事実)

被告人は、法定の除外事由がないのに、昭和三九年二月下旬岐阜県中津川市東町二丁目三番地の自宅及び同市牛ケ瀬所在の被告人経営の採石場倉庫内に外国製ベレツタ三二口径拳銃二挺(銃身番号九五七九、三〇三九東京地裁昭和四〇年押第一六〇六号の一、二)及び同実包約百発を隠匿所持していたものである。

(証拠の標目)<省略>

(法律の適用)

昭和四〇年法律第四七号附則第五項、銃砲刀剣類等所持取締法第三条第一項、第三一条第一号、火薬類取締法第二一条、第五九条第二号、刑法第五四条第一項前段、第一〇条、第一九条第一項第一号、第二項

(一部無罪の理由)

被告人に対する昭和四〇年六月一六日付起訴状記載の公訴事実は、「森美夫、川村知男等と共謀の上、法定の除外事由がないのに、昭和三九年三月五日頃、東京都品川区五反田六丁目一九一番地魚国寿司店等において、イタリヤ製ベレツタ三二口径拳銃等外国製拳銃八挺及び火薬類である同実包約三五〇発を所持していたものである。」というのであるが、森美夫の検察官に対する供述調書二通(各謄本)川村知男の検察官に対する昭和四〇年六月一五日付供述調書(謄本、ただし七枚の分)、鈴木昭士の検察官に対する昭和四〇年四月三〇日付及び五月二一日付各供述調書、矢野泉の検察官に対する昭和四〇年六月二日付供述調書、奥山照雄の検察官に対する昭和四〇年六月三日付供述調書、被告人の当公判廷における供述、被告人の検察官に対する昭和四〇年四月一五日付、四月三〇日付及び六月一一日付各供述調書等右公訴事実に関する一切の証拠を総合してみると、被告人は、森田政治、森美夫らより、昭和三九年二月下旬、本判決において所持の事実を認定した拳銃二挺を買受けたが、その直後の同年三月一日ころ、森田政治の指示を受けた森美夫より、瀬戸一家の者に拳銃一〇挺位を買受けるように話をしてくれとの依頼があつたので、瀬戸一家に属し被告人とはいわゆる兄弟分の間柄にある奥山照雄に話を通じた結果、奥山より、更に同じく瀬戸一家に属し、奥山とはいわゆる兄弟分の間柄にある矢野泉にその話を通じ、買主が矢野一名であるか、矢野及び奥山の両名であるかはにわかには断定し難いところではあるが、とに角瀬戸一家に属する奥山、矢野の線で買受けるということになつたので、被告人よりその結果を森美夫に報告し、森美夫の指定した日である同年三月四日、奥山及び矢野に対する案内役として、奥山、矢野及び被告人の若い衆である鈴木昭士を同道して上京しし、翌五日公訴事実記載の魚国寿司店において拳銃八挺及び実包三五〇発の取引が行なわれたこと、そして右取引の際の具体的状況は被告人並びに矢野、奥山及び鈴木の四名が森美夫の案内で魚国寿司店にいき、同店二階において飲食しながら待つうち、川村知男が同日百瀬某より入手して来たボストンバツグ入りの拳銃及び実包を持込み、畳の上にこれを並べ、一同が確認したうえ、矢野が代金一三六万を支払つて、同人持参のボストンバツグに詰めかえて、その引渡しを終つたという状況であつたことを認めることができ、以上認定の事実関係によれば、被告人は、結局、森田、森及び川村の三名がその支配に属した拳銃八挺及び発包三五〇発を矢野ないしは矢野及び奥山に売渡すにつき、矢野及び奥山を森及び川村に紹介し且つ売買の仲介斡旋の労をとつたことに帰するものであつて、従つて又矢野ないしは矢野及び奥山が同日魚国寿司店において拳銃八挺及び実包三五〇発を所持するに至つたことにつき、これを容易ならしめた点において、幇助の責を負うことは首肯できるとしても、森田、森及び川村と共に右拳銃及び実包をその支配下に置いたということは、認め難いことであるといわなければならない。

川村知男の前掲検察官調書には同人の「林は買うの立場ではなく、仲介というかむしろ私達と一緒に売る方の立場になつていたわけです。」との供述記載があるが、これをもつて直ちに被告人が森、川村等と共に前記拳銃及び実包を共同して支配する立場にあつたということができないことは勿論であり、その他証拠によれば、被告人が魚国寿司店において拳銃等を手に取つて点検した事実のあつたことは、認められないではないが、右のようなことは、商品の売買を斡旋する者が往々にしてすることであつて、その事実があるからといつて被告人が前記拳銃等をその支配下に置いたということができないことも、勿論である。そして、被告人が、矢野ないしは矢野及び奥山の拳銃等を所持するに至つたことにつき、幇助者としての責を免れないことは、前述のとおりであるとしても、正犯である矢野、奥山の所持の事実は、被告人の共犯者とされている森美夫、川村知男等の所持の事実とは別個の事実に属するものであつて、被告人に対し矢野、奥山に対する幇助の責任を問うがためには、別個に公訴の提起されることが必要であり、訴因の変更等の手続によつて処理することはできない。それ故、問題の公訴事実については、犯罪の証明がないものとして、刑事訴訟法第三三六条により無罪の言渡をする。

(裁判官 上野敏)

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