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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)157号 判決 1967年12月26日

原告 越後屋栄悦

右訴訟代理人弁護士 田口康雅

同 安達十郎

被告 蒲田税務署長 塚越正春

右指定代理人検事 福永政彦

<ほか三名>

主文

一、被告が原告の昭和三八年分贈与税更正請求に対してなした昭和三九年六月二三日付更正すべき理由がない旨の通知を取り消す。

二、訴訟費用は、被告の負担とする。

事実

(当事者双方の申立て)

一、原告

主文同旨

二、被告

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

(原告の請求原因)

第一原処分の存在

一、原告は、被告の指示に従い、昭和三九年二月三日、被告に対し、同日付「昭和三八年分贈与税申告書」をもって、同年分の贈与税につき別紙記載どをりの申告をした。

二、原告は、右申告が正当なものでないことを知ったので、昭和三九年三月二一日、被告に対し、同日付「贈与税の更正請求書」をもって、前記申告書記載の借地権の贈与は誤りで、単に建物のみの贈与とさるべきであったこと、従って納付すべき税額が過大に申告されていることを理由に、右申告にかかる税額の更正を請求した。

三、被告は同年六月二三日付をもって原告の右更正の請求に対し更正すべき理由がない旨の通知(以下「原処分」という。)をした。

第二不服申立ての前置

一、原告は、昭和三九年七月二四日被告に対し、原処分に対する異議申立てをなしたところ、被告は、同年一〇月三日これを棄却し、同月五日頃原告に対しその旨通知した。

二、原告は、同年一〇月三〇日頃、訴外東京国税局長に対し被告の原処分につき審査請求をしたところ、右訴外庁は昭和四〇年一〇月六日これを棄却する旨の裁決を行い、同月一五日頃原告に対しその旨通知した。

第三原処分の違法

一、しかしながら、原処分は、本件建物および借地権の贈与がなかったのに、これがあったことを理由とするものであって、違法である。

1、原告の父訴外越後屋栄蔵は石工であるが、昭和二二年頃訴外高瀬庄太郎から同人所有の大田区西蒲田七丁目一三番所在の宅地一四三・六三平方メートル(四三坪四五、以下「本件敷地」という。)を借り受け、その頃同所に木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建バラック居宅建坪二二・三一平方メートル(六坪七五、以下「イの家屋」という。)を建築し、ここに原告ら家族と共に居住していた。

2、原告は、昭和三一年二月一日頃結婚するに際し、右高瀬より本件敷地を右栄蔵と共に連帯して賃借することとし、その頃その地上に右イの家屋の西側にこれと接続して木造瓦葺平家建居宅一棟建坪四六・二八平方メートル(一四坪、以下「ロの家屋」という。)を建築所有し、ここに新世帯をもった。

3、訴外栄蔵は、昭和三八年一〇月一七日、前記イの家屋につき同月一〇日贈与を原因として原告に対し所有権移転登記手続を経由した。

(一)、しかし、右贈与の登記は原告が栄蔵の承諾をうることなく独断で行ったもので何ら贈与の実体のないものである。

すなわち、栄蔵は昭和三七年頃より長女栄子夫婦の住宅難を救うため、イの家屋南側に三一・七三平方メートル(九・六坪)の平家(二室)の増築を計画し手持資金を超える建築費用は住宅金融公庫より借り入れるよりほかなかったが、栄蔵はすでに老令でしかも珪肺病で入院中であったために、同人名義では右公庫よりの借入れが不可能であったので、やむなく右借入れを原告名義で行い、昭和三八年八月頃右増築を完了し、右増築部分につき右公庫のために抵当権を設定するにあたり、司法書士から右増築部分が資金借受人である原告名義であることを要すると教えられ、これを信じた原告が便宜前記イの家屋の所有名義を原告のものとし、これに右増築を加えたものとの形式をつくるために、栄蔵の承諾もえず独断で前記の贈与を原因とする登記に及んだのである。従ってイの家屋の贈与は実体のない無効のものであり、それゆえ本件敷地賃借権の贈与もまた存在しない。

(二)、また、前記ロの家屋は原告名義に保存登記がなされているが、実際は独立の一個の建物でなく、従前よりあったイの家屋に対する増築部分にすぎなかった。従ってイ、ロの各家屋は登記簿上は別個の建物であるが実際は一個の建物である。それゆえ、本件贈与は一個の建物のうちのイの家屋の部分の贈与にすぎないのである。区分所有の対象となりえない建物部分の贈与は無効であるところ、イ、ロの家屋(部分)はいずれも区分所有の対象となりえないものであるから、仮りに訴外栄蔵において、本件イの建物(部分)を贈与する意思があったとしても、右贈与は法律上不能であり、無効のものである。

4、仮りに右家屋の贈与が無効でないとしても、借地権の贈与はない。

一般に建物の所有権移転が行われるときは、特段の事情がない限り建物敷地使用権も移転すると認められるのであるが、これは通常の場合建物所有権の移転は、その建物を現在の場所において継続して所有、使用、管理することを目的として行われるのであるから、建物所有権の移転は敷地使用権の移転を前提として行われるものと認めるのが合理的だからである。しかしながら、本件においては、仮りにイの建物の贈与が認められるとしても当然に敷地使用権の移転を伴うことを排除する特段の事情が存する。それは右建物の受贈者である原告が既に土地(連帯)賃借権者であって、本件敷地全体に対して使用権限を有していることである。すなわち原告にはイの家屋と共にその敷地使用権の贈与を受けなければ、イの家屋を引き続き所有使用していくことができない理由は毫を存在しない。

したがって、本件においては敷地賃借権の贈与があったとする被告の認定は誤りである。

二、よって、原処分の取消しを求める。

(被告の答弁)

第一原告の請求原因に対する認否

一、請求原因のうち第一原処分の存在および第二不服申立ての前置の各項記載の事実を認める。

二、第三原処分の違法の項のうち

第一項1、2および3の本文記載の各事実は認める。

同項3、(一)記載の事実を否認する。

同項3、(二)及び同項4記載の各主張は争う。

第二原処分の適法性

一、原告は昭和三八年一〇月一〇日実父である越後屋栄蔵から大田区西蒲田七丁目一三番所在木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建居宅一棟建坪二二・三一平方メートル(六・七五坪、イの家屋)の贈与を受け、同月一七日所有権移転登記手続を経由したものであるところ、右家屋の価格は金二万円である。

二、ところで原告は、その主張のとおり、本件敷地を父栄蔵と共に連帯して賃借していたものであるから、原告と栄蔵とは右借地権を準共有していたものであり、各所有建物の坪数に応じてその持分権を有していたと認めるのが相当である。そこで原告は栄蔵から前記建物の贈与を受けるとともに、その敷地に対して栄蔵の有していた前記借地権の贈与をも受けたものと認められるところ、その価格は別紙計算書のとおり、金一、九五三、九三〇円である。

三、従って、原告が別紙申告書のとおりした贈与税の申告は正当であり、原告の更正の請求を理由がないとした原処分もまた正当である。

(証拠関係)≪省略≫

理由

一、請求原因第一原処分の存在、第二不服申立ての前置の各項に記載の事実は当事者間に争ない。

二、そこで原処分の適否につき判断する。

1、原告の父訴外越後屋栄蔵は石工であるが、昭和二二年頃訴外高瀬庄太郎から同人所有の大田区西蒲田七丁目一三番所在の宅地一四三・六三平方メートル(四三坪四五)を借り受け、その頃同所に木造亜鉛メッキ鋼板葺平家建バラック居宅建坪二二・三一平方メートル(六坪七五、イの家屋)を建築所有し、ここに原告ら家族と共に居住していたこと、原告が昭和三一年二月一日頃結婚するに際し、右高瀬より本件敷地を右栄蔵と共に連帯して賃借することとし、その頃その地上に右イの家屋の西側にこれと接続して木造瓦葺平家建居宅一棟建坪四六・二八平方メートル(一四坪、ロの家屋)を建築所有し、ここに新世帯を持ったこと、訴外栄蔵が昭和三八年一〇月一七日前記イの家屋につき同月一〇日贈与を原因として原告に対し所有権移転登記手続をしたこと、以上の事実は当事者間に争ない。

2、よってイの家屋の贈与の存否につき検討することとする。

≪証拠省略≫を総合すると、次の事実を認めることができる。

原告の父栄蔵夫婦は、昭和三七年頃から長女栄子夫婦及び近く結婚する次男昭のためにイの家屋の増築を計画したが、右栄蔵はすでに老令でしかも珪肺病で入院中であったので、同人名義では住宅金融公庫からの借入れが不可能であったため、はじめ借入れ適格を有する次男昭の名義で右公庫に対する借入れの申込みを行い、公庫の選考の結果合格したが、原告が勤務先の仕事の関係から建築および公庫関係の手続をよく知っていたので便宜上公庫からの借主名義を昭から原告に変更し、昭和三八年八月頃イの家屋の南側に、イの家屋に接続して、三一・七三平方メートル(九・六坪)の平屋を増築した。原告は、この増築部分を先にロの家屋についてしたと同様に独立の建物としての登記を自己名義ですべく、その手続を司法書士石垣八郎に依頼したところ、同人は、原告に対し右増築部分、イの家屋およびロの家屋の位置関係、構造等から、これらは一個の建物を構成しており、右増築部分を独立の建物として登記することが不可能であること、これを登記する方法は、イとロの家屋の登記を合併して、これに増築の登記をするほかないが、そのためには父栄蔵名義のイの家屋の登記を原告名義に売買、贈与等を原因として移転するか、全体を原告と栄蔵との共有にすることが先決問題である旨説明した。よって、原告は右増築部分の登記手続を経由して金融公庫に必要な手続をするための便宜的手段として、又栄蔵と相談することもなく独断で、イの家屋を栄蔵から贈与を受けた形式によって登記手続をすすめてくれるよう、右石垣に依頼し、その結果石垣がイの家屋につき原告のために贈与を原因とする所有権移転登記手続をとったものである。右認定に反する証人越後屋栄蔵の証言部分、原告本人の供述部分は採用せず、他に右認定を左右する証拠はない。もっとも≪証拠省略≫には、原告が訴外栄蔵からイの家屋の贈与を受けたことを疑わせるような記載があるが、≪証拠省略≫によれば、これらは、原告においてイの家屋だけならば価格がわずか金二万円程度であるところから、原告が右建物の贈与を受けたものであるとの被告の指示を強いて争うまでもないと考え、あえてこれを争わない趣旨で、右建物の贈与を受けた、と記載したに過ぎないものであることが認められるので、右の記載は、前記認定の妨げとなるものではないというべきである。

以上の認定事実によれば、イの家屋に関する贈与を原因とする所有権移転登記は、原告が前記増築部分の登記のため、その実体なくしてとった便宜的手段であって、贈与はなかったものと認めるのが相当である。したがってイの建物の贈与があったことを前提とする敷地賃借権の贈与もまたこれを認めることはできない。

三、してみれば、右建物および敷地賃借権の贈与があったものとして、原告の前示更正の請求を認めなかった原処分は違法といわなければならない。

よって、原処分を取り消すこととし、訴訟費用の負担につき民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 杉本良吉 裁判官 中平健吉 岩井俊)

<以下省略>

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