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東京地方裁判所 昭和40年(行ウ)17号 判決 1970年2月23日

東京都目黒区東町一〇八番地

原告

株式会社 木政商店

右代表者代表取締役

渡辺和吉

右訴訟代理人弁護士

相原良市

東京都目黒区中目黒五丁目二七番一六号

被告

目黒税務署長田中五郎

右訴訟代理人弁護士

国吉良雄

右指定代理人

山口三夫

泉水一

今田叶

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の申立て

(原告)

「被告が原告に対し昭和四〇年一月二七日付で昭和三四年五月一日から昭和三五年四月三〇日までの事業年度の法人税についてした再更正処分のうち原告の確定申告額をこえる部分を取り消す。訴訟費用は被告の負担とする。」との判決

(被告)

主文と同旨の判決

第二原告の請求原因

原告会社は、昭和三四年五月一日から昭和三五年四月三〇日までの事業年度の法人税につき、昭和三五年六月二九日所得金額三六万五、〇五二円、法人税額一二万四五〇円と確定申告したところ、被告は、原告会社がその営業所に使用していた日本橋馬喰町三丁目の土地・建物(以下本件工地建物という。)を長坂マツに譲渡した代金四、五〇〇万円の申告洩れがあるとして、昭和三九年三月六日付で所得金額を四、三五五万八、一一一円、法人税額を一、六四五万二、〇七〇円と更正し、重加算税額八一六万五、五〇〇円の賦課決定をなし、さらに、昭和四〇年一月二七日付で、留保所得金額に対する税額一〇七万八、九六〇円の脱瀬があつたとして、所得金額を四、三五五万八、一一一円、法人税額を一、七五三万一、〇三〇円と再更正し、あわせて重加算税額五三万九、〇〇〇円(合計八七〇万四、五〇〇円)の賦課決定をした。

しかし、原告会社には右事業年度において譲渡所得はなく、本件土地建物は、原告会社が最村政七の現物出資によつて所有していたが(もつとも、その旨の登記がなされたのは、昭和三五年一〇月一四日である。)政和興業株式会社が昭和三五年一〇月二〇日原告会社を暖収合併した(もつとも、合併の登記は、されていない。)ことによつて、政和興業の所有に帰し、同社が同年一二月八日これを株式会社村山東京店(現商号株式会社村山)に譲渡し、ただ、その所有権移転登記が中間省略によつて昭和三六年一月九日付で原告会社から直接株式会社村山東京店に対してなされたにすぎないものであつて、原告会社は、右議渡には全然関与していないのである。したがつて、前記再更正処分は違法であるので、その取消しを求める。

第三被告の答弁

原告主張の請求原因事実中、係争事業年度において原告会社に譲渡所得がなかつたこと、つまり、原告会社が政和興業に吸収合併され、同社が本件土地建物を株式会社村山東京店に譲渡した事実は、否認するが、その余の事実は、すべてこれを認める。

右合併は、原告会社が本件土地建物を長坂マツに譲渡したことに対する課税を回避する目的でなされた仮装の行為にすぎないものであり、被告のした前記再更正処分には、原告主張のごとき瑕疵はない。

第四証拠関係

(原告)

甲第一ないし第六号証、第七号証の風ないし八、第八号証の一ないし四、第九ないし第一八号証、第一九、第二〇号証の各一ないし三、第二一ないし第二五号証、第二六号証の一ないし八、第二七号証、第二八、第二九号証の各一、二、第三〇号証を提出し、証人白石隣三、長村圭之助、村山青人、長坂泰蔵の各証言、原告会社代表者渡辺和吉の尋間の結果を援用し、乙第一ないし第七号証、第九号証の一、第一〇ないし第一四号証、第二二号証の各成立を認め、その余の乙号各証の成立は不知。

(被告)

乙第一ないし第八号証、第九号証の一ないし三、第一〇ないし第二二号証を提出し、証人白井隣三、桜井博之、中村盛三の各証言を援用し、甲第一ないし第三号証、第二八号証の二の各成立を認め、同第二八、第二九号証の各一は郵便官署作成部分の成立を認めるが、再余の部分の成立は不知、その余の甲号各証の成立は不如。

理由

原告会社が昭和三四年五月一日から昭和三五年四月三〇日までの事緊年度の法人税につき、昭和三五年六月二九日所得金額三六万五、〇五二円、法人税額一二万四五〇円と確定申告したところ、被告が原告会社には本件土地建物を長坂マツに譲渡した代金四、五〇〇万円の申告洩れがあるとして、昭和三九年三月六日付で、所得金を額を四、三五五万八、一一一円、法人税額を一、六四五万二、〇七〇円と更正し、重加算税額八一六万五、五〇〇円の賦課決定をなし、さらに、昭和四〇年一月二七日付で留保所得金額に対する税額一〇七万八、九六〇円の税額があつたとして、所得金額を四、二五五万八、一一一円、法人税額を一、七五三万一、〇三〇円と再更正し、あわせて重加算税額五三万九、〇〇〇円(合計八七〇万四、五〇〇円)の賦課決定をしたこと、また、本件土地建物は、原告会社が長村政七の現物出資によつて取得し、昭和三五年一〇月一四日その旨の登記を経由したこと、本件土地建物につき、昭和三六年一月九日付で原告会社から株式会社村山東京店に昭和三五年一二月二六日売買を原因とする所有権移転登記がなされていることは、いずれも、当事者間に争いがない。

原告は、原告会社が本件土地建物を長坂マツに譲渡した事実はなく、本件土地建物は、政和興業株式会社が原告会社を吸収合併したことによつて政和興業の所有に帰し、同社がこれを株式会社村山東京店に譲渡したものであつて、原告会社はただ中間省略によつて本件土地建物の所有権移転登記を直接付山東京店にしたにすぎないと主張するので、以下この点について判断することとする。

成立に争いのない甲第一ないし第三号証、乙第一ないし第七号証、乙第一〇ないし第一二号証、証人白井隣三の証言により真正に成立したものと認める甲第二三号証、乙第八号証、証人中村盛三の証言により真正に成立したものと認める乙第一五ないし第一八号証、証人桜井博之、中村盛三の各証言、証人白井隣三、村山青人、長村圭之助、原告会社代表者渡辺和吉の各供述の一部並びに本件弁護の全趣旨によれば、次の事実を認めることができる。すなわち原告会社は、資本金一〇〇万円、株主八名のいわゆる同族会社であるが、昭和三三年ころからその営業所である本件土地建物を売りに出していたところ、昭和三五年二月ころ土地建物取引業者である原田峰之助よりその事実を聞いた同業者の白井隣三は、かねてからの識合いである長坂マツに転売の目的でこれを購入するよう勤め、マツから買主名議を白井とし、かつ、同人において買入れから転売にいたるまで一切の世話をしてくれるなら買つてもよい旨の承諾を得たので、マツの代理人として、原告会社と交渉を重ね、昭和三五年四月一日代金四、五〇〇万円で売買の話しがまとまり、契約書は、前叙のごとく当時本件土地建物の所有名義人が長村政七のままになつていたので、売主を長村、買主を白井とし、マツは、原告会社に対し即日内金五〇〇万円を、同月三〇日内金二、〇〇〇万円をいずれも白井を通じて支払い、右三〇日、本件土地建物につき白井隣三名儀で売買予約を原因とする所有権移転請求権保全の仮登記を経由した。ところが、その後一、二か月経つてから、原告会社の株主でその経理を担当している公認会計士村山育人からの本件土地建物は原告会社の所有であると指摘されたので、両者協議のうえ、さきの契約を解除し、あらためて原告会社名義をもつて同一代金で売買契約をやり直し、すでになされた代金の支払いや仮登記は、そのままにして右の限度で新契約を履行したものとみなすこととし、同年九月末日ころ建物の明渡しと同時に残代金の支払いを了し、なお、白井は、その後マツのために、同年一二月八日本件土地建物を株式会社村山東京店に代金六、二〇〇万円で売却し、マツから原田峰之助、藤城菊三とともに手数料として合計二〇〇万円の支払いを受けたこととを認めることができる。

もつとも、原告の提出に係る甲第六号証、第七号証の一ないし、八、第八号証の一ないし四、第九ないし第一八号証、第一九、第二〇号証の各一ないし三、第二一、第二二号証、第二五号証、第二六号証の一ないし八によると、原告会社と白井隣三との間に和年三五年七月三一日付で「昭和参拾五年四月壱日を以て甲(長村政七)乙(白井隣三)との間に左記物件(本件土地建物)の売買契約を為したるは誤りに就きこれを取消し」、「甲は乙のために株式会社木政商店(原告会社)の株式総数(一万株)を乙に譲渡する様各株主に説得幹施することを契諾」し、「株式の譲渡代金は金四千五百万円以内とする。」との株式譲渡契約書(甲第六号証)が、また、いずれも同年九月三〇日付で原告会社の各株主と白井との間の株式譲渡証書(甲第七号証の一ないし八)、有価証券取引書(甲第八号証の一ないし四)および株式の名義書替書(甲第二六号証の一ないし八)が、さらに、白井は、同年一〇月一〇日政和興業に対して原告会社の株式全部を代金六、二〇〇万円で譲渡した旨の株式売買契約書(甲第九号証)が、翌一一日付で原告会社と政和興業との間に「甲(政和興業)と乙(原告会社)とは合併し、甲は存績し乙は解散する。」、「甲は乙会社の株式総数を譲受けたることにより合併による資本の増加なし。」との合併契約書(甲第一一号証)と、原告会社においては、同年一〇月一五日午前一〇時「株主一〇名」出席のもとに臨時株主総会を開催し、全員異義なく右合併契約を承認した旨の議事録(甲第一二号証)が、また、政和興業は、同年一二月八日株式会社村山東京店に対して本件土地建物を代金六、二〇〇万円で売り渡した旨の土地建物売買契約書(甲第一〇号証)が、それぞれ作成されていて、あたかも、原告主張のごとく、長村がさきに白井と締結した本件土地建物の売買契約を解除した後、原告会社は、昭和三五年七月三一日付で、白井と、株主に対して会社の全株式一万株を白井に代金四、五〇〇万円以内で譲渡するよう斡旋する旨の契約を締結し、同年九月三〇日各株主が右約旨に従い合計四、五〇〇万円でその株式全部を白井に引き渡して、それに相応する有価証券取引税を即日印紙で納付し、白井は、それから一〇日後に原告会社の株式全部を政和興業に代金六、二〇〇万円で譲渡し、さらに、政和興業は、翌日、原告会社を吸収合併して本件土地建物を取得し、同社がこれを同年一二月八日株式会社村山東京店に代金六、二〇〇万円で売り渡したことになつている。しかし、これらの書面は、左記の諸事実、すなわち、当時の税法のもとにおいては、法人が不動産を売却した場合には、売買代金の百分の三八に及ぶ多額の譲渡所得が課税されるのに対し、株式の譲渡については譲渡代金の万分の一五の有価証券取引税を印紙で納付すれば足りたこと、前記売買残代金の支払いがなされるころになつて、白井は、村山から本件土地建物の売買は税金の関係で株式売買の形式にしたいからよろしく頼むといわれてその旨了承し、村山東京店へ本件土地建物を転売した後である昭和三八年三月二二日ころ、村山会計事務所の事務員渡辺和吉が持参した前記原告会社から白井に対する株式譲渡契約書(甲第六号証)、白井から政和興業に対する株式売買契約書(甲第九号証)等に押印し、村山東京店も、村山育人の懇請によつて本件土地建物を政和興業から買い受けた旨の前記土地建物売買契約書(甲第一〇号証)に記名押印したこと(これらの事実は、前掲乙第一〇ないし第一二号証、乙第一六ないし第一八号証および前記証人中村盛三の証言によつてこれを認めることができる。)、前記有価証券取引書(甲第八号証の一、四)に添付されている印紙は、昭和三八年三月二八日以降の、また、前記白井から政和興業に対する株式売買契約書(甲第九号証)に添付されている印紙は、同年一〇月八日以降の発売に係るものであつて(これらの事実は、公文書なるにより真正に成立したものと認める乙第一九ないし第二二号証によつてこれを認めることができる)、いずれも、それが貼られたのは、原告会社が税務署の調査を受けるようになつてから後のことであること、また、会社の合併後存続する会社においてその本店の所在地で合併の発記をすることがその効力発生の要件とされている(商法一〇二条、四一六条一項参照)にもかかわらず、前記原告会社と政和興業との合併について合併の登記がなされていないとは、原告の自ら認めて争わないところであり、なお、原告会社にあつては、前叙のごとく株式譲渡証書が作成されて株主たる資格を喪失した旧株主によつて合併契約承認の決議がなされていることからみても、右合併は、その効力を生ずるに由ないものであること、政和興業は、原告会社の経理を担当していた村山育人が昭和三五年六月その経営する会計事務所の事務員らとともに設立した資本金一〇〇万円の有価証券および不動産の保有を目的とする会社であつて、原告会社とは容易に合併の形式をととのえ得る事情にあつたこと(この事実は、登記簿膳本であることにより真正に成立したものと認める甲第三〇号証並びに前記原告会社代表者渡辺和吉の尋問の結果によつてこれを認めることができる。)前記のような手順がうまくいつた場合には、原告会社からその報酬として村山は一〇〇万円、渡辺は二〇万円をもらうこととなつており、現に村山は、右一〇〇万円を受領していること(この事実は、前記証人桜井博之の証言によつてこれを認めることができる。)等に徴して、本件土地建物に対する譲渡所得の課税を免かれんがため前記村山が後日にいたりその回避手段として作成したにすぎないものであり、所詮、これをもつて原告の右主張を裏付ける証拠とはなしえないものというべきである。

以上の認定に反する証人白井隣三、村山青人、長村圭之助長坂泰蔵、原告会社代表者渡辺和吉の各供述部分は、冒頭掲記の各証拠に照らしてにわかに措信し難く、原告挙示の乙第九号証の一は、前掲乙第一三、第一四号証および前記証人白井隣三の証言の一部によつて真正に成立したものと認める乙第九号証の二、三と対比して措信するに足らず、他に以上認定の妨げとなる的確な証拠はない。

しかして、以上認定の諸事実を結合すれば、原告会社は、係争事業年度において本件土地建物を長坂マツに代金四、五〇〇万円で売却したものと認めるべきであつて、原告の右主張は、採用の張りでないといわれなければならない。

されば、被告のした本件再更正処分には原告主張のごとき瑕庇はなく、原告の請求は、理由がないので、棄却を免がれない。

よつて、訴訟費用の負担につき行訴法七条、民訴法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 渡部吉隆 裁判官 中平建吉 裁判官 渡辺昭)

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