大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和41年(むのイ)640号 決定 1966年10月28日

被疑者 秋山勝行

決  定 <被疑者氏名略>

右の者に対する昭和二五年都条例第四四号集会集団行進及び集団示威運動に関する条例違反被疑事件について、昭和四一年一〇月二五日東京地方裁判所裁判官鈴木之夫がなした勾留並びに接見禁止等請求却下の裁判に対し、同日東京地方検察庁検察官佐藤忠雄が適法な準抗告の申立をなしたので、当裁判所は次のとおり決定する。

主文

本件準抗告の申立を棄却する。

理由

一  検察官の本件準抗告申立の理由は、別添(一)「準抗告及び裁判の執行停止申立書」と題する書面写のとおりである。

二  当裁判所が職権により取寄せた一件記録によると、被疑者が別添(二)の勾留請求書記載の被疑事実を犯したと疑うに足りる相当な理由があることは明らかである。

三  そこで、罪証隠滅の虞れの有無について、検討するに、被疑者は逮捕されて以来、捜査官の取調に対し、一貫して黙秘権を行使していることが認められるが、本件被疑事実の外形的行為、すなわち、公安委員会の附した許可条件に違反した、あるいは、無許可の集団示威運動が行われたこと、及び被疑者が右集団示威運動を指導したものであることは、右記録中の行進を目撃した各警察官らの現認報告書及び当時行進現場において警察官によつて撮影された写真等から、明白に認めうるところであり、又、被疑者及び他の指導者間における共謀の点については右各証拠資料からも、また集団行進の指導者と目される者達各人の同行進の指導形態及びその行動態度等からも被疑者らが当時相互に意思を相通じて本件の如き許可条件違反ないし無許可の行進を指導したと認めるに充分であつて、また右各証拠となる目撃者はいずれも警察官であつて、被疑者らがこれに働きかけて罪証隠滅をはかることも又その撮影にかかる写真を隠滅改ざんすることも到底考えられないところである。従つて、共謀の点についても罪証隠滅の虞れはないといわねばならない。また仮りに、検察官主張のとおり、本件の計画共謀関係等を明らかにするため、今後なお相当の捜査が必要であるとしても、右のとおり現場共謀が認められる以上、犯行の動機、計画、背後の共謀等は本件違法行為の態様からみてさしたる重要性を有しないものと認められるのみならず、被疑者は一貫して犯行を黙秘し、本件行進に参加した他の学生らも被疑者からの働きかけの有無にかかわらず、捜査官憲に対して非協力的態度に出るであろうことも明らかであり、このような状況においては被疑者を勾留すると否とは右の諸点に関する捜査の進展にさしたる影響をもたないばかりか、被疑者を釈放したとしても、被疑者自身による罪証隠滅の余地はほとんどないものと云わなければならない。

四  また逃走の虞れの有無についても、被疑者は横浜国立大学の学生であつて練馬区羽沢町一丁目二番地石橋方に居住しており一件記録によるも特に所在をくらます等逃走の虞れを推知させるべき何らの事情も窺われないのであつて、逃走の虞れは認められないものと云うべきである。

五  以上の点からすれば本件勾留請求を却下した原裁判は相当であるから、刑事訴訟法第四三二条、第四二六条第一項後段により、本件準抗告の申立はこれを棄却することとし、従つて、勾留請求却下の裁判の執行停止を求める申立及び接見禁止の申立もまた、結局理由がないことに帰する。

よつて、主文のとおり決定する。

(裁判官 鈴木重光 高木典雄 池田真一)

別添(一)「準抗告及び裁判の執行停止申立書」別添(二)<省略>

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例