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東京地方裁判所 昭和41年(ヨ)2399号 判決 1968年10月25日

申請人 石原信弘

被申請人 財団法人日本科学技術振興財団

主文

申請人の申請を棄却する。

訴訟費用は申請人の負担とする。

事実

第一当事者の求める裁判

一  申請人の求める裁判

1  申請人が被申請人に対し労働契約上の権利を有する地位を仮に定める。

2  被申請人は申請人に対し、昭和四一年八月以降本案判決確定に至るまで、毎月二五日限り金六七、一八〇円を仮に支払え。

二  被申請人の求める裁判

主文同旨の裁判

第二当事者の主張

一  申請の理由

1  当事者

被申請人は、その設置するテレビ事業本部により、昭和三九年四月一二日から「東京12チヤンネル」の名称でテレビ放送及びその附帯事業を行つており、申請人は、昭和三九年七月一日から被申請人に雇傭され、タイトルデザイナーとして、東京12チヤンネル放送のためのタイトル制作業務に従事していたものである。

2  解雇

被申請人は、業務内容に著しい変化が起つたとして、昭和四一年七月三一日申請人に対し、同人を解雇する旨の意思表示をした。

3  解雇無効

しかしながら、右解雇の意思表示は次のいずれかの理由により無効である。

(一) 不当労働行為

申請人は昭和三九年一一月六日科学技術財団労働組合(以下単に「組合」という。)に加入し、以後右組合の美術分会代議員、法廷対策委員として活躍する一方、タイトル契約者を職員化する運動の中核として活発な組合活動を行つてきた。本件解雇は、申請人の右活動に対する報復であると同時に、被申請人が一貫して進めてきた組合破壊攻撃の一環としてなされたものであるから、不当労働行為として無効である。

(二) 労働協約違反

被申請人は、昭和四〇年七月二九日、組合に対し「同月二五日を基準日とし、右基準日に在籍する職員、嘱託、既卒アルバイト、撮影関係契約者については、当面する再建途上において人員整理を行わない」ことを約し、組合と被申請人との間にその旨の記載がなされた「議事確認書」と題する書面が作成された。ところで右議事確認書の文章上は、「人員整理を行わない」という対象者からは「タイトル契約者」ははずされているが、これは「人員整理を行わない」という基本的な確約からはずされた趣旨ではない。被申請人は、全組合員について人員整理しないことは約束するが、「人員整理を行わない」という対象者の中にタイトル契約者を含めることは、当時係争中のタイトル契約者を職員化する要求を被申請人が認めたことになると受けとられるので、別項目にしてもらいたいと主張した。そこで、「タイトル契約者については、今回全員契約を更改するという前提で継続審議とする。」との項目が設けられた。従つて右確認書の趣旨は、継続審議するのはタイトル契約者の労働条件についてであつて、タイトル契約者についても他の従業員と同様、再建途上において人員整理を行わないということは当然のこととして前提されていたのである。そして申請人は右基準日に在籍していた組合員である。

右議事確認書の内容は労働協約にほかならないから被申請人は、その効力により、右基準日に在籍していた組合員たる従業員に対し、これを解雇しないという義務を負つたものである。したがつて、被申請人が組合員たる従業員の一部である申請人を解雇することは右労働協約に違反するものであつて無効である。

(三) 解雇権濫用

(1) 東京12チヤンネルを経済的に協力することに賛同した民間企業約一〇〇社によつて、日本科学技術テレビ協力会(以下単に「協力会」という。)が設立されたが、東京12チヤンネルはその経営財源の大部分を右協力会からの協力会費に依拠することとして発足した。被申請人の役員、評議員の大部分は、右協力会会員となつた企業の有力者である。

東京12チヤンネルに経営の破綻があつたとすればそれは右協力会費の不拠出が主たる原因であるところ、協力会は実質的にみて被申請人と同一視されるべき存在であるから、企業整理の原因は被申請人自らが作り出したものである。また、被申請人は科学テレビ協力会からの収入の低下が現実化した時にも、それを補うための一般的営業活動について一貫した方針をもたないばかりか、かえつて財界の全面的支援があるかのようにいいふらしてきた。以上の如く本件解雇の基礎となつている被申請人の「経営危機」なるものは、被申請人の理事者らの背信的行為に基くものであるうえ、被申請人が誠実に企業の存立と維持を図る意思がありさえすれば、かかる事態は充分克服しうるものであつた。しかるに被申請人はかかる努力を放棄して本件解雇を行い、労働者にそのしわ寄せをしたものであつて、このようなことは信義則に反し許されない。

(2) 被申請人は昭和四一年七月ごろ従業員に対し人員整理をしないことを宣言していた。そして同月二九日に組合と被申請人との間において右宣言を内容とする議事確認書が作成されたことは前記のとおりである。組合は、被申請人から右議事確認書作成の同意を得る代償として、当時被申請人に対して要求していた夏期一時金の額を大幅に譲歩したのである。

ところが被申請人は、それからわずか八ケ月後の昭和四一年三月に一八二名の大量解雇を含む企業整理を行い、同年七月三一日に申請人を含む一四名のタイトル契約者を解雇したのである。

(3) 右のような事情の下に行われた本件解雇は解雇権の濫用であつて無効である。

4  賃金

申請人は被申請人より毎月二五日に、前月一日から末日までの賃金として金六七、一八〇円(昭和四一年五月ないし七月分の平均)の支給を受けていた。しかるに被申請人は昭和四一年八月以降賃金の支払いをしない。

5  保全の必要性

申請人は被申請人に対し労働契約関係存在確認の訴を提起すべく準備中であるが、労働者として専ら被申請人から支給される賃金によつて生活を支えているので、その収入の途を断たれると申請人ら家族の生活は直ちに窮乏してしまう。よつて本申請に及んだ。

二  被申請人の答弁

1  申請の理由に対する認否

申請の理由1の事実は、申請人が被申請人に雇傭されたとの点を除き、その余を認める。被申請人と申請人との間の契約は請負契約であつて雇傭契約ではない。

同2の事実は否認する。

同3の(一)の事実のうち、被申請人が申請人の組合活動を理由に解雇したとの点を否認する。同(二)の事実のうち申請人主張の労働協約を締結したことは認めるが、右労働協約は申請人らタイトル契約者をその対象から外しているので、申請人には適用がない。同(三)の事実のうち、東京12チヤンネル発足の経過、人員整理をしない旨の宣言、議事確認書の作成、企業整理を行つたことを認め、その余の事実を否認する。主張部分は争う。

同4のうち被申請人が申請人に対してその主張の三ケ月間に月平均六七、一八〇円の支払をなしたことは認めるが右は請負代金であつて賃金ではない。

2  解雇理由

仮りに被申請人と申請人との間の契約が雇傭契約であるとしても、右契約には当初期間を一年間とする旨の定めがあり、一度更新されて昭和四一年六月三〇日まで存続することになつたが、右期間満了に際し、被申請人は申請人を代理している組合に対して、特に右契約の期間を一ケ月間だけ延長するが同年七月三一日限り契約を終了させる旨通告した。これによつて申請人との契約は同日限り終了したものである。然して、被申請人が右通告をなすに至つたのは次の理由によるものであつて、何ら違法、不当なものではない。すなわち、

東京12チヤンネルは昭和三九年四月に開局したが、その財政の基礎は、主として財界から拠出される協力会費にあつた。東京12チヤンネルは、開局二年を経ずして二三億円の累積赤字を抱えるに至り、昭和四一年四月に始まる新事業年度を迎えるにあたつて、その事業を閉鎖するか何らかの方法で再建を図るかの岐路に立たされていた。そして、もし被申請人が後者の道を選ぶとしても、その財政は財界からの拠出に依存していたのであるから、自力で再建をはかることは不可能であり、どのような内容で再建するかということは、財界からどのような形で、どの程度の協力、ことに金銭の拠出が得られるかにかかつていたのである。

ところで、テレビ事業本部が上述のごとき赤字を出すに至つた原因は、経済界の一般的不況に由来し、財界からの協力会費が当初の予定どおり拠出されなかつたほか視聴者に親しまれ、他社に比して遜色のないテレビ番組を制作するために(それはまた、何とかして収益をあげようとする努力の現れだつたのであるが)、多額の経費を費し、これに見合うだけの営業収益をあげることができなかつたこと、損失をうめるために収益をあげようとすれば、その経費のためにさらに損失がふえるという悪循環を招いたことにあり、その損失は、経費の節減、協力会費の増収などの方法によつては、到底補うことができないものであつた。

かような次第であるので、被申請人は、まず赤字発生の原因の一つである営業活動をひとまず中止して、右のごとき悪循環を断ち、これ以上の赤字の増加を防止するとともに、財界から被申請人に対し、毎月一億円に相当する経済的援助をなし、その範囲内でテレビ事業を営むということが決められ、この趣旨にそつて被申請人は昭和四一年三月一五日再建計画を立てたのである。

そして、右再建計画に従い、テレビ事業本部においては、昭和四一年四月三日以降業務を大幅に縮少したため申請人らタタイトル契約者への発注総量は激減し、それまでの一四名全員との契約の継続が不適当となつたので、被申請人は申請人を代理している組合に前記の如き通告をなすに至つたのである。

三  解雇理由に対する申請人の答弁

被申請人の答弁2の事実を否認する。ただし、当初の契約に期間を一年間とする旨の定めがあつたことは認めるが昭和四〇年六月三〇日の期間満了後も、被申請人は申請人を異議なく継続して雇傭していたのであるから、同日以降期間の定めのないものとなつて継続している。

また、被申請人は昭和四一年一二月一九日に新再建案を発表したが、それによると協力会組織を「有効的」に機能させて経営資金を確保するとともに、早急に放送時間の延長を実現するというものであり、なお番組を提供した協力会員会社名をテレビに写し出すなど、明らかに実質上営業活動再開の方向へ再転換しようと意図している。このことは昭和四一年三月一五日付の再建案が極めて偽瞞的なものであり、ただ労働者の人員整理と労働強化、財団本位の「合理化」の口実に使われたにすぎないものであることを明白に暴露するものである。

第三疎明関係<省略>

理由

一  いずれもその成立に争いがない疎甲第一号証(疎乙第一七号証と同じもの)ないし第四号証、同第六、七、一一号証、同第二四号証の一、二、疎乙第二号証、同第五号証の二、同第二二、二三、二六、三二号証、証人安斉義美(第一回)の証言により真正に成立したものと認められる疎乙第二〇号証、証人安斉義美(第一回)、同藤本輝夫の各証言により真正に成立したものと認められる同第二八、二九号証の各一ないし三、証人猪狩則男、同今泉和一の各証言により真正に成立したものと認められる同第三四号証の一ないし三、証人猪狩則男の証言により真正に成立したものと認められる同第三五号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる同第五一号証、前記各証言並びに証人東陽の証言を総合すると、次の事実が認められ、他に右認定を覆えすに足りる疎明はない。

被申請人は、昭和三五年三月一五日「科学技術振興に関する諸事業を総合的かつ効果的に推進し、もつてわが国科学技術水準の向上に寄与すること」を目的として創立され、同年四月一九日設立の許可を受けた財団法人であるが、その顧問役員、評議員には、二八一名にのぼるわが国政界、財界、学界の有力者がその名を連らねていた。

ところで、当時、米軍が使用していたテレビ周波数一二チヤンネルがわが国に返還される状況にあつたため、被申請人は、同年七月二日郵政大臣に対し、テレビ放送局の開設免許申請をした。右免許申情は被申請人のほか四社がこれをしており、合計五社の競願となつていたが、当時、経済団体連合会、経済同友会、日本経営者団体連盟、日本商工会議所のいわゆる経済四団体が郵政大臣に対し被申請人に右免許を与えるよう要望する旨の要望書を提出したり、衆議院科学技術振興対策特別委員会が被申請人の免許申請を支持する旨の決議をしたりするなどして、政界、財界はこぞつてこれを支援していた。

一方、昭和三七年一〇月四日「被申請人の行なうテレビ放送事業の主旨が国家的要請に基くものであることを認め、本事業完遂のため経済的に協力することをもつて本旨とする」協力会が結成された。協力会の規約によれば、同会は、右趣旨に賛同し被申請人に対し経済的に協力する法人または個人をその会員とし、同会員は、協力費として毎年一口(一〇〇万円)以上を同会に拠出することとなつていたが、当時一〇〇社近くの企業がその会員となつており、これらの企業の社長もしくは副社長はほとんど被申請人の役員もしくは評議員となつていた。右会員にはAからDまで四種類あり、A会員は五〇口以上、B会員は二〇口以上、C会員は五口以上、D会員は一口以上となつていたが、たとえば、被申請人の当初の会長倉田主税が会長となつている株式会社日立製作所や被申請人の副会長田代茂樹が会長となつている東洋レーヨン株式会社は、いずれもA会員であつた。

郵政大臣は、右協力会が設立された約一ケ月後である同年一一月一三日「同会への加入申込書、会員名簿、協力会費の拠出義務を明示した会規および同会組織の恒久的安定性に関する資料があることからみて、協力会費の拠出は確実で継続性があり、科学技術教育専門局の経営財源として適当なものと認められた」ことを理由の一つとして、被申請人に対し、テレビ放送局開設の予備免許をなし、昭和三九年四月三日、本免許をなした。

他方、被申請人は、予備免許を受けた直後に、テレビ事業本部を設置し、津野田知重が本部長心得に就任した。

被申請人は、右テレビ事業本部のほか、科学技術館事業本部、学校法人科学技術学園を経営しているが、これらはいずれも独立採算制を採用していた。

右のうち、テレビ事業本部(東京12チヤンネル)については、郵政大臣の免許の条件が、全放送時間に対し、科学技術教育番組六〇パーセント以上、一般教育番組一五パーセント以上、その他の番組二五パーセント以下という内容であつたため、東京12チヤンネルの経営財源は、主として協力会からの協力金に依拠することとし、娯楽番組を作成してこれを販売する等他の民間放送局が行なつているような営業活動は原則として行なわないこととした。当初、東京12チヤンネルは、協力会からの協力金は、初年度である昭和三九年度(同年四月一日から昭和四〇年三月三一日まで)は、一一億七〇〇〇万円を見込んでいた。(もつとも、その後予算規模はさらに大きいものとなつた。)

前示のとおり、東京12チヤンネルは協力会からの協力金を予定して、昭和三九年四月一〇日に開局し、同月一二日から放送を開始したが、協力会会員からの協力会費は当初の予定どおりには拠出されず、被申請人の努力にも拘らず、同年四月から九月に至る期間においては一ケ月平均約一〇〇〇万円、すなわち、当初の予定の約一〇パーセントが拠出されたに止まつた。

そこで、東京12チヤンネルは、協力会会員に対し、見返りとしていわゆるコマーシヤルフイルムを放映することを条件とした協力会費、すなわち、他の民間放送局におけるいわゆるスポンサー料に相当する協力会費の拠出を求めて経営財源の確立を図つた。東京12チヤンネルにおいては、この種の協力会費を特別協力会費と称し、当初予定されたコマーシヤルフイルムの見返りのない、無償の協力会費を普通協力会費と称していたが、昭和三九年度(同年四月一日から昭和四〇年三月三一日まで)においては双方の協力会費を合わせてようやく約一〇億六八〇〇万円の収入を得るに至つた。

普通協力会費としての協力金が見込額を大きく下まわつたことが主な理由となつて、東京12チヤンネルの経営は当初から欠損を生じ、初年度である昭和三九年度の決算は約一三億八六〇〇万円の赤字を計上するに至つた。

そこで、東京12チヤンネルの経営建直しを図るため、津野田知重はテレビ事業本部長心得を辞任し、後任として日産生命保険相互会社会長であつた藤本輝夫が昭和四〇年六月二九日同本部長に就任した。

一方東京12チヤンネルの放送免許の期限は、昭和四〇年五月三一日であつたので、被申請人は、そのころ、郵政大臣に対し、同年六月一日以降について再免許の申請をし、同年六月一日から昭和四二年一〇月三一日までの期間について再免許を受けた。

当時、組合は、東京12チヤンネルの経営内容が前記のような状態であつたことから、郵政省が被申請人に対し、今後一年間に赤字を解消して黒字を生み出すこと、協力会を実質的なものにすること、テレビ事業本部専任の専務理事をおくこと、番組編成に際しては三ケ月ごとに郵政省に対して報告を行なうこと等を、再免許の条件として指示した、という内容を新聞その他によつて聞知していた。そのため、組合は昭和四〇年六月一日に開催された団体交渉において、被申請人に対し、郵政省が東京12チヤンネルの従業員について人員整理をするよう指示した事実があるかどうか、また右指示の有無にかかわらず被申請人が人員整理をする意図を有しているかどうかについて質問した。これに対し、被申請人は、郵政省が人員整理を指示した事実はなく、また、被申請人自身人員整理をする意図はない旨を回答した。そこで、組合は、被申請人に対し、被申請人の右回答を文書化して正式に協定するよう求めたが、被申請人は、当初は右文書化の要求には応じなかつた。

ところで、当時、組合は、被申請人に対し夏期一時金として基本給の三、五ケ月プラス三万五〇〇〇円の支給を要求して団体交渉をしていたが、被申請人は、これに対し、同年六月三〇日一、一四ケ月プラス五〇〇〇円の回答を示した。組合は、被申請人の右回答は前年に支給された夏期一時金二、三ケ月、年末一時金二、五ケ月に比較して低額であつたため、右回答額による交渉妥結を拒否した。被申請人は、その翌日である同年七月一日、従業員に対し、掲示により、人員整理は行なわないこと、組合が右回答を拒否したことは遺憾であることを述べ、従業員の協力を要請した。

右のような経緯ののち、組合は、同月二三日に至り、被申請人が人員整理をしない旨の労働協約の締結に応ずるならば、当面は夏期一時金が減額されてもやむを得ないと考え、右協約締結を条件として、夏期一時金については被申請人の回答額によつて妥結することとした。

他方、被申請人もまた、当時は東京都議会議員の選挙が行なわれる直前であつたところ、組合はいわゆるスト権を確立しストライキを辞さない構えであつたため、ストライキによつて選挙速報業務に支障を来たしたり、再免許直後に労使間の紛争を生ぜしめたりすることは不得策であると考え、同年七月二三日に至り、右文書化の要求に応じることとし、同日組合と被申請人との間において次の内容による合意が成立し、同月二九日、被申請人テレビ事業本部人事部長今泉和一および組合書記長金子勝彦がそれぞれ記名捺印した議事確認書が作成された。その内容は次のとおりである。

「組合は、七月二三日の団体交渉の席上、財団(被申請人)に対し『今回の再免許後の再建に際し、テレビ事業本部において人員整理を行なわないか。』との質問を行なつた。

財団(被申請人)は、この質問に対し、組合に『今回の再免許に当つて当財団テレビ事業本部に対して郵政省が人員整理を指示した事実はなく、当面する再建途上においても人員整理は行なわない。しかしながら当財団テレビ事業本部の置かれている現況は非常に厳しくこの再建には組合の協力も要望する。』と回答した。

「注」 一 『人員整理を行なわない』という文言の対象は、昭和四〇年七月二五日現在在籍する職員、嘱託、既卒アルバイトおよび撮影関係契約者である。

二  組合の協力とは、精神的な協力の意味である。

タイトル契約者については、今回全員契約を更改するという前提で継続審議とする。」

しかしながら、その後も協力会からの協力金は減少するばかりとなり、昭和四〇年度(同年四月一日から昭和四一年三月三一日まで)においては、普通協力会費は約一億四八〇〇万円しか寄せられず、協力金の額は、特別協力会費と合わせても約六億七二〇〇万円に止まる状態であつた。これに対し同年度の欠損は約一〇億二三〇〇万円となり、累積赤字は約二四億〇九〇〇万円に達した。

ここに至り、被申請人の有力常任理事約一〇名は、昭和四一年三月一五日に開催された臨時常任理事会において、右理事らの所属する企業から、毎月確実に合計一億円の普通協力会費を拠出することとし、右収入を基礎として、(1)一日の放送時間を半減し五時間半に短縮すること、(2)科学教育放送に徹し営業活動を行わないこと、(3)従業員約二〇〇名を整理すること、の基本方針(以下「再建案」という。)のもとに企業の再建を図ることを決議した。そして、(3)の人員整理の人数は、翌一六日から一七日にかけて作成された事業規模縮少に伴う機構改革案により一八二名となつた。

被申請人は、右再建案を実行に移すため、同月一五日組合に対し、同年六月一五日付をもつて前記議事確認書に記載された、人員整理を行わない旨の約定を解約する旨の通告をし、同年三月一八日東京12チヤンネル従業員全員(ただしタイトル契約者を除く、以下同じ。)に対し、希望退職の募集要項を発表し、同月二四日以降その受付を開始したところ、合計一四一名が希望退職を申し出た。被申請人は更に一六名については被申請人の経営する他の事業に転出させることとしたため、最終的には二五名を解雇することとなつた。被申請人は、右二五名の解雇については、当時、解雇基準を作成し、全従業員のうち右基準に該当する者を解雇する方法をとり、東京12チヤンネルの従業員について、開局以来初めての人事考課を、過去六ケ月を対象期間として急遽行つた。そして被申請人は、議事確認書の破棄を通告した日から九〇日後である昭和四一年六月一五日をもつて、右解雇基準に該当すると判断された二五名を解雇すべく、同年四月三日右二五名に対し、同年三月一五日から六月一四日までの期間は就業規則所定の帰休を命じ、同年六月一五日解雇通告をした。

右人員整理の後、東京12チヤンネルには、協力会から毎月約一億円の協力会費が寄せられ、東京12チヤンネルは科学教育番組に徹することをやめて、娯楽番組をもとり入れて営業活動をし、一日の放送時間も漸次延長され、昭和四二年一〇月当時には一三時間を超えるに至つた。そして、再建のために被申請人のテレビ事業本部長となつていた藤本輝夫は、同年一二月二九日に退任した。

二  いずれもその成立に争いがない疎甲第二〇号証、同第二一号証の一ないし三、同第二二、二三、三九号証、疎乙第四九号証の一、二、同第五〇号証、弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる疎乙第五三号証、証人東陽、同浜野純二、同今泉和一(一部)、同神山安平(一部)の各証言、申請人石原信弘本人尋問の結果並びに弁論の全趣旨を総合すると、次の事実が認められる。右認定に反する証人今泉和一、同神山安平の各証言の一部は措信できず、他に右認定を覆えすに足りる疎明はない。

被申請人は東京12チヤンネル開局の準備として、タイトルデザイナーの募集をし、昭和三九年二月に採用試験を行うことにしたが、試験の日取りも決定した段階で、被申請人は、タイトルデザイナーを直接雇傭することをやめ、間接的な形で採用することとし、その頃株式会社テレビアートを作り、新規採用のタイトルデザイナーを同社に入社させ、下請という形で被申請人の仕事をさせることに決定した。同年二月に予定どおりタイトルデザイナーの採用試験を行い、合格発表の席で「全員下請会社のテレビアートに入つてもらうことになつた」旨を発表した。同年三月一五日申請人を含む五人のタイトルデザイナー(合格者七名中二名はテレビアートへ行くことを拒否した。)は右テレビアートに入社した。しかるに、テレビアートは経営者側の内紛のため、同年六月に解散したので、その際申請人らは被申請人に対し、直接契約にして欲しい旨要求した。その結果、同年七月一日被申請人と申請人との間に左の内容を含む契約が締結された。(他のタイトルデザイナーも個々的に同様の契約を締結した。)

「イ 乙(申請人のこと、以下同じ。)は甲(被申請人テレビ事業本部のこと、以下同じ。)の要求により常駐制作者としてタイトル制作の業務の一部を請負う。

ロ 甲の指示する業務内容の明細及び甲が乙に対する支払の基準は別に定める覚書による。

ハ 乙は甲が特に認めた場合でなければその業務の一部又は全部を第三者に委任もしくは請負わせることはできない。

ニ 本契約の有効期間は昭和三九年七月一日より昭和四〇年六月三〇日までとする。」

そして同時に次の内容の覚書が取り交わされた。

「1 乙は甲の事業所又はこれに準ずる場所において、甲の指示するタイトル制作の業務に従事する。

2 乙は甲の指示するタイトル制作資材を保管、整理する。

3 甲の乙に対する支払いは乙の出来高払いとし、その基準は甲、乙協議の上別に定めるものとする。

4 前項の料金の具体的な適用については甲が決定する。

5 前項の支払方法は毎月末日迄の分を乙は甲に請求し、甲はこれを査定したのち乙が請求した翌月の二〇日に支払うものとする。

6 本覚書の有効期間は昭和三九年七月一日より昭和四〇年六月三〇日迄とする。

7 本覚書に定めていない事項については必要に応じ甲、乙協議の上決定する。」

申請人は右約定に基き、東京12チヤンネルで放送するニユースを除くすべての番組の字幕のデザインやスタジオで使う小道具の文字の書き込みなどに関する業務を行つてきたが、右業務は、東京12チヤンネルの局舎一階の美術課で行うのを原則とし、作業に必要な資材、用具等はすべて被申請人において準備した。なお、タイトル契約者のために、専用の机やロツカーも用意されていた。

タイトル契約者に対する仕事の依頼は、先ず番組のデイレクターがタイトルの依頼用紙に内容を記入してタイトルデスクに渡し、これに基いて、タイトルデスクとタイトル契約者とが相談のうえ、タイトル契約者の持味や繁閑を考慮し、更にはその収入を他の職員の給与体系に近づけるように考慮して、配分された。仕事は、寄席番組のように特殊な文字を使うような場合や、人手が足りないときには外注されたが、それ以外はすべてタイトル契約者に割当てられた。その料金の一応の目安としての基準は決つていたが、具体的には番組全体の制作費との関係によつて決定されていた。だが、料金について折合がつかない等の理由でタイトル契約者が仕事を拒否することはなかつた。

勤務時間についての定めはなく、出勤簿も作られてはいなかつたが、被申請人側から一〇時間位は居てもらわないと困るとの要望があり、タイトル契約者は、実質上その間は拘束されている状態であつた。またタイトル契約者の行う業務の中には、突発的なニユースや、出演者の突然の変更などのため、緊急を要する仕事があるので、申請人らはタイトルデスクとも相談のうえ、遅番、早番のシフトを組み放映時間中少くとも一人は必ず局舎に居ることとして、右緊急事態に備えていた。

以上のほか、タイトル契約者全員に対して、勤務先を「日本科学技術振興財団テレビ事業本部」とする身分証明書が交付され、年二回被申請人によつて行われる定期健康診断を受けるほか、食堂、海の家、医務室等の諸施設の利用も他の従業員と同様に許されていた。また昭和四〇年二月までは、タイトル契約者の賃金から、事業所得に対する税金の源泉徴収として、その一割を差引いていたが、同月以降は、税務署の勧告に基き、給与所得に対する源泉徴収をする取扱いにした。なお、タイトル契約者が他社の仕事をすることは建前としては自由であつたが、事実上の勤務時間が前記の如くであつたため、実際上、他社の仕事をするのは困難な状態であつた。

しかしながら、タイトル契約者の地位を他の従業員のそれと比較してみると、タイトル契約者には時間外手当や、休日出勤に対する手当は支払われず、夏季及び年末一時金も極めて少く、固定給がなくて全部出来高払いであり、各種の保険の取扱いがなされていないことなど、他の従業員よりも不利な地位にあつたため、タイトル契約者からこの差別の是正をも含めた、いわゆる職員化の要求がなされていた。そして、タイトル契約者らが昭和三九年一一月に組合(同年三月一〇日結成)に加入してからは、組合もこの問題を取り上げ、被申請人と交渉を重ねた。昭和四一年二月になされたタイトル契約者の待遇改善問題についての団体交渉では、被申請人側から、収入については月額最低一万五〇〇〇円を保証する、交通費として月額一、二五〇円支給する、健康保険、失業保険、厚生年金保険に加入させる、との回答がなされたが、職員化することについては承諾を得られなかつた。そして右回答も、具体的に話を煮つめようとしていた段階で、前記の三月一五日の再建案の問題が生じ、結局、うやむやに終つてしまつた。

ところで、前記のように、申請人と被申請人との契約には当初一年間の期間の定めがあり、右期間は昭和四〇年六月三〇日に経過したのであるが、その後、申請人と被申請人との間では特別の契約はなされぬまま、従前と同様の関係が継続された。そして、同年七月二九日に被申請人と組合との間で、前記のように「タイトル契約者については今回全員契約を更改するという前提で継続審議とする。」との条項を含む議事確認書が取り交わされた。その後も組合と被申請人との間で、タイトル契約者の待遇改善に関する交渉がなされたが、合意に達しないまま時を経た。被申請人は昭和四一年六月二九日に組合に対し、文書で「タイトル契約者の待遇改善問題については未だ充分な交渉がなされたとはいえないので、いかに期限が到来したとはいえ、六月末日を以て直ちに交渉を打切り、タイトル契約者の身分を失うに至らせることは誠に忍び難いので、昭和四一年七月末日まで一ケ月間に限り契約を延長して、その間に団体交渉を行い、今後の被申請人のタイトル業務に関する基本方針を明らかにしたい。」という趣旨の事項を通告し、この通告はその頃組合を通じて申請人に到達した。しかしながら、その後も両者の間で合意を見るに至らず、右期限の経過と共に、被申請人はタイトル契約者全員に対し、従来の契約関係は消滅した旨を主張するに至つた。当時のタイトル契約者一四名のうち申請人を除く一三名は被申請人から慰労金として五万円を受けとり、結局、契約の解消に応じた。

その後タイトル契約者中の数名は、あかつきプロダクシヨンという会社へ入り、被申請人の下請として、従前と同様の、被申請人のタイトル制作業務に従事することとなつた。

なお、申請人は組合加入後、昭和四〇年九月から昭和四一年四月まで、美術分会の代議員となり、昭和四一年六月の解雇問題発生後は公判対策委員となり、その間、タイトル契約者の職員化要求、解雇撤回斗争などに参加してきた。

三  以上の認定事実を基礎として、以下に主張の当否について判断する。

1  雇傭関係

申請人は被申請人と雇傭契約を締結した旨主張し、被申請人は雇傭契約ではなく請負契約である旨主張するので、先ずこの点について考える。

一般に、請負契約は、労務によつて作り出される結果を目的とするため、労務を提供する者が仕事の完成にいかなる労務をいかに用いるかは原則として労務提供者の自由に委ねられる。

これに対し、雇傭契約は労務それ自体を利用することを目的とする。すなわち雇傭契約にあつては、労働力を利用する者、つまり使用者が自らの権限に基き、労務を適宜に配置、按配して、一定の目的を達成しようとするのであるから、労務提供者は、使用者の指揮、命令に服さねばならないことになる。従つて、理論上雇傭と請負とを区別するためには、契約当事者間に支配従属関係があるか否かが重要な基準となるのであるが、現実の社会関係においては、種々の要因が混在し、あるいは支配従属の程度にも強弱様々の段階があつて、必ずしも明確にこれを区別しえない場合が多い。それにも拘らず、本件では当事者間でこの区別が争われているのであるが、そもそも何のために当該契約が雇傭か請負かを区別しなければならないのか、区別することによつて法律効果にいかなる差異が生ずるのか、を考えてみる必要がある。その目的によつては、雇傭の概念をあるいは広く、あるいは狭く解すべき場合があり、また、雇傭と請負とを区別するだけでは問題の解決とはならない場合があり、あるいは区別する必要がない場合がありうるからである。そこでまずこれらの点について考えてみると、本件で当事者が雇傭か請負かを争うのは、結局被申請人が申請人に、昭和四一年七月末日限りで、従来与えていた仕事を与えなくなり、従つてその対価の支払をしなくなつたことが許されるか否かの判断に当り、請負であれば自由になしうるが、雇傭であれば種々の制約があつて自由にはなしえない場合があるとの前提に立つて、そのいずれかを区別しようとするものにほかならない。しかしながら、前述のように、労務提供者の使用者に対する支配従属の程度に種々の段階があつて、実際上雇傭と請負との区別が曖昧であるとするならば、それを一刀両断的に雇傭か請負かのいずれかの類型に区別したうえ、それに典型契約の法理を当てはめて問題を解決することは、甚しく不当な結果を生ずる場合がある。労働法は従属労働提供者を実質的に保護するために市民法に対する修正的意味を持つものであるから、その対象となるものは、単に典型契約としての雇傭契約のみならず、従属労働の性格をもつ限り、たとえそれが本来なら請負に分類されるべきものであつたとしても、なおその労働の従属性という側面において労働法上の保護を受けうるものというべきである。

ただ、それが請負としての性格をも有する限りにおいて、換言すれば、労働の従属性が雇傭におけるそれよりは稀薄である点において、その従属性の度合に応じて保護の程度も減少することは当然のことである。

これを申請人の主張との関係において、具体的に検討してみると、申請人の解雇無効の主張―これは「解雇」という言葉にとらわれるべきではなく、従前の申請人と被申請人との契約関係を終了させること、の意に解すべきであるが、以下便宜この語を使用する。―は、不当労働行為、労働協約違反、解雇権濫用の三つを理由としている。そして、前二者については、労働組合法第三条にいう「労働者」に申請人が含まれるか否かが問題であり、ここにおいては、申請人が従属労働の提供者であるか否かが決定的に重要であつて、契約関係が雇傭か請負かは必ずしも重要性をもたないことは、前述の労働法の理念に照らして明らかである。最後の解雇権濫用の主張について言えば、この主張を前述のように、申請人と被申請人との従前の契約関係を終了させることが権利濫用か否かの問題として考える限り、右関係が雇傭であろうと請負であろうと同様に問題となる事柄である。ただ、労働の従属性が強い場合には、労働法の理念からして、被申請人の行為が権利濫用と判断される場合が広くなるにすぎない。このように考えてくると、結局本件では雇傭か請負かが問題なのではなく、申請人の被申請人に対する労働の従属性がどの程度のものであつたかが問題なのである。

前認定の事実によれば、被申請人は、契約書では「請負」の文字を使用し、賃金はすべて出来高払いとし、夏季及び年末一時金の支給は他の従業員に比し非常に低額に抑え、各種保険の取扱いをせず、特に申請人らの入社時には直接契約にすることを嫌つて、わざわざ新会社を設立し、いわば間接的な形で契約をし、その後の申請人らの職員化の要求にも応ぜず、昭和四〇年六月二九日の議事確認書では他の従業員と区別して対象から外す(後に詳述する。)など請負的性格を強調しており、申請人らタイトル契約者は、不本意ながらもかかる扱いを甘受してきたし、更に、申請人らタイトル契約者には出勤時刻の定めもなく、出勤簿も作られていないなどの事情もある。しかしながら一方、申請人らは建前はともかく、実質的には出社を義務づけられ、相当の時間職場に留ることを要請され、あるいは早番、遅番のシフトを組むなど、被申請人の営業に即応できる勤務態勢をとることを要求されているほか、割り当てられた仕事を拒否することもなく、厚生施設の使用、定期健康診断、源泉徴収等は他の従業員と同一の取扱いをされ、前記のような内容の身分証明書も発行されていたのである。これらの事情を併せ考えると、申請人と被申請人との契約は、請負的性格と共に、雇傭的性格――従つて従属労働としての性格――をも含んだ一種の混合契約とみうるものであり、その雇傭的性格の範囲内において、なお労働法上の保護をも受けうるものであるというべきである。

ところで、前認定のように、昭和三九年七月一日に締結された契約には有効期間を一年間とする旨の定めがあつたが、右期間を経過しても申請人は被申請人の下で従前どおり働き、被申請人もこれを是認していたのであるから、ここに右契約は黙示的に更新され、期間の定めのないものとなつた(昭和四〇年七月二九日の議事確認書により、「タイトル契約者については、今回全員契約を更改する云々。」との合意が被申請人と組合との間になされたこと前記のとおりであるが、これによつても、更新が明示的なものとなつたに止まり、期間の定めのないことに変りはない。)。そして、被申請人は、昭和四一年六月二九日に組合に対し「タイトル契約者たる身分は昭和四一年七月末日まで一ケ月間に限り延長する。」旨の通告をなし、その頃組合を通じて申請人に到達した。この通告は解雇の予告と解せられるので、右期限の経過により、申請人と被申請人との間の契約は終了すべきはずであるが、前記のとおり、申請人は三つの無効原因を主張するので、次に順次検討する。

2  労働協約違反

申請人は、前記議事確認書作成の際に、被申請人と組合との間で、タイトル契約者についても人員整理を行わないという合意がなされた旨主張するので考えるに、前認定のように、右議事確認書には、「『人員整理を行わない』という文言の対象は、昭和四〇年七月二五日現在在籍する職員、嘱託、既卒アルバイトおよび撮影関係契約者である。」「タイトル契約者については、今回全員契約を更改するという前提で継続審議とする。」と記載されていて、申請人も自認するとおり、文章上は明らかにタイトル契約者は対象から除外されている。これに対し、申請人は、タイトル契約者について特別に一項目を設けたのは、当時係争中であつたタイトル契約者の職員化問題につき、被申請人が了承したものと解されるのを防ぐためであつて、人員整理をしないことは当然のこととして前提とされていた旨主張し、証人浜野純二の証言及び申請人石原信弘本人尋問の結果にも右主張に副う部分がある。しかし、もしそのとおりであるとするならば、「ただしタイトル契約者の職員化――又は労働条件――の問題については継続審議する。」という趣旨の一項を設けるだけで足りたはずであり、わざわざ前記のように、対象者から除外したように読める文言を使用する必要もなかつたし、組合としても、文章上タイトル契約者を協約の対象外としたとしか読めないような記載の仕方に強力に反対して然るべき場合である。それにも拘らず、この記載方法につき組合が反対したと認めるに足る疎明はない。このことと、被申請人がタイトル契約者に対し、前記のように種々の点で他の従業員とは異つた取扱いをしてきた事実に徴すると、右証言及び本人尋問の結果はたやすく措信できず、他に右主張を裏づけるに足りる疎明はないので、申請人の右主張は採用することができない。

3  解雇権濫用

前認定のとおり、被申請人は経営不振に陥つたため、昭和四一年三月に事業規模の縮少を伴う再建案を作成し、同年六月には二五人の解雇を行い、結局、自主退職者等を含め一八二名に及ぶ人員整理を行うなど、本件解雇当時は正に企業再建のための努力をしている最中であつた。本件解雇も右企業整理の一環としてなされたものであることは、前認定の経過に徴して明らかである。これに対して申請人は、東京12チヤンネルに経営の破綻があつたとすれば、それは協力会費の不拠出が主たる原因であるところ、被申請人の役員、評議員の大部分は協力会会員となつた企業の有力者であるから、協力会は実質的にみて被申請人と同一視されるべき存在であり、結局、経営不振は被申請人自らが作り出したものである、また被申請人が誠実に企業の存立と維持を図る意思がありさえすれば、かかる事態は充分克服しうるものであつたのであるから、このような場合に申請人らを解雇することは許されないと主張する。

被申請人の役員構成及び経営不振に陥つた主たる原因が申請人主張のとおりであることは前認定のとおりである。そして前認定の赤字の額からすれば、もし毎月一億円の協力会費が当初から寄せられていれば、あるいは経営不振に陥ることもなかつたのではないか、少くとも人員整理という形で企業の再建を図るまでの事態に陥らなかつたのではないかとも考えられ、現に人員整理後毎月約一億円の協力会費が寄せられている事実に鑑みれば、かかる経営不振に至る前に毎月一億円の拠出を協力会員に求めることも決して不可能を強いることではなかつたものと推認される。しかしながら、被申請人と協力会員とが全く別個の法人格であることはいうまでもないことであつて、単に被申請人の役員の大部分が協力会員たる会社の社長又は副社長などの枢要な地位に就いているということのみをもつて、被申請人と協力会とを同一視し、協力会費の不拠出を主たる原因とする経営不振は被申請人自らが作り出したものであるとすることはできない。また被申請人は前認定のように、それなりに協力会費を集めるための努力をしているのであつて、実質的にみても協力会費が集らなかつた責任を被申請人に帰することはできない。

また、人員整理後東京12チヤンネルは娯楽番組をもとり入れて営業活動をし、一日の放送時間も漸次延長され、昭和四二年一〇月当時には一三時間を超えるに至つたことも前認定のとおりである。このことからすれば、客観的にみればあるいは申請人らを解雇しないで経営不振を克服する途はあつたということができるかもしれない。しかしながら、企業をどのように経営するかは本来経営者の自由に属するところであり、経営不振を打開するために経営者が採用した方針が客観的には誤つていたとしても、経営者がその誤りを認識しつつ、単に従業員を解雇する目的のためにのみその方針を採用したというような事情が認められない限り、企業再建の過程においてその必要上なした従業員の解雇はなお有効であるというべきである。そして、この必要性の判断に際しては、前述したような労働の従属性の強弱をも考慮しなければならない。

被申請人が申請人らタイトル契約者と契約を締結するに当つて、わざわざ別会社を作つてそれと契約させ、被申請人と直接に契約することを避けたこと、直接契約の形式になつてからも、申請人らの職員化の強い要求にも拘らず、前述のような種々の点で他の従業員とは異る取扱いをしてきたこと、殊に議事確認書によつて組合に対して「人員整理をしない」旨約した際にも、わざわざタイトル契約者を除外していること、申請人らはこれに対して強い不満を持つていたにしても、結局、これに応じてきたこと、申請人らの仕事の性質上、単純労働と異り、従属労働者として企業に雇傭されるよりほかに生活の資を得る途のないものではないことなどの事情を考えると、申請人らの労働の従属性の程度はかなり弱いものといえるのであつて、このような場合には、契約関係を終了することが権利の濫用とされる範囲は通常の雇傭契約の場合よりは狭いものというべきである。そして、本件解雇は、前認定の事実よりすれば、前記再建計画が事業規模の縮少を伴うものであり、それに従つてタイトル制作の業務も減少したので、タイトル契約者との関係を従前どおりにしておくよりは、これとの契約関係を解消し、以後は外注にした方がより有利であると判断して行つたものであると推認でき、そのような行為にでることは経営者たる被申請人の自由の範囲にあると考えられるからこれをもつて権利の濫用であるとすることはできない。

なお、被申請人は昭和四〇年六月一日の団体交渉の席上、人員整理をする意図はない旨言明し、その後も同様の言明をくり返し、前認定のような経過で、その言明を文書で確認する意味で前記議事確認書が作成されたが、そこではタイトル契約者は対象外とされていることを併せ考えると、右言明をしたにも拘らずタイトル契約者について人員整理を行つたという事情があつても、未だ信義則に違反し、又は権利の濫用であるということはできない。従つて結局申請人の権利濫用の主張は採用できない。

4  不当労働行為

申請人は、本件解雇は申請人の組合活動を嫌悪してなされたものであつて不当労働行為であると主張するので考えるに、申請人が行つた組合活動は前認定のとおりである。この事実からすると、未だ申請人が特に目立つた組合活動を行つたということはできないし、被申請人が申請人との契約関係を終了させるに至つたのは、企業再建のための一環として行つたものであること前述のとおりであり、申請人のみではなく、タイトル契約者全員に対して行つたものであることなどを考えると、他に特段の事情の認められない本件においては、申請人の組合活動を嫌悪してなしたものということはできない。従つて申請人の主張は採用できない。

四  結論

以上のとおり申請人の主張はすべて理由がないので、その申請を棄却し、訴訟費用については民事訴訟法第八九条により全部申請人に負担させることとして、主文のとおり判決する。

(裁判官 西山要 吉永順作 瀬戸正義)

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